下ネタすら芸術に転化させる、フキコシミツルの世界
吹越満――常におかしなことばかり考えてる、この人の頭の中をぜひのぞいてみたいです。今年のフキコシ・ソロ・アクト・ライブ『×VIII』は、12月1日の大阪公演、仙台(6日)、広島(8日)と続きます。
吹越満を知っていますか。

多くの人は「あの個性派の、ちょっとシブめの役者さん?」と言うかもしれない。
あるいは、「ワハハ本舗にいた人?」とか「女優さんと離婚したよね?」、でなければ「納豆のCM出てた人」「ロボコップ演芸やる人?」あたりがオフィシャルイメージではないだろうか。

「おしゃべり」には、明石家さんまのように「ペラペラよくしゃべる人」と、無口なようで「頭の中のおしゃべり(空想力)がすごい人」の2種類がいると思うのだが、吹越満は、間違いなく後者のおしゃべりだと思う。
だが、彼のその本質的な部分、静かな狂気や縦横無尽の想像力・奇抜な発想は、テレビや映画では残念ながら見ることができない。
それが発揮されるのは、1990年から数年に一度行われていて、今年も11月に原宿クエストホールで公演された、『フキコシ・ソロ・アクト・ライブ』である。

今回もまた、冒頭から、その発想力には度肝を抜かれた。
彼は非常に器用な人で、パントマイムのうまさもよく知られているが、それを逆手にとって披露されたのが、「逆パントマイム」だ。
パントマイムが「ないものをあるように見せる」のに対し、こちらは「あるものをないように見せる」という演目。身の回りのありふれたものを用いながら、「あるのに、ないように振る舞う」だけなのだが、実にばかばかしく見事である。

また、体を張ったナンセンスギャグ満載の芝居や、「言葉」を使った遊びも、彼の十八番。今回は、ここでは書けない下ネタ系の、あんな言葉やこんな言葉のあれこれに当て字を用い、独特の解釈を小芝居にしていた。
これでもかこれでもかというほど、下ネタのオンパレード。なのに、その底なしの空想力・そこから広がるドラマ性、シュールな笑いには、美しさを覚えるほど。
これまで、こんなにも美しい下ネタを私は見たことがない。

約2時間、たった一人で繰り広げる不思議な世界。ステージ上には、大掛かりなセットなどはほぼなく、シンプルな音とスクリーン、プロジェクターがあるだけ。主役であり、大道具であり、小道具であるのは、まるでゴムかバネのように柔軟に器用に変化する肉体と顔面だけなのだ。
それでいて、憎いのは、常人では到底思いつかない自らの芸について、彼が「一切語らない」ということ。ライブの宣伝で出演していたある番組でも、「どうしても譲れないこだわりは?」と尋ねられ、彼はあっさり「譲ります。もうなんでも譲っちゃう」と言ってた。
ウソつけ。かっこよすぎるじゃないか、ちくしょー。

ただし、そんな彼の芸について、一つだけ残念なことがある。それは、数年に一度しかライブをやらないこと。ビデオもDVDもないこと。

ますますちくしょーと、恨みがましく思っていたら、とうとう初のDVDが11月22日に発売された。
その名も『mr.モーション・ピクチャー』。05年に行われた同名の公演を中心に構成された作品だ。

アートが好きな人、お笑いが好きな人、今面白いものがないという人は、ぜひこのDVDで、唯一無二の想像を絶するフキコシワールドに触れてみてほしい。
(田幸和歌子)
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