飲食店を制覇するHS印、「ササキハードストロング」って“だれ”だ?
これがその「HS」マーク。そば屋やラーメン屋で、お冷ややビールが運ばれてきたとき、グラスの底を見てみてください。かなりの率でこのマークにお目にかかれます。ちなみに左がHSの元祖、「01108HS」。右が定番中の定番「00345HS」です。
飲食店に行くたび、昔からずっと気になっていた存在。それは、底部に「HS」「SASAKI HARD STRONG」の文字が刻まれたグラス。

こじゃれたカフェなんかでは「DURALEX」というフランス製のグラスをよく見るが、ラーメン屋やカレー屋、そば屋などでは圧倒的にハードストロング占有率が高い。
意識し始めると気になって仕方ないもので、見かけるたびに友人などと、
「またかよ! ササキ!」「だれだよ、ササキ!」などとツッコミを入れていた。
ハードでストロングな佐々木。マッチョなプロレスラーみたいなイメージだ。

調べてみると、これは「東洋佐々木ガラス」という会社の業務用グラスだということがわかった。取材を依頼すると、営業企画部の川瀬課長が対応してくれた。


「いつからあると思います? なんと昭和42年からなんですよ」
ネーミングはズバリ、「かたくて強い」という意味。気になる飲食店業界での占有率は、
「強化ガラスとしては、全国の飲食店の半数以上で『HS』が使われています。ご指摘のように、DURALEXさんはカフェなどで多いですが、昔ながらの喫茶店、そば屋、ラーメン屋、日本料理店などはたいていHSですよ」
ただし、HSも最近はデザインが豊富になり、居酒屋、ダイニングなど広い業態で使われているという。

それにしてもなぜHSがこんなに広まったのか。実は、過去にヨーロッパ経由のグラス全面を強化する「全面強化ガラス」の製品が突然割れるという問題が多発したことがあった。
「グラスで割れやすいのは、圧倒的に口の部分。
それで、当社では口の部分からグラデーションで強化をかける工夫をしたところ、強化加工を施しながら、突発的に割れず、破損時に普通の割れ方をする製品ができたんです」
「待ち望まれた製品」として、当時、新聞等が取り上げ、一気に全国に普及したのだという。業務用グラスの使命は「長く安心して使えること」。当然の普及だったのかもしれない。

それにしても、1つの製品がこれだけ長い寿命をもつというのは、珍しいケースだが、
「たとえば、客数20くらいの店の場合、グラスはその2〜3倍、40〜60個くらい置くのが普通です。でも、何個か割れて補充しようとしたとき、なくなってしまったら、いちから買い直さなきゃいけないことになりますからね」と川瀬さんは言う。

いまでは全部で250アイテムほど。
それぞれ通称があるが、一番の定番「00345HS」だけは、通称がない。それは、お客さんの間であまりに定番になっているからだとか。
「お客さんが『345ください』と電話してくるんですよ。車の通な人が、車種を型番で呼ぶような感覚ですよね」
ちなみに東京の合羽橋や大阪の道具屋筋で買えるほか、百貨店でもメーカー名と型番を言えば取り寄せてもらえるそう。じゃ、私もこんど、通ぶって言ってみようかな。
「HSの345ください」って。

(田幸和歌子)