メンフィス・グリズリーズと2ウェイ契約を結んでいる渡邊雄太にとって、2020年が極めて重要な年になる。2年契約の2年目を迎え、念願の本契約ゲットに向けてこれからが正念場。

今季は下部リーグ(Gリーグ)で好調なプレーを続けているが、NBAでの出場は4戦のみにとどまっており、後半戦での頑張りが注目される。

 さらに東京五輪でも、ワシントン・ウィザーズで活躍する盟友・八村塁とともに、”史上最強”と呼ばれる日本代表チームでの活躍も期待されている。1月16日、そんな渡邊をメンフィスに訪ね、自らのキャリアでハイライトになるだろう2020年にかける思いと意気込みをじっくりと話してもらった。

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グリズリーズと2ウェイ契約2年目で、Gリーグのハッスルでプレーする渡邊

――プロバスケットボール選手としての2年目のシーズンも、前半戦を終えようとしています。ここまでを振り返っていかがですか。

「まだまだ改善点はありますが、Gリーグでは自信を持ってプレーできていますし、自分でも成長が見えています。
今はあまりNBAからコールアップされていないですけど、上でもやれるビジョン、イメージはできてきているんです。もちろん焦りがないといったら嘘になります。ただ、(NBAから)呼ばれている回数が少ないからといって、バタバタしているといったことは全然ないです」

――Gリーグでは平均16.2得点、5.5リバウンドと渡邊選手の成績がいいだけでなく、所属するメンフィス・ハッスルも19勝6敗と好調です。プレーを見ていると、気分よくやれているのかなという感じがします。

「今はGリーグでのプレーもすごく楽しいんです。そこでやっていることに対しての苛立ちは一切なく、単純に楽しんでバスケットボールができています。
NBAにコールアップされたらされたで、グリズリーズもすごくいいチームになっているので、そこでもいい時間が過ごせています」

――数字を見ると、昨季は43.4%だったFG(フィールドゴール)成功率が今季は53.9%と高まっているのが目を引きます。ミッドジャンパー(中間距離からのジャンプシュート)が好調なのでしょうか?

「去年はどちらかというと打たされるシュートが多かったんですけど、今年は自らフリーになるタイミングを見つけて、味方選手に合わせることができています。ドリブルから持っていくにしても、いい形で打てているので、そこが高確率につながっているのかなと思います」

渡邊雄太が語るNBA本契約と東京五輪。八村塁のすごさにも言及した

現地を訪れた両親と

――具体的に、どのあたりが「成長できている」と感じますか?

「今はコート上ですごく余裕があるんですよ。それは昨季の後半あたりから徐々に出てきた部分。そのあとにサマーリーグなども経験して、『自分はこのレベルでできる』という自負があるので、落ち着いてのびのびとプレーできている気がします」

――そういったお話を聞くと、どうしても「NBAでも」と思ってしまいます。今季、なかなかコールアップされていないのは、チーム状況も関係しているのでしょうか?

「グリズリーズはあまりケガ人が出ていないですし、優先されるのは本契約の選手になります。
チームもうまく機能しているので、なかなか入っていくスキがない。それでも、チャンスがくればモノにできる自信はあります」

――課題については、これまでずっと「フィジカルの強化」と「3ポイントシュート」の精度でしたが、そのふたつは変わっていないですか?

「はい、そのふたつさえできればという感じです。今シーズンは、味方がドライブした時にカットして合わせるプレーがうまくなったと思っていて、そういう部分はNBAでも通用すると思っています。自分がゴール下に切り込むことによって味方選手をフリーにしたりとか、そういったプレーをGリーグのコーチもすごく評価してくれています。

 あとは3ポイントをしっかり決めて、フィジカルをさらに強くすれば、NBAでもローテーション選手としてやれるだろう、という気持ちはあります。一時期、3ポイントシュートの確率がよかったんですけど、最近は落ち始めているので、そこは去年同様にしっかりやっていかないといけません」

――2ウェイ契約を結ぶと、Gリーグで活躍しても所属チーム以外からコールアップされる機会はなくなります。
「2ウェイ契約の難しさを味わっている」という指摘もありますが、ご自身ではどう思いますか。

「『2ウェイ契約でなければ、他のチームから呼ばれているんじゃないか』といった周囲の声は聞いています。ただ、僕は2ウェイ契約だからこそ、去年から継続してプレー時間をもらえたと思っています。グリズリーズは僕を成長させたいと思って、2ウェイ契約を与えてくれたんです。2年という期間をくれていることに感謝していますし、自分が成長できたのは2年間やってきたおかげだと思っています。僕は『2ウェイ契約じゃなかったら』と思ったことは一度もないですし、チームには感謝しかないです」

