フルーツや野菜をナイフ一本で彫刻する「カービング」の魅力
(上)ヒョウタン型のカボチャを使い、バラの模様を彫りこんだ美しい壺。<br>(中)石鹸のカービング作品。プレゼントに喜ばれそう!<br>(下)皮のグリーンと内側のピンクを生かしたという、紅芯大根を彫り込んだ作品。<br><br>信乃さんの<a href="http://www9.ocn.ne.jp/~carving/" target="_blank">ウェブサイト</a>では、大きな画像でもっと細かい部分まで見られるので是非!
「カービング」というタイの伝統工芸をご存知だろうか?
これは、ナイフ一本でフルーツや石鹸に花やレースなどの模様を彫り、ひとつの作品に仕上げるといったもの。フルーツカービングにいたっては、タイでは13世紀くらいから始められたともいわれる、長い歴史を持つ伝統工芸なのだ。


最近になって、以前買った雑誌を読み直していたところ、そこに掲載されていたカービング作品を見て改めて驚いた。そして、その作品を作っていたのが日本人のアーティスト、信乃さん。グラフィックデザイナー田名網敬一氏のイラストをもとに、スイカを彫って再現していたのが、とにかく印象的で目が離せなくなった。

それから、信乃さんのウェブサイトを見てさらにびっくり。これまでに信乃さんが手がけたカービング作品が紹介されているのだが、どれも美しく、とても細かく繊細で、なにより圧倒的な存在感があるのだ。素晴らしい技術とテクニック! そこでカービングについて知りたくなり、さっそく信乃さんに取材することに。


信乃さんがカービングを始めたきっかけは、1999年から3年間、ご主人の転勤でタイのバンコクに滞在することになったときのこと。せっかく暮らすならタイの文化を何か学びたいと思っていたとき、友人に誘われて初めてカービングの存在を知り、習い始めたという。「ナイフですぱすぱっと切り、模様を作り出すこと自体が気持ちを集中させて心を癒してくれること、作ることに没頭し終わると、美しい作品ができあがっていることに感動し、すっかりハマってしまった」とか。

現在、信乃さんが開いているカービングのレッスンには、なんと生徒が90名もいる。上達は年数というより、習う時間にかかってくるとか。毎日学べば、1年でテクニックは身に付くのだそう。


彫る素材として、スイカ、メロン、パパイヤ、ニンジン、大根、カボチャなどの野菜やフルーツは、ある程度の柔らかさがあるものが適しているとか。また、スイカの皮から果肉にかけての緑、白、赤の色を生かして彫り上げたり、それぞれフルーツの持つ形や色の特徴を生かすのが面白いところでもある。石鹸はつやっと彫り上げることができ、香りも楽しめるのが魅力だとか。

また、簡単なデザインなら10分で、凝ったデザインならスイカ一個に4〜5時間かけることもあるそうで、ひとつの作品を作り上げるのにかかる時間は、デザインによってまったく違う。

作品を見ている限り、かなり慎重に彫り上げなくてはならないのだろうと想像していたのだが、カービングをする際に大切なのは、意外にも“思い切りのよさ”だという。というのも、ラインを決めて思い切りナイフを動かすと、すっきりとした艶のある彫り口になり、逆に、迷って何度も同じ所にナイフをいれると、彫った面が死んでしまうからだそうだ。


「色や形の面白いフルーツ、野菜なら何でもチャレンジしてみたい。そしていつの日か、ナイフ一本を持って各地の野菜を訪ね歩いては彫る、諸国漫遊の旅に出てみたい」と、抱負を語る信乃さん。今後の活躍がますます楽しみ。

さらにたくさんの素晴らしい作品の数々は、信乃さんのウェブサイトでご堪能いただきたい。見ただけで、カービングの不思議な魅力にハマる人もいるのでは?!
(田辺 香)