現在放送中のアニメ『月がきれい』(TOKYO MX 毎週木曜深夜12時~)がヤバイとじわじわ話題になっている。
「月がきれい」は男女が入れ替わらない「君の名は。」 深夜の恋テロアニメがじわじわ来ている
「イマココ/月がきれい」東山奈央/フライングドッグ

埼玉県川越市を舞台に、めちゃくちゃシャイな中学3年生同士の純愛を描く物語。
有名コミックやライトノベル、ゲームなどの原作がない完全オリジナルストーリーだ。

しかし、これがヤバイのである。放送中のツイッターのタイムラインには「あああああ」「今週も死んだ」「滅多打ち」「ベッドを殴って壊した」などの視聴者の悲鳴のような感想が並ぶ。みんな主人公たちの甘酸っぱい恋愛模様を見て身悶えしているのだ。恋愛とは縁遠い生き方をしている人も、かつては誰かに心を寄せたことぐらいあると思う。『月がきれい』はそのあたりの記憶を絶妙にくすぐってくる。
筆者はこれを“深夜の恋テロアニメ”と呼ぶ

電灯の紐でボクシング! ほとばしる中学生あるある


主人公は小説家志望の文系男子、安曇小太郎(演:千葉翔也)と陸上部に所属する体育会系女子、水野茜(演:演:小原好美)。2人はクラスで声も交わすことのできないぐらいシャイ。だけど、ふとしたことからお互いが気になるようになり、徐々に距離を縮めていく。

第1話のクライマックスは、小太郎の汚れた背中を茜がポンポンと手で払うシーンだった。はっきり言ってめちゃくちゃ地味である。だが、それがいい。
気になる女子にこんなことされたら、余計気になるに決まってる!

ちょっといいことがあると電灯の紐相手にボクシングをしたり、つい腹筋してしまう小太郎の姿が微笑ましい。ファミレスでお互いの家族が挨拶しちゃってめちゃくちゃ気まずくなるエピソードもあった。物語のあちこちに「中学生あるある」が詰め込まれている。

小太郎と茜は、深夜家族に隠れてLINEで会話を交わしたり、誰もいない早朝の図書室で秘密のデートをしたり……。キスなんてしないけど、ついに手をつないだ瞬間はやはりタイムラインが祭り状態になった。一方、ラブホテルに行くクラスメイトがいたりして、そのあたりは現代の中学生のリアルが反映されている。


『月がきれい』はアニメ版『中学生日記』


監督は『蒼き鋼のアルペジオ』シリーズの岸誠二監督。「『SF戦艦モノとか異能力モノしかできない』と思われるのもカチンと来る」と意気込みを語っている。フライングドッグの南健プロデューサーは本作についてのインタビューで「アニメ版『中学生日記』をやりたかった」とコンセプトを明かしている。

『月がきれい』には魔術もメカもハーレムも登場しない。緑色の髪の美少女や幼児のような女教師も登場しない。アニメならではのお約束が一切登場しないので、逆に誰でも容易に視聴できる。アニメの前提知識、文脈を共有しておく必要がないので非常にハードルが低い。


いわば『月がきれい』は、男女の入れ替わりが起こらない『君の名は。』だ。入れ替わりが起こらない『君の名は。』なんて面白いの? と思う人もいるかもしれないが、あの前半パートで瀧と三葉がそれぞれ高校生活を送るシーンを見るだけでグッときたという人は少なくない。筆者がAbemaTVの『君の名は。』特集に出演したとき、テレビ朝日の小松靖アナウンサーもそう言っていた。


小太郎と茜が懸命に中学生活を送りながら、恋の進展に一喜一憂する様子を見て、グッときていたり胸が痛くなる人も多いのだろう。美しい風景をはじめとした瀟洒な作画も両作品に共通している。

南プロデューサーは高校3年生の主人公たちの恋愛を描いたアニメ映画『たまこラブストーリー』を観て、背中を押されたと語っている。また、『君の名は。』が大ヒットしたときは「風が吹いている」とガッツポーズをしたという。『君の名は。
』を楽しめた人は、たぶん『月がきれい』も楽しめるはずだ。

本編で流れる恋の名曲を大胆予想!


『月がきれい』というタイトルは、夏目漱石が翻訳したとされている「I LOVE YOU」の和訳がモチーフ。小太郎が太宰治ファンの文学少年ということもあり、各話サブタイトルに文学作品の題が使われていたり、作中で太宰の言葉が引用されていたりする。

また、本編中にストーリーと歌詞が合った“恋”にまつわる往年の名曲のカバー(すべて主題歌を歌う声優の東山奈央が歌唱している)が流れるのも演出の特徴の一つ。洋画などではよく見られる手法だが、タイアップ優先の日本の映画、ドラマ、アニメでこのような演出は珍しい。

第3話では村下孝蔵の「初恋」が流れた。「放課後の校庭を 走る君がいた」という歌詞は、全力で走る茜の姿に心奪われた小太郎の心情を表すのにぴったり。ほかにも第5話で2人が初めて手をつなぐシーンでは、CHARAの「やさしい気持ち」が流れる。「手をつなごう 手を ずっとこうしてたいの」というサビの歌詞が有名だ。

第6話では離れた場所でそれぞれの試練に直面する小太郎と茜のシーンに、レミオロメンの「3月9日」がかぶさる。「瞳を閉じればあなたが まぶたのうらにいることで どれほど強くなれたでしょう あなたにとって私もそうでありたい」という歌詞のとおりの心情だったのだろう。

これからどんな曲が流されるかは明らかになっていない。ここで思い切って筆者が予想してみよう。スピッツの「チェリー」か小沢健二の「愛し愛されて生きるのさ」、どちらかでどうだろう。

前者なら超有名なサビ「“愛してる”の響きだけで 強くなれる気がしたよ ささやかな喜びを つぶれるほど抱きしめて」が、まだ周囲の状況に翻弄されがちな中学3年生の恋愛にぴったりだと思う。小太郎と茜が「愛してる」と言えるのかどうかもポイントだ。

後者なら「月が輝く夜空が待ってる夕べさ 突然ほんのちょっと誰かに会いたくなるのさ そんな言い訳を用意して 君の住む部屋へと急ぐ」なんてところが、LINEだけでは耐えられなくなって茜の部屋へ向かっちゃう小太郎のシーンに被さったりするのはどうだろう。「月」も共通してるしね。ちなみにこの曲は大人になってからの心情を歌っているのだが、『月がきれい』のエンディングには大人になってからもしっかり付き合っている2人が交わすLINEでの会話の画面が映し出されている。

余談が長くなったが、『月がきれい』は本日放送の7話からいよいよ後半戦に突入。公式YouTubeには1話から6話をまとめた総集編がアップされているので、未見の方はそれをチェックしてから本放送を観て、恋テロに身悶えよう!
(大山くまお)