――本契約を結ぶためには、これから何をやっていけばいいと思いますか? 自分の力だけではない部分もあると思いますが……。

 

「正直、運も絡んでくるとは思います。ただ、運を手繰り寄せるためにも、まずはGリーグで結果を残すことが大事。今はグリズリーズでお世話になっているのでこんなことを言うのは何ですが、仮にグリズリーズでうまくいかなかったとしても、この夏にFAになって他のチームにいく可能性はあると思っています。だから今はコールアップされてなくても、Gリーグでやるべきことをやっていれば、絶対に何かしらの形で本契約につながるはずです。あとは僕の努力次第。結果を出すだけですね」

――今季のここまでのハイライトを挙げるとすれば、やはり八村塁選手と対戦したウィザーズ戦での”史上初の日本人対決”でしょうか? 

「日本人選手がNBAのコートで対戦したということで、みなさんが盛り上がってくれたのはありがたいです。
ただ、自分のプレー時間が短かったので、『もっともっと試合に出てやり合いたいな』と思いました。僕にとっては悔しさが残るゲームでもありましたね」

――八村選手、馬場雄大選手(Gリーグのテキサス・レジェンズ所属)とは連絡を取り合っているんでしょうか?

「ちょくちょく連絡は取り合っています。雄大はこの間、ラスベガス(のGリーグショーケース)でずっと一緒でしたし、彼も彼でいろいろ苦労しながら頑張っています。Gリーグでやるのも大変なので、報われてほしいですね。

 塁もケガで離脱して、しんどい思いをしているんじゃないかなと。周りから見るとNBAは華やかに見えますけど、実際にやってみると過酷な環境です。中にいないとわからないしんどさというか、そういうのってありますよね。僕と雄大はまだGリーグですけど、厳しい世界で3人がやれていることはすごいんじゃないかなと思います」

――厳しさを知る渡邊選手から見て、八村選手が早い段階から結果を出していることをどう思いますか?

「あのレベルで活躍することを目指している僕からしたら、彼がやっていることは本当にすごいです。当然、(1年目から)長く試合に出るだろうし、その中で彼のよさが出てくるだろうと思っていました。ただ、いきなり遜色なくプレーし、好調時にはクリッパーズを相手に30得点を挙げたりと、『日本人としてすごい』というレベルを完全に越えて『NBA選手としてすごい』という位置に到達してますよね」

――今年はNBAプレーヤーとしても重要な年であり、同時にオリンピックイヤーでもあります。ずっと目標にしていた2020年を迎え、今年にかける思いは湧き上がってきていますか?

「うーん、オリンピックは漠然としていた部分があって、気づいたら2020年になっていたという感じでしょうか。今は自分の目の前のことに必死。実は、あまり東京五輪が近づいているという実感がないんですよね」

――それでは、ここであらためて考えていただいて、東京五輪においてどんなことを成し遂げたいですか?

「プレップスクール、大学とアメリカで過ごしたので、これまではなかなか日本でプレーする機会がありませんでした。日本のお客さんの前でプレーできる経験は貴重です。両親、友達、恩師、ずっと応援してくれている人たちのためにも、いい結果を残したいです。日本代表の力は絶対についてきています。五輪はワールドカップよりもさらに高いレベルのチームしか出てこないので、簡単ではないですが、今はしっかりとそれぞれがやることをやって、オリンピックで結果を残したいと思っています」

――八村選手、馬場選手といった”アメリカ組”も参加し、「現在の日本代表は史上最強じゃないか」という声も高まっています。そんなチームが迎える東京五輪は、日本バスケにとって重要な舞台になるという考えはありますか?

「ワールドカップでもそうでしたが、周囲の期待は感じています。当然、勝てばすごく盛り上がると思いますし、それが日本の将来にもつながっていくと思います。しかし負けたら、『やはりこんなものか』と思われてしまいますよね。周りの声を気にしすぎてもしょうがないですけど、日本のバスケを盛り上げたいと考えるひとりとして、いい結果を残して、日本のバスケがもっと盛り上がればと思っています。そういった意味で、責任を感じてやっていかないといけませんね」

――それでは最後に、2020年の目標を教えてもらえますか。

「まず個人としては、グリズリーズとの2ウェイ契約は今季で終わりなので、何とか本契約を勝ち取りたいです。東京五輪に関しては、さっきは『まだあまり考えられてない』とは言いましたけど、やはり楽しみにしています。お世話になった人の前でプレーして、今までの恩返しができればいいですね。2020年は僕のバスケ人生の中で一番大きな年になるんじゃないかなと思っています」