マンガの「扉絵」、ある・なし問題
ここにあるマンガ雑誌には、100%最初のページに扉絵がありました。
昔のマンガを読んでいると、律儀にきっちり、最初の奇数ページに扉絵を入れているものが圧倒的に多いことに気づく。
試しに、我が家で保管してあった、昭和50年7月28日号の『週刊少年ジャンプ』、昭和55年8月18日号『週刊少年ジャンプ』、平成5年5月6日+13日合併号『週刊少年チャンピオン』を見てみると、扉絵が最初の奇数ページに入っていた率は、なんと100%! 全部が全部、最初のページにきっちり1枚絵の扉絵を入れていた。


対して、最近の号の比率(9月21日現在)を見てみると……。『週刊少年ジャンプ』は、最初のページに扉絵があるのが、47.6%で、途中のページにあるのが28.6%。扉絵がないのは23.8%(巻頭カラーは、見開き扉が多いので除く。以下同)。
『週刊少年サンデー』では、最初のページの扉絵が60.9%で、途中が39.1%、扉絵ナシはゼロ。
『ビッグコミックスピリッツ』は、最初のページが47.6%、途中のページは28.6%、扉絵ナシは23.8%。

『ヤングマガジン』は、最初が42.3%、途中が15.4%、扉絵ナシが42.3%。マンガ雑誌によって割合は異なるが、きっちり最初のページに扉絵を入れるのは、いずれも半数以下である。
ちなみに、以上の中で、最も扉絵が後で入っていたのは、スピリッツ連載中の『日本沈没』で、なんと10ページ目だった。

傾向として気づいたのは、「ページ数の少ないギャグマンガなどは扉絵を入れないことが多い」「1話完結モノは扉絵アリが多い」「スリル、スピード感のあるストーリーは、臨場感を出すためか、途中で扉を入れることが多い(浦沢直樹は4〜5ページ目に多い)」「大御所(あだち充、高橋留美子、秋本治など)は最初に扉を入れることが多い」といったこと。
また、井上雄彦、鳥山明、尾田栄一郎など、扉のイラストが商品化することの多い(絵に定評がある)漫画家は、きっちり扉絵を入れる傾向があるようだ。ただし、『ドラゴンボール完全版』を例に見るように、ストーリーを分断してしまわないよう、単行本では扉を全部後ろにまとめて持っていくというケースもある。


こうした「扉絵」について、マンガ編集者の友人に聞いてみると……。
「『冒頭じゃなくて、何ページか後に扉をおく』という方法は、映画やテレビドラマの変化と同じですよね。たとえば、昔のハリウッドの白黒は、最初にどーんとタイトルが多いけど、今はオープニングに何シーンか入れて、タイトル、再開。っていうパターンが増えてます。テレビドラマも、10分ぐらいたってからタイトルっていうの、多いでしょ? これは、みんな飽きっぽくなってるからかな?」
逆に、1話ごとの区切りを大事にしているもの、短編連作的なつくりなどは、扉をきっちり入れることで、「その回の余韻を楽しむ」という効果もあるのでは? ということだった。
「マンガ技法としては、最初のページに扉をおくのが決まりだったと思うんです。
でも、コマ割りとか心理表現とか、手塚さんのプロトタイプから派生して(崩されて)、ニュータイプを生み出していった結果では?」

たかが扉絵、されど扉絵。その有無や位置だけでも、マンガの表現技法の流行り・傾向を見ることができるようで。今後、マンガを読む際に、ぜひチェックしてみては?
(田幸和歌子)