「記念パン」という名のパン、何を記念してるのか
赤飯をイメージした、懐かしい味をそのまま復刻したという「記念パン」。甘納豆の甘味が、どこか郷愁をさそいます。
先日、岩手県を取材した際、売店でこんな名前のパンが売られているのを見つけた。

「記念パン」
という。
どこかほこらしげに、そう外袋に書かれているから、何かを「記念」したんだろう。
では、何を記念しているのか。百周年か、来日か、創立なのか。それとも“安田”や“有馬”だったりか。ふんわりした見た目も、ちょっとおいしそうだったので、手にとってみた。

で、正解。

「天皇陛下がご生誕になられた時、あるパン屋さんがおめでたい赤飯のかわりにご生誕記念に作ったのが由来です」
天皇陛下のご生誕記念ということだ。袋にそう書いてあるから、そういうことなのだ。
赤飯代わりとして作られたパン。このおめでたいパン、今回は、「復刻版」ということで販売されているのだが、そのいきさつなどを、製造元である、盛岡市の白石食品工業株式会社にたずねてみた。

まず、「記念パン」という名の商品は、パッケージの解説にもあるのだが、白石食品工業(株)オリジナルの商品ではない。現在の天皇陛下、当時は皇太子なわけだが、そのご生誕を記念して、仙台のあるパン屋さんが、『記念パン』として、作ったのが最初だとのことである。

「それを当時、『大変いいことだな』と、白石食品でも同じように出してみた、というわけなんですね」

記念パンの最大の特徴は、生地の中に甘納豆が入っていることだ。
「赤飯のかわりに」と書いてある通り、この甘納豆が、パンを赤飯に見立てるポイントなのである。というのも、北海道や東北地方の一部では、赤飯といえば甘納豆というのがポピュラーなスタイルなので、これがいちばん重要なのだ。
「さらに、生地も少し赤くして、赤飯の雰囲気を出しているんです」
少し赤みのある生地に、ちりばめられた甘納豆。ふんわりとした食感と、ほんのり広がる甘味。はじめて食べるし、「甘納豆のお赤飯」自体なじみがないのに、どこか懐かしい。
「おっかさーん!」無意味に叫んでみた。

この記念パン、一時販売を休止していて、昨年「復刻版」として再登場したもの。
いまのところ、期間限定でない定番商品として展開していて、売り上げは上々とのこと。
岩手県を中心に、東北各地で販売されていて、
「仙台など、南のほうの売れ行きがいいんですよ」
とのこと。

おめでたい気分と懐かしい気分も味わえる「記念パン」。懐かしく思う方はもちろん、はじめての方も、見かけたら、「見かけた記念」として、ぜひ。

(太田サトル)