原作は、大川ぶくぶの4コマ漫画。シュールで毒っ気多めのギャグとパロディが満載で、ファンからは「クソマンガ」と呼ばれ愛されている。
1月からスタートしたアニメは、「個性派クリエイターの競作によるバラエティ番組的構成」「30分番組だが、BパートはAパートの再放送」「主人公のキャストは毎週入れ替え」「AパートとBパートも主人公キャストは入れ替え」「主人公は一応セーラ服女子なのに男性声優も起用」といったさまざまな仕掛けで、原作の魅力をさらに拡大している。
企画・プロデュースを務めるキングレコードの須藤孝太郎プロデューサーのインタビュー前編では、「クソマンガ」を「クソアニメ」にするまでの過程や、制作中にメンタルをやられそうなほど悩んだことなどについて語ってもらった。
スタッフの間でも「早くオンエアしたいね」と話していた
──「ポプテピピック」は、放送開始直後から毎週のように話題を集めていますが、どの程度までが放送前から狙っていたり、予想していたりした反応でしたか?
須藤 アフレコの時、第1話や第2話くらいの段階から、スタッフのほとんどが大笑いしながら作っていたんですよ。キャストさんも笑っていましたね。身内ではあるけれど、この空間だけで、これだけ笑っているし、この作品は受けるんじゃないかという手応えはあって。
僕を含めてスタッフのみんなはAC部さんが大好きなので、第1話の放送前から「これは絶対ウケる! 間違いない!」と思っていたんですよ。でも、第1話の反響を見ると「AC部すげー」みたいな声はあまり見つからなくて。どちらかと言えば、「これは何だ?」という拒否反応的なものがあったんです。
──AC部の作品は劇薬なので、耐性や心の準備が無い初見の人は戸惑うかもしれないですね。
須藤 僕らは、以前からAC部さんの作品を観る機会が多かったんですけれど、意外と深夜アニメで観る機会はあまりなかったみたいで。視聴者の中に知らない方も多かったのは盲点でした。でも、ポプ子とピピ美の声に関しては、AC部のお二人が唯一の皆勤賞。今では、あの声が一番しっくり入ってくる感じになっているのが怖いなって思います(笑)。
──モザイクのかかっているへんないきもののところですね。
須藤 そうですね(笑)。
責任は取るので、クリエイターさんは自由にやってくださいという形
──原作の『ポプテピピック』を読んで、アニメ化の企画を進めていったそうですが、特に魅力を感じたのは、どのようなところなのでしょうか?
須藤 最初はLINEスタンプで興味を持って。それから原作本を買ったのですが、中指を立てている表紙はキャッチーだし、裏(の帯)を見ても「???」という感じで。こういうノリは好きだなって感じました。中身に関しては、パロディは知っているネタもあれば知らないネタもあるし、シュールだなって。手を叩いて大爆笑して「これを早く誰かに見せたい!」みたいな気持ちは一切なかったです(笑)。中身はそんなに無い分、アニメや映像にした時の可能性に満ちている題材という印象を受けました。
──制作スタジオがPVやOP&EDなどの映像に定評のある「神風動画」になったのはなぜですか?
須藤 どこにお願いしようかと考えた時、この作品は、毎クール深夜アニメを作られているような制作会社さんではなく、ちょっと独特の感性を持っている制作会社さんにお願いする方が面白いと思ったんです。神風動画さんには、2014年に僕がプロデューサーをしている上坂すみれさんのアルバム「革命的ブロードウェイ主義者同盟」を出した時、リード曲のMVを作っていただいていて。そのMVにはAC部さんも参加していただいていたし、そのラインにお願いするのは良いなと。
──神風動画は「ジョジョの奇妙な冒険」のOP(第1部〜第3部)のイメージが強く、オシャレでカッコ良い映像を作るスタジオという印象でした。
須藤 僕も同じ印象でしたよ。「ポプテピピック」は、絵柄や内容はゆるい感じで、情報発信の仕方とかもふざけたような感じですが、映像自体は、すごく真面目に作って欲しいと思っていたんです。神風さんは、アニメーションに対する技術や熱の入れようがすごいので、徹底した映像作りをしてくれるだろうなって。いろいろなクリエイターさんもご存知だったので、シリーズディレクターの青木(純)さんや、AC部さん、ゲームパートの山下(諒)さんたち、いろいろなクリエイターさんに声をかけて下さり、作品の幅も広がっていきました。
──神風動画が起用したいと提案してきたクリエイターに対して、須藤さんからNGを出すこともあったのですか?
須藤 一切ないです。神風さんが良いと思うクリエイターさんであれば、という形でお任せしていました。僕の方で枠組みを用意するし、何かあった場合の責任も取りますので、クリエイターさんは自由に好き勝手やってくださいという形ですね。
アウト、セーフのジャッジで悩むことも多かった
──須藤プロデューサーの立場として、制作時に一番大変だったり、気を使ったりしたことは何ですか?
