子供の造形教室って何をしているの?
(上)フライパンの取手とりつけに夢中。<br>(下)壁一面に並ぶ工具
絵画教室とも違う、いま、ひそかに人気を呼んでいるという子供の造形教室とは、一体何をするところなのか? それを確かめに、東京都世田谷区にあるこども造形教室・緑化研究室「深沢アート研究所」へ見学に行ってみた。

自由が丘駅から10分ほどバスに揺られると、住宅地の真ん中に突如「エーダンモール商店街」なる商店の一郡が姿を表わす。
駅前よりものんびりムードの商店街に心和ませていると、その一角から「ガンガン、ドンドン」という音。音のする方へ歩みを進めると、そこが目的地、「深沢アート研究所」だった。

ガラガラと引き戸を引いて中を覗くと、壁にズラリと工具が並ぶ作業所のような室内で、トンカチを手に、子供たちが思い思いにガンガン、アルミホイルを叩いていた。立ち尽くす私に、代表の山添 joseph 勇さんとカブさんが説明してくれる。
「ここはアトリエ兼スタジオで、この造形教室自体が、自分たちの活動の一環なんです。深沢アート研究所というアートユニットとして2人でここを立ち上げて、4年やっています。
僕は大学時代にアルバイトで幼児教室の先生をしていて、子供の発想のおもしろさに興味を持ち、こども造形クラスを立ち上げました。その後、美術作家のカブさんと共に、本格的なこども造形教室として世田谷区深沢に深沢アート研究所を開設したんです」

「ここに通う子供たちは、幼稚園から小学校6年生まで。これまでは、ポラロイドカメラでお互いを撮影し、それを拡大コピーしたものと、絵をコラージュしたり、ビデオデッキやラジカセなどの電気機器をドライバーや工具で分解し、機械の中身であるモーターやねじ、バネなど様々なものを組み合わせて創るロボット制作など、現代の子供たちの身の周りにあるモノや事柄をテーマに、何を作るかを決めています。今日は、アルミホイルを使って食器や料理道具を作っているところです」

ペラペラのアルミホイルを使って鍋を作るには、まずある程度の強度が必要。そこで、寸胴鍋を作成中の小学校1年生の女の子は、アルミホイルを1箱ぶん全部出して、幾重にも重ね、トンカチで叩いて薄く伸ばし、縦30センチ、横1メートルはあろうかという縦長のアルミホイル板を作っている。また別の男の子は、フライパンのカーブを作り出すために、重ねたアルミホイルの上にセロハンテープを貼り、その上からトンカチで叩く作業に没頭中。

「子供たちには、自由に作るきっかけをつくってあげることが大切だと思っています。こっちが教えてしまうとそこで発想が止まってしまうのですが、自分で思いついたようにやっていくと、どんどん先が広がっていくんですね。この教室の目的は、子供たち自身の発想で作っていくことにあるので、発想を広げるためのリードの仕方には気を配っています」

2時間の授業中、子供たちは私語も少なく、夢中で自分たちの作りたいものを作る。トンカチで叩く作業と、ただのアルミホイルが徐々にかたちになっていくことが、ただただ、楽しいのだ。
授業も終盤に差しかかり、それぞれ作品を完成させていく。作業が終わったら、片付けと掃除。
黙々とフライパンを作っていた男の子は、小さいゴミを丁寧にちりとりですくう。掃除も几帳面だ。
「造形はもともと楽しいものだから、遊び要素が多くなってしまうんですが、ここは遊ぶ場所ではないので、最低限のルールを守るように、指導しています」
保護者が迎えにやってくると、それぞれ夢中で今日の報告。ひとり、またひとりと、山添さんとカブさんに手を振って、清々しく帰っていった。

大人の世界の「アート」は、近づき難いものになっている気がしてならない。だが、本来のアートとは、毎日の生活や体の内に潜む、わくわくする感覚、気持ちが研ぎすまされる感覚を磨き、楽しむ行為なのだということを思い知った一日だった。

(駒井麻衣子)

深沢アート研究所HP

※深沢アート研究所の「主な展覧会や活動」は同研究所サイト内の「深沢アート研究所ニュース」ページをご参照ください。

BankART1929(食と現代美術part3)
2月2日〜2月18日
※今回子供たちが作った作品も一部展示!

アルミホイルで展覧会
2月14日〜18日
旭区民文化センターサンハート(横浜−二俣川)

全4回のこども造形教室
2月2日、9日、16日、23日(全4回)
(横浜−馬車道/BankART1929yokohama3F)