
「この街、酒屋だらけなのか?」
というのは、造り酒屋の軒に「今年も新しいお酒が仕込めました」というしるしの、「杉玉」、これがあっちにもこっちにも、そこらじゅうの軒先にぶらさがっているのである。
この杉玉、杉の葉で作るもので、くす玉というか、巨大マリモ的というかの、玉。酒屋か居酒屋の軒先でぶら下がっているのを見かけることもあるはずだ。この玉の色が明るい緑から、茶色に変わってきたころが、「そろそろお酒の呑みごろです」というしるしだ。
そんな杉玉が、別に酒屋でもない、ごくごく普通の民家の軒先に、ぶらさがっている。
智頭町文化・まちづくり推進室の山中章弘さんに、理由をたずねてみた。
「この町に来られる方への“おもてなしの気持ち”、これを表すには何がいいかと町ぐるみで考えまして、杉玉がいいだろうということになりました」
そんなわけで5年ほど前、この街の特産品が杉ということもあって、住民にお願いしたところ、このようになったのだという。
なかには、この変形版とでもいうのか、フクロウ型の杉玉をぶら下げている民家もけっこうある。これがけっこうカワイく見える。
通りがかった「杉玉工房」という場所では、職人の男性3人が、ちょうど杉玉の製作中だった。
ワイヤーでできた芯に、青々とした杉の葉をひとつずつ押し込んでいき、葉先をカットして整え、綺麗な球形にしていく。
フクロウ杉玉は、職人さんのうちのひとり、西垣さんが考案したものなのだそう。
「私しか作れないんでね」
そんなわけで、フクロウ杉玉が見られるのは、全国でもここだけということなのだ。
この工房では、杉玉の販売や、製作体験も行っているそう。みやげにちょっといいなあ、ベランダにでもぶらさげると、酒がうまく呑めるかなあと、ちょっと思ったり。すると、
「思いつきで買って持って帰るには、ちょっと大きいんだよねえ」
ぶっちゃけ話で返されました。
ストラップとかキーホルダーとか、手ごろなミニチュアでも作ってくれれば、きっと買う、オレは。で、眺めながら新酒でも呑むか。
(太田サトル)