イクラちゃんの言葉は原作でも「ハーイ」程度か
衝撃! イクラちゃんは全集版22巻内で、ほとんど言葉を発していなかった!
『サザエさん』の永遠の“あかんぼキャラ”「イクラちゃん」。彼のマネをさせたら、おそらく8〜9割の人が「ハーイ」「ちゃーん」「バブー」と言うのではないだろうか。


だが、これはアニメ的な「あかんぼ記号」なのではないかと、以前から睨んでいた。原作のカツオはかなりウィットに富んだ機転のきくナイスガイだし(※個人的感想)、ワカメちゃんも、もっとオテンバでお茶目だった記憶がある。
イクラちゃんも、原作では案外、おしゃべりだったり、黒いことを言ったりしてるんじゃなかろうか?

そこで今回は、『長谷川町子全集サザエさん』(1〜22巻・朝日新聞社刊)を元に、イクラちゃん言語を追ってみた。
早々につまずいたのは、作品序盤は、サザエがまだ独身の設定だったということ。イクラどころか、マスオもタラちゃんも当然存在しない。そういや、そうだった……。

また、アニメと違い、4コマで見せるので、何しろセリフが少ない! イクラちゃんの快活な喋りは聞けるのだろうか……。

肝心のイクラちゃんは登場する由もなく、5巻にいたってもノリスケはまだ独身で居候中。気まぐれに掃除をしてみたり、見合いをすすめられてマスオと結婚観について激論、結局見合いをしたものの、見事玉砕したり。
6巻に入り、ちょっとステキな女性とノリスケが雨宿りするシーンがあり、女性に趣味を聞いたり、ほのぼのしたシーンの次に、なんと翌日、デパートで偶然再会! 「やっと運命?」と思ったが、その女性はその後登場することがなかった。あれ? 肩透かし?
しかし、後半で、火鉢を囲んで見合いしてるうち、共に「一酸化炭素中毒」で倒れた女性と、イイ感じに。なんと、これこそが運命の女性・タイコさんだった。


ここからはもう結婚→新婚旅行と、とんとん拍子。そして、8巻でついに、イクラちゃんが誕生!
初めての言葉(?)は、サザエさんが離乳食をあげるときの「ハークション」だったが、一方、タラちゃんもこの時点でまだ言葉を発していない。
15巻にいたっても、イクラちゃんはベビーベッドで泣いているだけで、タラちゃんは「なーに?」「インスタントラーメン」などの言葉を獲得した程度。

20巻になると、禁煙でイライラする波平の背中に、同じく牛乳をとめられてイライラのタラちゃんが蹴りを入れる衝撃的反抗シーンが登場するが、やはりイクラちゃんは言葉を発していない。
21巻には登場ナシ。最後の22巻で、イクラちゃんは言葉ではなく、声でオムツを知らせるという、わずかな成長を見せるのみであった。


黒いことを言うどころか、最後まで言葉らしい言葉をひとつも発していない原作上のイクラちゃん。
「他人の子は成長が早い」とよく言うけれど、イクラちゃんの歩みの、なんとゆっくりなことか。
「ハーイ」、「ちゃーん」、「バブー」は、その先のイクラちゃん、というかアニメ板なのです。
(田幸和歌子)