香りで想い出が甦る事って、たまにないだろうか。例えば、数か月前の私に実際にあった話。
街を歩いていると、元カノが使っていた香水がふと鼻によぎり、一気にアドレナリンが上昇。ブワッと毛穴が開いて、あらゆる場面が走馬灯のように……。不思議だ。香りが、私の脳内に作用したのか?

それとは違う次元の話かもしれないが、ちょっと興味深い商品が開発されたという。株式会社sanbongawa(サンボンガワ)が昨年の10月より発売しているのは、“香り”の力で脳の活性を促す知育玩具。その名も『はらぺこあおむしのいいにおい』(税込み2,100円)である。


これは、嗅覚を刺激して脳の活性を促すカードの玩具。視覚に頼らず、嗅覚のみでカードを当てたり探したり合せたりしながら遊んでいくという。香りは果物5種類(リンゴ、パイナップル、イチゴ、バナナ、オレンジ)があり、カードは全部で25枚。
まず、カードに果物の絵柄が描かれた“香りシール”を貼って裏返しておく。そこからの遊び方は様々だ。例を挙げると、カードから放たれる香りを嗅ぎ「これはバナナかな?」と予想して正解を当てる「香り当て遊び」。
複数枚のカードの中から指定の香りを探し出す「嗅ぎ比べ遊び」。同じ香りのカードを探し合わせる「香り合わせ遊び」。もっと発展していくと、すべてのカードを使って“香りで当てる神経衰弱”みたいな遊び方でも楽しめる。

ここで、素朴な疑問が一つ。嗅覚を刺激すると、そんなに知育に効果があるのだろうか?
「多くの教育研究者が、『幼いうちに脳に様々な刺激を与えなさい』と唱えています。授乳の際には毎回色の違う服を着るとか、色んな音を聞かせるとか、視覚、聴覚、触覚など様々な角度から刺激を与えるよう、工夫をされている親御さんもいらっしゃいます。
ただ、嗅覚からの刺激に関しては皆無に近い状況だったんです」(同社・川崎代表)
実は過去に化粧品会社でマーケティングや商品開発に携わり、香料との付き合いは長いという川崎代表。自分の子供の発育を考えているうちに「香りを使った知育玩具をつくりたい!」というモチベーションが生まれたそうなのだ。

そして、商品開発について。実は、かなり本格的に取り組まれている。埼玉大学脳科学融合研究センター教授である中井淳一氏と共同で研究を進め、NPO法人「香道と日本の雅文化会」の講師であり、香道家でもある青海光氏が同商品の遊び方の監修を務めたそうだ。
「青海先生は『香りで遊ぶことは日本に古くからある固有の素晴らしい文化です。
しかし現代の日本では生活の中から匂いが無くなっていき、無臭の状態が当たり前のようになってしまっている』と、嘆いていらっしゃいました」(川崎代表)
確かに、そうかも! 無臭の環境で育てていると「赤ちゃんに優しい」と思いがちだが、そこは刺激0の世界。伸びていくはずの能力をそのままにしていたとしたら、あまりにも勿体無いではないか。

そうして開発された『はらぺこあおむしのいいにおい』だが、これは何も幼児向けに限定された玩具ではない。
「香りを用いての遊びは、子供だけでなく大人にとっても初めての体験になります。日頃あまり使っていない嗅覚を刺激して脳を活性化させるということは、ご高齢の方のリハビリや頭の体操としても活用できると考えています」(川崎代表)
老人ホームなど、高齢者施設における展開も期待されているという。

実際、「香りを嗅いで『何の香りだろう?』と考えると、脳血流量が増加する」という効果も確認されているとのこと。
嗅覚についてはまだまだ未解明の部分が多いが、だからこそ注目の分野でもある。
嗅覚を刺激して脳の活性を促すことを目的とした玩具は、『はらぺこあおむしのいいにおい』が初めてだそうだ。
(寺西ジャジューカ)