「ママ閉店」はなぜ批判を浴びたのか 育児放棄と指摘する人々の価値観
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“ママ閉店”が議論を巻き起こしている。もともと母親の休憩をポップに表現する言葉として称賛の声が寄せられたが、「育児放棄だ」という批判も噴出してしまったのだ。


「母親が付きっきりでいるのが子供のため」ではない


発端となったのは、男性の育児ツイッタラーによる投稿だ。「ママ閉店」というのは、彼の妻が時々使う言葉で、いったん“閉店”すると家事や育児から離れて、子供にも自分をママではなく名前で呼ばせるのだという。日ごろ頑張る母親たちに“閉店”を勧める彼のツイートは、母親層を中心に大きく話題を呼んだ。

育児は24時間体制になりがちだが、ママ閉店のようなポップな表現が広まれば、母親たちが気軽に息抜きしやすい世の中になるかもしれない。しかし、ママ閉店を批判する声も一部で上がってしまった。

たとえば、「ママ閉店するならママ開業するな」「大変なことを承知で産むもの」「嫁がそう言ったらビンタする」など、母親たちが休息のために一時的にでも育児から離れること自体を責める内容の批判。まさにその「母親たるもの常に子供から目を離すな」という価値観こそが、世の母親たちを追い詰めているのだろう。
ワンオペ育児や密室育児が社会問題となり、「育児ノイローゼは虐待にまで発展することもある」という認識もすっかり当たり前のものとなった今、「母親が付きっきりでいるのが子供のため」とは断言できない。

また、忘れてはいけないのが、発端となったツイートを投稿したのは、母親ではなく父親ということだ。母親が“閉店”しても、父親が“開店”している状況に対して、育児放棄という指摘は成立しない。Twitter上では、ママ閉店への批判に対して、さらに批判が寄せられる事態となっている。

子供に“閉店”を伝えたら泣かれてしまう?


ママ閉店に対して、母親が休息をとること自体ではなく、子供側の心情をおもんぱかって問題視する批判もある。幼い子供は、自分の母親が“母親”を辞めてしまったと思って強いショックを受けるのではないかというのだ。
実際、子供にママ閉店を伝えたら、「嫌いになっちゃったの?」と泣かれてしまったというツイートもあった。「休息はともかく、母親にママと呼ばせないことはやりすぎではないか」といった指摘が寄せられている。

「ママ閉店」がこれだけ議論を巻き起こした大きな一因のひとつは、「『ママ閉店』と子供に伝える母親」と聞いて想像するイメージが、それぞれで大きく異なることかもしれない。「ママじゃありません。◯◯ちゃんです」と言われて、子供が「◯◯ちゃんなんだね!」と笑い出す光景をイメージする人間であれば、ママ閉店に対する批判の多くはピンと来ないものだろう。一方、「気分次第で母親が自分の“母親”であることを放棄してしまう」と怯える子供をイメージする人間であれば、ママ閉店に対して不安を覚えるかもしれない。


……結局のところは、「ショックを受けるかどうかは子供による」となってしまう。ママ閉店という言葉に自分の子供は動揺しそうだと感じたなら、受け止めやすい他の言葉を使ってもいいだろう。ママ閉店という言葉のキャッチーさで注目を集めたが、発端となったツイートの投稿者がそもそも伝えたかったのは「ママもたまには休んで」というメッセージなのだから。

(原田イチボ@HEW)