フォルトゥナ戦(12月7日)を前に、PSVは公式戦8試合で1勝5敗2分と不振を極めていた。しかも、ユトレヒトに0−3、AZに0−4、LASKリンツ(オーストリア)に1−4、スポルティング・リスボン(ポルトガル)に0−4と、目を覆いたくなるような大敗が重なっていた。



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フォルトゥナ戦で今季3ゴール目を決めた堂安律

 自ずとチームの雰囲気も悪くなる。前節、エメンと1−1で引き分けた試合では、堂安律がうまくスペースを作ってシュートを打ったが、ドニエル・マレンが「なんで俺に出さないんだ」と激昂。試合後、堂安はチームメイトに慰められていた。

 レフェリーに文句を言う、相手チームの選手にボールを強く投げつける、レイトタックルを食らわす、ファウルした相手選手を取り囲む……。こうした苛立ちの度が、エメン戦のPSVは度を越していた。

「見てもらったらわかるとおり、かなりひどい雰囲気です。
『なにがどうなってるんだ』『なにがおかしいんだ』と思いながらやっています。みんな、できることをやろうと練習で試行錯誤していますが、PSVは30代に近い選手がCBのふたりしかいない若いチーム。フローニンゲンより若い気がしています。

 それをどう乗り越えられるか、自分も含めていい時期にしたい。だけど、結果を残せないと続けて使ってもらえるかわからない世界なので、しっかりチームとして機能できるようにやっていきたいです」(エメン戦後の堂安)

 マルク・ファン・ボメル監督にとって、フォルトゥナ戦は「PSVが勝たなければ解任」というプレッシャーのかかった試合になった。エメン戦からフォルトゥナ戦にかけての1週間、堂安によると「トレーニングの雰囲気は”いい意味”で悪かった」のだと言う。


「みんなが思ったことを伝えるし、ちょっと喧嘩になるような雰囲気もあった。いい意味で悪い雰囲気というか、ギシギシした雰囲気でみんなバチバチしていた。監督がずっと吠えているような雰囲気のなかで紅白戦をしました」(フォルトゥナ戦後の堂安)



 ファン・ボメル監督も、「怒号も飛び交うような厳しい雰囲気があった」と述懐する。そのなかで若い選手たち(と若い監督)はチーム向上の手応えを掴んだことで、個々のリスペクトも生まれたのだろう。

 フォルトゥナ戦の彼らは相手チームを罵らず、レフェリーの判定にも異議を唱えることなく、チームメイトを励まし合い、黙々と自分たちのプレーにフォーカスし続けた。結果、8分に堂安が先制弾を決めたのを皮切りに、マレン、ステーフェン・ベルフワイン、モハメド・イハターレン、コーディ・ガクポと若きアタッカー陣全員が1ゴールずつ決め、PSVは5−0で快勝した。



「(いい意味で雰囲気の悪い練習があったからこそ)ああやって前半からアグレッシブなプレーができ、(相手チームへの)プレッシャーもすごい迫力だったと思う」(堂安)

「チーム内のピリピリした雰囲気を、チームの外に漏らすことなく振る舞い、サポーターの後押しもあっていい雰囲気でプレーできたのはすばらしかった」(ファン・ボメル監督)

 監督解任の可能性もあったフォルトゥナ戦は、PSVがゴールを重ねるごとにお祭り騒ぎとなり、81分には「PSVの英雄」イブラヒム・アフェレイが大歓声のなか、2年ぶりに公式戦に出場。窮地を脱したファン・ボメル監督には、現役時代と同じチャントが贈られた。それは、かつてPSVのホームスタジアムに漂っていたブラバント地域特有の懐かしく温かな雰囲気だった。

 堂安は開始6分、中盤を組み立てる起点となり、最後は左足でゴール左隅に流し込む会心のシュートを放ったものの、際どい判定でオフサイドを取られた。しかしその2分後、堂安はベルフワインのクロスを頭で合わせ、チームを勢いづける先制ゴールを決めた。

「(オフサイドで取り消された)ゴールの感覚がよくて、『いけそうだな』というのはあった。
キャリア初のヘディングゴールでした」

 そう言って堂安は笑った。

「(ヘディングゴールは)プロになってから初めて。小学校の頃は成長が早かったので、ヘディングも得意でジャンプしなくても(競り合いで)勝てた。でも、成長が止まってしまった」



 シュートバリエーションを増やすため、堂安はフローニンゲンにいた頃からヘディング練習に励んでいたという。

「それこそ本当に、今シーズンに入ってから(ヘディングを練習していた)。フローニンゲンではトップ下でプレーしていたので、クロスボールが多くなっているのを感じていた。

『得点を獲るために、得点のバリエーションを増やしたいな』と思ってトレーニングしていたので、よかったです」

 今から1年近く前、堂安はアジアカップで2ゴールを決めた。だが、「思うようなゴールではなく、得点パターンをもっと増やさないといけない」(4月6日のエクセルシオール戦後)と誓ったという。

 まずは、右からのカットインシュートを極めること。それを極めたら、今度は相手が中を切ってくるので、スペースの空いた縦に抜けてから右足でシュートを打つ技術も磨いた。そして今回、堂安はヘディング練習の成果を実戦で示した。

「右足で(利き足の)左足と同じ得点数を獲るのは無理なので、バリエーションがほしい。
たとえば、左足で5点、右足で1点、ヘディングで3~4点獲れれば、シーズンふたケタ得点に近づくなと考えたりします」(フォルトゥナ戦後の堂安)

 フォルトゥナ戦、堂安は右サイドからファーサイドに低く巻くようなクロスを蹴っていた。それはまるで、アヤックスのハキム・ツィエクがファーポストに走り込むクインシー・プロメスをめがけて蹴る鋭いクロスを彷彿させた。

「得点だけじゃなく、しっかりアシストもつけられるのが自分の特徴だから、そこは今年からこだわろうと思っているところ。ツィエクのプレーもよく見ています。監督からも、あのプレー(ファーに巻く低くて強いクロス)はすごく求められている。ミーティングでもずっと見せられるくらい。(味方がボールに)触らなくてもゴールに入るぐらいのイメージです」

 堂安はかつて、「サイドアタッカーで参考にしている選手はたくさんいるので挙げきれない。ただ、右サイドで俺と似ているタイプはいないので、いいところを盗んで参考にしています」と言っていた。

 オランダリーグ第16節を終えて、堂安の個人スタッツは13試合に出場して3ゴール1アシストと、思うように伸びてない。しかし、フォルトゥナ戦のようなパフォーマンスが続けば、チームの成績と同様に個人成績も自ずと上がっていくだろう。