DeNAラミレス監督のシーズン総括 前編

 今シーズンを、セ・リーグの2位で終えた横浜DeNAベイスターズクライマックスシリーズ(CS)では、同3位の阪神に1勝2敗で競り負けたものの、2年ぶりのAクラスに入った。



 来シーズンに就任5年目を迎えるアレックス・ラミレス監督は、今シーズンの結果をどう捉えているのか。昨年に続いて采配の疑問について質問すると、相変わらずの紳士的な口調でそれに答えてくれた。

DeNAラミレス監督が采配を語る。筒香の穴埋め、打順問題、投...の画像はこちら >>

インタビューに答えるDeNAのラミレス監督

――DeNAの監督に就任してからの4シーズンで、3位、3位(日本シリーズ進出)、4位、2位という成績を収めました。あらためて、ラミレス監督が思う「監督業の難しさ」を聞かせてください。

「『何が難しいのか』をパッと挙げるのが難しいくらい、監督業はハードでチャレンジの連続です。選手だった時は自分のことを中心に考えればよかったのですが、監督はチーム全体、すべての選手を把握しないといけない。
もちろん、相手チームの研究も必要ですし、試合では目まぐるしく変わる状況に対応して決断を下さないといけませんからね。とくに就任1年目は、選手たちに自分の考えを理解してもらうことに苦労した記憶があります」

――具体的に、どういった苦労があったのでしょうか。

「自分が打者として成功した経験から、『こうしたらいい』という考えを一方的に伝えてしまう傾向がありました。それを選手ができなかった時には、少しストレスを感じることもありましたね。しかし徐々に、選手それぞれの練習方法や特徴があることを理解し、長所と短所に合わせてアドバイスや起用ができるようになったと思います」

――それでは、今シーズンの采配に話を移させていただきます。まず攻撃面ですが、昨シーズンまで多用していた”8番ピッチャー”という打順が、今シーズンは少なくなった理由はどこにあるのでしょうか。


「”8番ピッチャー”という戦略は、7番に足が速い選手を置き、8番(投手)が送って、得点圏打率が高い9番でランナーを還すことを考えて採用していました。しかし今シーズンの開幕当初は、得点圏に強い選手に目処がつかなかったんです。途中から、大和がチャンスでいいバッティングをするようになったので、後半では彼を9番で使うことが増えましたね。

 また、キャッチャーが誰になるかでもオーダーを変えていました。うちは伊藤(光)以外のキャッチャーの足があまり速くないので、その選手が7番に入ると、塁に出てもバントでアウトになる確率が高くなってしまう。バスターエンドランなどもやりづらく、相手チームの一塁手と三塁手に猛烈なチャージをかけられてしまうんです。
そういったことを考え、8番をピッチャーにする試合でも、その前後の打者の組み合わせを柔軟に変えました」

――昨シーズン終了後に課題に挙げていた1番打者については?

「私は3割を打つよりも選球眼がよく、粘ることができて出塁率が高い選手を1番に置きたいと考えていますし、実際にそういった1番がいるチームは強い。その点、今シーズンの前半は神里(和毅)がよくやってくれました。彼の調子が落ち始めてからは、中井(大介)や乙坂(智)などを起用してみたのですが、結果は期待通りとはいきませんでした。乙坂に関しては、ファイティングスピリットがすばらしく、チャンスの場面での一打、勝負を決する場面での代打などで存分に力を発揮してくれる選手ですね」

――来シーズンに向け、どういったところを改善しようと考えていますか?

「得点数を上げることです。1番での出場が多かった神里の得点数は62。2番以降を打つ(ネフタリ・)ソトの82、筒香(嘉智)の74、(ホセ・)ロペスの69を下回ってしまいました。

他のチームでいうと、ヤクルトの山田哲人選手(102得点)や阪神の近本光司選手(81得点)のように、塁に出たら高確率でホームに還ってくる1番を確立しないといけません。

 神里に限った話ではありませんが、まずは出塁する意識を徹底させること。そして、二塁走者がシングルヒットで生還できない場面もありましたから、ベースランニングについても走塁コーチと相談しつつ、奄美での秋季キャンプから改善していこうと考えています」

――主軸に関しては、メジャーリーグ挑戦を表明した筒香選手が抜けることも大きな痛手となると思いますが。

「それは間違いないですが、レフトのレギュラーポジションが空くので、他の選手たちにチャンスが巡ってきます。今シーズンも佐野(恵太)、細川(成也)、楠本(泰史)などがいい活躍をしていたので、彼らのような若い選手の成長が期待できるという点では、プラスの要素もあると思っています」

――より”スモールベースボール”を意識したチームを作っていくことになりますか?

「大きな変化はないと思います。現代の野球は1番から5番までに強打者を揃え、初回から大量点を狙うことが主流になっています。
うちも例に漏れず、筒香を2番で起用することもありましたが、パワーヒッターの佐野や細川もその役割を任せられる選手です。楠本は足が速いので、彼を起用する場合は足を絡めた戦術もとれます。しかし、シーズンを”スモールベースボール”で戦い抜くというのは考えにくい。そこは状況に合わせてですね」

――続いて投手陣についてですが、三浦大輔投手コーチ(来季は二軍監督)の存在は大きかったですか?

「非常に助けになりました。選手と密にコミュニケーションをとり、いかに成長させるかを考えて実行してくれましたからね。ピッチャーの起用についても、試合前のミーティングでしっかり決められたので、継投などでバタつく場面も少なかったです。

もちろん、『こっちのピッチャーを出したほうがよかったのでは……』という意見の相違がまったくなかったわけではありません。しかし試合後にそれをフィードバックし、次の試合に生かすことができました」

――投手の継投は昨シーズンより改善された点があったということですね。

「そうですね。シーズン中の試合はオープン戦とは違って、生き物のように刻々と状況が変化します。その中で、どのピッチャーをどのタイミングで出すのか、回をまたがせるのか、投手交代後の守備はどうするかなど、さまざまなことを同時に考えなければなりません。昨シーズンは、相手の打者が早打ちをするなどして準備が間に合わず、予定していたタイミングより継投が遅くなって、そこで失点して負ける試合が何回かありました。それを反省し、今シーズンは準備を早めにさせるようにした結果、改善されたと思います」

――先発投手について、昨年のインタビューでは、相手の打順が3回り目になると球速が落ちるため早めに交代をさせると話されていました。それがリリーフ陣の登板の多さにつながっていましたが、今シーズンもあまり変化がなかったように感じました。

「リリーフ陣の登板数のバランスは考えないといけませんが、先発投手がペース配分をしてしまい、本来であれば150キロ近いストレートを投げられるのに140キロ前半にセーブして試合に入り、序盤で3、4点を取られてそのまま負けてしまうことは一番避けたいです。先ほども言ったように、上位打線にいいバッターが並ぶチームが多くなっているので、そのリスクはより高くなっています。

 今シーズンはリリーフとしても奮闘してくれましたが、石田(健大)は初回から全力で抑えにいってくれるピッチャーのいい例ですね。彼のようなメンタリティーで5回を投げ切ってくれたら、あとは継投での勝負になる。今では、いわゆる『勝ちパターン』『負けパターン』の境目がなく、ブルペン陣の総力戦で勝負を決することが多くなっています。先発投手はもちろん、リリーフ陣の整備をより進めていこうと考えています」

(後編につづく)