
商売繁盛を願い、熊手を売る露天商で賑わう新宿花園神社の酉の市。そこで年に一度だけ、見世物小屋が開かれるという。かつては、日本にも多くの見世物小屋が存在し、お祭りやイベントなどの度に出店していたそうだが、時代と共に影をひそめ、今では全国でも1社か2社のみらしい。その数少ない興業が開かれるのが、この酉の市なのである。これから観るであろう「蛇女」に心躍らせながら、立ち並ぶ旨そうな屋台は全てスルー。やがて目の前に妖艶な光を放つ建物が現れた。その異様な光景に一瞬ひるむ。しかし、軽快な口上で客を誘うオバちゃんに目で落とされ、いざ中へ。
小さな小屋いっぱいに入った観客の視線は白装束の女性へ注がれる。顔を真っ白に塗った年配の女性と若い女性。「きっとどちらかが蛇女に違いない」そう確信し、なぜか少し動揺。
「蛇女」の他にも、溶かしたロウソクを口いっぱいに流し込み火を噴く「ロウソク女」や、ガラスを突き破る「超能力蛇」など、様々な芸が続く。ほとんどの人は蛇女目当てなのか、他の芸半ばにして小屋をたつ。きっと最後と言われる「蛇女」を目に焼きつけたかったのだろう。勝手な推測でしかないが、「蛇女」はそれだけ強烈なインパクトを放っていた。
小屋を出る時、口上のオバちゃんに「来年はやらないのですか?」と聞いてみると、「もう出来ないかもね、まぁ来年出来たらまた観に来てよ」と笑顔で返してきた。
想像を絶する究極の芸「蛇女」。電撃ネットワークもビックリなこの芸に、なぜか哀愁漂う昭和を思い出したのは私だけではないでしょう。奇妙な光景を見たにも関わらず、出てゆく観客はみな満面な笑顔だった。
(木南広明)