須藤 大変だったことですか……。ゲームパートの山下さんは、神風さんが「すごく面白い子がいる」ということで紹介してくださったんですけど。この春、大学を卒業する学生さんなんですね。最初、山下さんが「作って来ました!」といって持ってきてくれた作品を会議室で見せてもらったら、完全に某カートレースゲームなんですよ。クオリティーがすごく高いこともあって、そのまんまなんです。さすがにそれは「山下さん、社会的に抹殺されたいですか?」みたいなツッコミを入れました(笑)。さっき、クリエイターさんには自由にやってもらっていると言いましたけど、山下さんに対しては、けっこうきつめに言っていた気がします。最初の頃は、「山下さんのオリジナリティを乗っけて、元ネタがかすかに臭うくらいにしないと、パロディとしては成立しないですから」みたいな話もして、相当やりとりしました。
──放送されている映像でも、元ネタを知っていればすぐに分かるクオリティーですが、最初はもっと直球だったのですね。
須藤 ただパロディとして成立するかどうかって、個人の感じ方にもよるじゃないですか。「これはアウト、これはセーフ」という明確な境界線は有るようで無い。でも、この作品では、そのジャッジを僕のところでしなければいけない。それがすごく難しくて。ゲームパートに限らずですが、すごく悩むことも多かったです。例えば、第2話でゲーム画面がバグって「0%」って出るところ。あれも知っている人には、すぐ元ネタが分かると思うんですけど。最初は、画面に出る文字のフォントや大きさとか、動きがそのまんま元ネタと同じだったんです。だから、「面白いけれど、動きは少し変えてください」とお願いしました。ゲームパート以外だと、第1話のモザイクがかかっているところと、第5話の(アバンの)映像が差し替えになっているところも判断が難しかったですね。クリエイターさんは面白いものを作ろうと思ってやってくださっているので、その気持ちも踏みにじれないじゃないですか。でも、第1話と第5話に関しては、シャレにならない事態になったらヤバいと思ったので、さすがに最終判断前に上司に見せたら、直さなきゃダメってことになったんです。その時は「逆にダメって言ってくれてありがとう!」みたいな感じでした。自分の判断だけで舵を取るには、ちょっと事態が大きすぎて。悩んだあげく、第三者の意見が欲しくて、占い師にでも会いに行こうかと思っていたぐらいなので(笑)。メンタルがダメになるんじゃないかと思いましたよ。
EDテーマのコンビは、本編で実現していたかもしれないコンビ
──原作の大川ぶくぶ先生も監修としてアニメ制作に参加しているそうですが、どのような方向性の修正が多かったですか?
須藤 どういう修正かまとめて言うのは難しいですけれど……。基本、「あれがダメ、これがダメ」とマイナスにするのではなく、より良いネタをプラスしてくださる形でしたね。先生のネタが加わると抜群に面白くなり、「ポプテピピック」ぽくもなります。例えば、第1話のパロディネタが次々に出てくるところや、第2話で僕が怒られた後の「お分かりいただけたであろうか」も先生のネタです。本当にいろいろなネタを持っている方なんですよ。
──ポプ子とピピ美の声優が毎回変更。しかも、Aパートと再放送のBパートでも声優が変わっているという仕組みが非常に話題になっていますが、ぶくぶ先生はキャスティング案も考えているそうですね。
須藤 ぶくぶ先生から、コンビでやってもらうと面白いであろう声優さんのリストをいただいていて。基本、そのリストの中から内容とスケジュールの合う方にお願いしていただきました。さらに、音響制作(出演声優のスケジューリングなども行う)を担当してくださっているグロービジョンさんもアイデアを出してくれているんです。例えば、第7話には赤ちゃんネタが入っているので「この回は、こおろぎさとみさんは、どうですか?」と提案してくださって。それは良いなって。
──某国民的アニメで赤ちゃん役をやっていますからね。
須藤 それで、第7話は、こおろぎさとみさんと矢島晶子さんにお願いしたんです。そういう風に、意外とストーリーに準拠していて。ぶくぶ先生のリストの中から、一番近しいネタになる人を選んでいる感じなんです。リストに入ってなかったコンビを僕の方から提案することもありましたが。あと、先生のリストの中で、この組み合わせは歌の方が良いんじゃないかなって思った方たちには、エンディングテーマをお願いしています。だから、エンディングテーマのコンビは、もしかしたら本編で実現していたかもしれないコンビでもあるんですよ。
──コンビのうち、どちらがポプ子役で、どちらがピピ美役かは、どのように決めているのですか?
須藤 最終的に、ぶくぶさんと話し合った上でオーダーをするんですけれども、何個か条件があって。一つは声優さんの見た目の雰囲気。背の低い方がポプ子で、高い方がピピ美というバランス感だったり。あとは、ピピ美はわりと落ち着いた感じで、ポプ子は叫びが入るような感じみたいなところですね。そういう意味で言うと、第3話の小松未可子さん(ポプ子役)と上坂さん(ピピ美役)は、逆だったかもしれないなって、現場でも話していました。
──私も、放送前にキャストが発表された時、ポプ子役が上坂さんで、ピピ美役が小松さんだと勘違いしていました、
須藤 もしかしたら、僕が(音響制作会社に)メールをする時に間違えたのかも(笑)。でも、小松さんのポプ子と上坂さんのピピ美も良かったし、これを言うとまた上坂さんに怒られて面倒くさいことになるので、黙っていました。
──放送が始まるまでは、小松さんと上坂さんがずっとポプ子とピピ美を演じるものだと思っていました。少しネタバレになってしまいますが、小松さんと上坂さんは、ラスト2話にも、もう出てこないのですか?
須藤 二人とも本当にもう出ません。でも、先日、「めざましテレビ」で「ポプテピピック」の特集をやっていただいた時、第3話の映像を貸し出したら、それが放送されて。テロップにも「人気女性声優コンビの小松未可子と上坂すみれ」と書かれていたんですよ。だから、まあ良かったんじゃないですかね(笑)。「めざましテレビ」に名前が出るなんて、すごいことですよ。
(丸本大輔)
後編に続く