「遅刻する“食パン少女”」は少女マンガに実在するか
ドジッ子が食パンくわえて「ちこくちこく〜!」で、男の子とドシン。ド定番のようですが、探すと意外にないもので。
「ドジでマヌケな主人公の女の子が、食パンくわえて、『ちこく、ちこく〜!』と言いながら走り、角で転校生と衝突! 怒鳴られて『なに、アイツ!? イヤな感じ〜』などと言いながら、後には恋に落ちる」……。

これは、少女マンガの典型的な出会いのシーンとして、パロディなどでもよく用いられるパターンだ。
かつて、相原コージ・竹熊健太郎の『サルでも描けるまんが教室』の「ウケる少女まんがの描き方」でも、ウケる少女マンガの出だしとして、このパターンが研究されていたりもしたが、実は、実際に「あのマンガもそうだな」という具体的な作品を知らなかったりする。

はたして本当に「『ちこくちこく〜』の食パン女」は少女マンガに存在するのだろうか。

疑問に思い、マンガ喫茶に行き、「なかよし」「リボン」「ちゃお」「マーガレット」「KISS」などの少女マンガコミックを検証してみた。
調査対象は、上記の中から85作品。それぞれのコミックス1巻、主人公と相手役が出会うシーンのみを調べてみた。

まず「ちこく、ちこく〜」とハッキリ言っていたのが、『永田町ストロベリィ』や『十二字でつかまえて』など、わずか5作品。
思いのほか少ない。
主人公か恋の相手、いずれかが転校生というのは、『いるかちゃんヨロシク』『H』など4作品で見られたが、やはり少なめ。

他に出会いのパターンとしては、「エレベーターの中」「電車の中」などの密室系、「占い師に町で突然『あなたは運命の人に会うでしょう』と言われる」「1人暮らしを始めたつもりが、不動産屋のミス(すでに倒産)で同じ部屋に見知らぬ人が! (これは『NANA』にもみられる)」などのハプニング系が多く見られた。

さらに、事故がきっかけというパターンも3作品で、「後ろからチャリにひかれ、そのひいた相手と」恋に落ちたり、「木やベランダから落ちて、相手役に受け止められて」恋に落ちたり、カバンを振り回して相手役にぶつけ、にもかかわらず恋に落ちるなどのパターンが7作品あった。

少女マンガの出会いのパターンを振り返ると、必要なのはやはり「ちょっとドジ」で、落ちたり踏まれたりというハプニングを自ら巻き起こす「ちょっと迷惑気味」な性格のようだ。
これって、いまだに女性誌で「スキのある女性のほうがモテる」とかいう特集をしてたりするが、根本的な理屈はこれと同じなのかも。


ただし、残念ながら、「食パン+ちこく+衝突+恋」のパーフェクトパターンは、85作品中ゼロだった。
惜しくもホールインワンは逃したが、二アピン賞に輝いた『ようこそ! 微笑寮へ』(あゆみゆい)のご紹介で、今回は締めとさせていただきます。
「いっそげいっそげ /おくれるおくれる しょっぱなから遅刻なんてまっぴらゴメンだもん→べしっ(サッカーボールが頭にあたる)→……った〜、〜たく、だれよっ、危ないじゃない!→(サッカーボールにMAKOTOの名が)→……マ・コ・ト……?」
(田幸和歌子)