モネとドガ。かの有名な巨匠が描いたこちらの2点の絵画を、まずご覧ください。
共通点がひとつあるのですが、わかるでしょうか?


クロード・モネ《陽を浴びるポプラ並木》1891年 油彩、カンヴァス 93×73.5cm 国立西洋美術館(松方コレクション)
エドガー・ドガ《踊り子たち、ピンクと緑》1894年 パステル、紙(ボード裏打)66×47cm 吉野石膏株式会社(山形美術館寄託)

それは、どちらも日本の浮世絵師・葛飾北斎の絵から影響を受けた可能性が高いこと。くらべて見れば一目瞭然です。


葛飾北斎《冨嶽三十六景 東海道程ヶ谷》天保元-4年(1830-33)頃 横大判錦絵 ミネアポリス美術館
Minneapolis Institute of Art, Bequest of Richard P. Gale 74.1.237 Photo: Minneapolis Institute of Art
葛飾北斎『北斎漫画』十一編(部分)刊年不詳 浦上蒼穹堂

こんな「発見」を、研究者になった気分で追体験できるのが、2017年10月21日(土)から国立西洋美術館で開催される展覧会「北斎とジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃」。

19世紀後半、北斎が印象派の画家をはじめとする海外の芸術家に与えた衝撃と、そのパワーが西洋美術の新たな扉を開けた事実を、まざまざと感じさせる展覧会です。

名だたる芸術家が北斎のトリコに

「ジャポニスム」とは、19世紀後半に日本美術からヒントを得て、西洋の芸術家たちが作り上げた新しい創造活動を意味する言葉。西洋とはまったく違う美意識を持った日本美術は、絵画、建築、音楽、文学、演劇など、あらゆるジャンルに大きな影響を与えたと考えられています。

そんななかで、西洋人の目と心をわしづかみにしたのが、葛飾北斎の「冨嶽三十六景」シリーズをはじめとする浮世絵と、『北斎漫画』などの版本でした。


メアリー・カサット《青い肘掛け椅子に座る少女》1878年 油彩、カンヴァス 89.5×129.8cm ワシントン・ナショナル・ギャラリー National Gallery of Art, Washington, Collection of Mr. and Mrs. Paul Mellon, 1983.1.18 Courtesy National Gallery of Art, Washington

たとえば、印象派の女性画家として知られるメアリー・カサットの《青い肘掛け椅子に座る少女》。

ターコイズブルーの肘掛け椅子に、女の子が足を投げ出してだらんと座っています。大人たちの長話に飽きたのか、椅子が大きすぎて体がすべってしまうのか、椅子からずり落ちそうになっているこんな子どものしぐさ、現代でも見かけますね。

でも、当時の常識では幼い少女の絵というと、お行儀よくかしこまったポーズがふつうで、こんな格好で描かれることはまずありませんでした。そのため、北斎の絵をヒントにしたのでは? と考えられているのです。


葛飾北斎『北斎漫画』初編(部分)文化11(1814)年 浦上蒼穹堂

リラックスしすぎの布袋様のユーモラスな姿は、《青い肘掛け椅子に座る少女》のまさに反転バージョン。きちんとしたポーズで描かなくてもいい、こんな自然なしぐさだって「絵になる」んだ――という気づきを、カサットはこの布袋の漫画から得たのかもしれません。

この絵もそうなの? 発見の連続
ポール・セザンヌ《サント=ヴィクトワール山》1886-87年 油彩、カンヴァス 79.3×92.3cm フィリップス・コレクション、ワシントンD.C. The Phillips Collection, Washington, D. C.

ポーズだけでなく、北斎の構図を参考にしたと思われる名画もあります。

セザンヌを代表する《サント=ヴィクトワール山》の連作のなかの1枚。雄大なこの風景画も、遠景に主題となる山、中景に人が暮らす町並み、近景に樹木のアップという構図は、北斎の《冨嶽三十六景 駿州片倉茶園ノ不二》にそっくりです。


葛飾北斎 《冨嶽三十六景 駿州片倉茶園ノ不二》天保元-4年(1830-33)頃 横大判錦絵 オーストリア応用美術館、ウィーン MAK - Austrian Museum of Applied Arts / Contemporary Art, Vienna Photo: ©MAK / Georg Mayer

他にもゴーガン、ピサロ、ティファニー、ルドン、モロー、クレー、スーラ、ボナールまで......。

次々に「ほら、これも!」とばかりに提示される巨匠&北斎の共演には、「えっ、これも?」とびっくりの連続。いかに北斎が愛されていたかが作品から伝わってきて、同じ日本人として素直に嬉しくなってしまいます。

日本"発"で世界"初"の展覧会

北斎からの刺激を切り口にしたジャポニスム展は、日本"発"で世界"初"の試み。会場には西洋芸術の名作200点と、それらに影響を与えた北斎の錦絵約30点、版本約60冊が勢ぞろいします(会期中、展示替えあり)。北斎が西洋絵画に与えたインパクトの凄まじさには、驚くばかりです。

当時、伝統的な「型」から脱したいと模索を重ねていた西洋の芸術家が、北斎の絵画に出会ったときの喜びは、どれほど大きかったことでしょう。

「こんな視点があったんだ」「自分がやりたいことはコレだった」とばかりに、北斎から貪欲に新しいものを取り込み、自分たちのものにしていく彼らのエネルギーは圧巻。この展覧会の大きな見どころになっています。

最高のタイミングで出会った東西の芸術と、そこから生まれた「ジャポニスム」という現象のおもしろさに、見ているこちらもトリコになりそう。秋の展覧会シーズンが待ち遠しくなる展覧会です。

北斎とジャポニスム HOKUSAIが西洋に与えた衝撃

会期:2017年10月21日(土)~2018年1月28日(日)
開館時間:9:30~17:30(金・土曜日は20時まで。ただし11月18日は17:30まで)
※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし2018年1月8日は開館)、12月28日~2018年1月1日、1月9日
会場:国立西洋美術館(東京都台東区上野公園7-7)
観覧料:一般1600円