素朴な疑問。自衛隊ってどれくらい強いのだろうか。
軍事費世界第5位とか最新兵器揃いだとか聞いたことあるけど……。外国の軍隊と戦闘したらどうなる? たとえば領土問題に揺れるあの国と戦争になったら?

『自衛隊vs中国軍』という本が出版された。著者であるかのよしのりは、補給部隊に勤めていた元自衛官。以前エキレビで紹介された『狙撃の科学』など多数の軍事書籍を執筆する事情通だ。

本書は『最新兵器データで比べる中国軍vs自衛隊』として2007年の10月に発行されたものを大幅に改定したもの。わざわざ書きなおしたのは、2013年度の中国の国防予算が2007年と比べて2倍以上にもなった(約3472億元→約7406億元)からだ。
急激な軍拡の行われる中国に対し、日本の自衛隊は十分な兵力を持っているのだろうか。
全5章構成となっており、第1章では中国の核戦力について論じられ、第2章で総論。残り3章で自衛隊と中国軍それぞれの陸上戦力、海上戦力、航空戦力を事細かに分析している。ピストルから戦闘機用の小ミサイルまで普段知りようのない兵器が写真や図説付きで解説されているので、兵器カタログとしても楽しめる。

著者の結論を先に言ってしまおう。
このままでは日本がヤバい

なにがどうヤバいのか、各戦力比較を簡単に紹介していこう。

――Round 1 陸上戦力

本書の解説を読む限り、陸上自衛隊は完敗だ。中国陸軍は、人数こそ40年前と比べて300万人から160万人と減った。だが一方の陸上自衛隊の定員は14万人。桁がひとつ違う。
質では勝ると見る向きもあるだろう。
しかし著者いわく、「陸上自衛隊が中国軍に対して質的に優っていたことなど過去から現在に至るまで一度もなかった
中国陸軍はひとり当たりの兵器の数を増やし、ハイテク化・精鋭化をすすめている。その結果兵士の人数が減っているだけで、実際にはその兵力は増しているのだという。

――Round 2 航空戦力

航空自衛隊の要はF-15イーグルというアメリカ生まれの戦闘機。今まで実戦で一度も撃墜されたことのない世界最強の機体だ。ましてや航続距離が短いために九州に来ることさえ難しかったオンボロ中国空軍。20世紀の末まで航空戦力は日本が圧倒していた。

しかし今ではその力関係も変わってしまった。中国はF-15イーグルを超える機動性を持ったロシアのSu-27/30フランカー(そのコピーJ-11)約200機と、性能秘密の最新鋭戦闘機J-10を約300機も配備している。
いまや数でも質でも負けてしまったのである。

――Round 3 海上戦力

島国日本にとって一番大切な海上戦力だが、これは海上自衛隊に分があるようだ。隻数でいえば、中国海軍の方が多いのだがそのほとんどが話にもならない旧式艦である。
これで安心と思いきや、著者は中国海軍もあなどれないほど近代化しつつあると警鐘を鳴らす。

日本のイージス艦には劣るものの、「チャイナ・イージス」と呼ばれる最新レーダーを積んだ「旅洋II型(052C型)」が3隻就役しており、9番艦までつくられる予定。さらに研究用とは言えロシアから中古の空母まで購入している。
そもそも現代の戦争において、一大艦隊決戦など行われることはない。多数の水上艦や潜水艦で海上を封鎖し、経済に打撃を与えることが重要。その点、中国海軍は十分驚異となりうる。海上自衛隊も相手の港を封鎖できるような攻撃力を充実させよ、と著者は主張する。


――Final Round 核戦力

通常戦力が中国に対して能力不足なのは事実。しかも中国は核保有国だ。日本やアメリカまで射程範囲に収める核ミサイルを何十発も持っている。
そのうえ夏型戦略原潜と晋型戦略原潜という、二種類の原子力潜水艦まで所有しているらしい。当然、原潜には日本を狙うことのできるJL-2ミサイルという射程8000キロメートルの核兵器が搭載されていて、本土の発射基地が壊された場合でも、海上のどこからでも150キログラムもの核弾頭の雨を降らせることができるのだ。
核の爆発前に迎撃ミサイルによって空中で撃ち落とすという防衛方法も論じられている。だが著者いわく、たくさんのダミーミサイルも発射されるなか、数十発の核ミサイルを全て撃ち落とすことは技術的に難しく、費用対効果も悪い。
さらに本書は、日米安保条約をも一刀両断する。
「核の傘などというものは裸の王様の服だ。人々がそこに立派な服があると言っているけれども、実はそんなものはないのだ」
だから、「何が何でも核装備しなければならない」のだそうだ。

本書は平和ボケに対する薬、とあとがきで著者は言う。安倍政権は防衛費を11年ぶりに増額する方針だ。
日本の兵力を拡大して、戦争への抑止力を高めるべきだというのが著者の主張である。だが、むやみな軍拡競争の果てにあるのは一触即発の緊張状態でもあることも確か。慎重を期すべき核武装論も含め、議論の端緒となる一冊だ。(HK 吉岡命・遠藤譲)