6月16日、「渋谷ヒカリエ」(東京都渋谷区)で開催されたイベント「ELLE WOMEN in SOCIETY(エル・ウーマン・イン・ソサエティ) 2018」で、フードエッセイストとして活躍する、平野紗季子さんの講演が行われました。

小学生の頃から食日記をつけ始め、フードエッセイスト・会社員として歩んできた平野さん。

彼女の働き方を通じて「自分の欲望を真摯に叶えてあげる」という意思が見えました。講演の一部をお届けします。

両方の立場から見える景色が面白い

現在は広告代理店での会社員とフリーランスの二足のわらじをはく平野さん。会社という組織で働くことと、個人で働くことの良い面、悪い面を次のように述べました。

「自分の名前を出して個人で働いていると、今日のようにみなさんの前でお話しする機会があったりまします。一方、会社員として仕事をする時には、その機会自体を作る、つまり誰を呼んでどんな話をしてもらうかという舞台裏に回ることになります。

また、文章を書く仕事は、すでに出来上がっている現象や事実に対して、自分なりにまとめあげることが主軸になりますが、会社員の立場では、その現象自体を作る側に回れます。

個人だと、好きな人に囲まれて好きな規模で仕事ができるという素晴らしいメリットがあるのですが、別の側面から見ると負荷をかけづらいというか、精神的に筋トレしづらい状況に陥りがちです。

不自由で負荷のかかる仕事をするメリットとして、気づくと大きく成長していることがあります。けれど、負荷がかかりすぎると疲弊してしまいますから、(耐えるばかりではなくて)いつでもやめられる、といった余白のある環境をできるだけ整えておくことが大切だと思います」

ただし、めちゃくちゃ忙しくなる

「ただ、めちゃくちゃ忙しいのは事実です。丸ごと1日休める日はほとんどありません。パラレルキャリアという働き方が自分にとってどうかというのは、タイミングとか、エネルギーが自分の中にあるかどうかですごく変わってくると思います。

私は食べることが好きという熱量があったことと、それを世の中に広げたいと思った時に、インターネットやSNSのツールに助けられました。さらに社会人になったことで、私が興味を持っていることが社会にどんな作用をしているのか、客観視できたというか。視野を広げられたのは、パラレルキャリアという働き方を選んだからなのかなと思っています」

パラレルキャリアに満足はしつつも、これからは働き方を変えようと思っているという平野さん。

「今、これからのことについて会社と話し合いをしています。会社の仕事を減らして、個人の仕事の領域をさらに広げて行きたいと思っています。

というのも、フードカルチャーのトピックは今すごく動いていて。

毎年いろんなものが出てきているんです。そういうものに触れるたびに『私は何がしたいのかな』と考えるようになりました。同時に、やりたいことがどんどん増えて、働き方のバランスを見直すようになりました」

やりたいことPDFを持ち歩く

当たり前のことを、会場に来ているみなさんに言うのも……と恐縮しつつも、平野さんは「とにかくやりたいことをやるのが大事」ときっぱり。

「私は『やりたいことPDF』という資料を作って常に持ち歩いています。こんな企画やイベントをやりたい、本を作りたいといったアイデアをスライドにして、パソコンとかスマホに入れているんです。そして、そういう仕事に関係していそうな人に会ったら、その場所でプレゼンします」

平野さんが、『やりたいことPDF』を作るようになった理由は「やりたいことを放っておくと、やらなくてもいいことに変わってしまうから」だそう。

「自分でも不思議だなと思うのですが、やりたいことって半年くらい放置していると、考えてみたらちょっとダサいし、やらなくてもいっかという感じになって、“やらなくてもいいゾーン”に行くんですよね。そのくせ、何年後かに『あれなんでやらなかったんだろう』と後悔することもあって。

でもその時にはもう、『やらなくてもいいこと』から『できないこと』になっていることが多いんですよね。私が書いた『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)という本も、23歳だから言えたこともたくさんあります。タイミングを逃したらできなくなることって、自分が思っている以上にあると思うんです」

自分の時間を生きていると思うには…

「でも決して、若い時にしかできないことがあると言いたいわけではありません。『今』しかできないことって、どんな歳でもあると思うんです。

10歳でも100歳でも、その時にしかできないことが絶対あると私は思っています。それは何かというと、『今やりたい』と思っていること。

オーロラを見たいでもいいし、あのお店のケーキが食べたいでもいい。とにかく今やりたいと思っていることを叶えてあげることがすごく重要で、それをサボっていると、気づいたら自分の意思に反する人から頼まれた“やらなきゃいけないこと”で時間が埋まっていってしまいます」

やらなきゃいけないというサイクルに入ると、他人の時間を生きている感覚になる、と平野さん。

「やりたいことのサイクルが作れると、自分の時間を生きているような感覚になれるなって私は思います。とにかく今やりたいと思っていることを、自分自身が真摯に叶えてあげることだけが唯一、誰のものでもない自分の時間を生きるための方法なのかなと思います」

「Women in Society(ウーマン・イン・ソサエティ) 2018」はファッションメディア「ELLE(エル)」(ハースト婦人画報社)が主催。

今年で5回目を迎えるイベント。今年は「私の未来設計図」をテーマに、スペシャルセミナーやワークショップを開催。

ゲストスピーカーとして、夏木マリさんのほか、テニスプレーヤーの伊達公子さん、建築家の永山祐子さん、芸術家のエマ・キャサリン・ヘプバーン・ファーラーさん、モデルのSHIHOさんらが登壇しました。

(ウートピ編集部:安次富陽子)