日本の自動車用変速機メーカー、ジヤトコの中国現地法人、加特可(広州)自動変速箱(ジヤトコ広州)の海野剛弘総経理がこのほど、新華社の取材に応じ、「中国の市場規模とサプライチェーン(供給網)の優位性が、中国投資を続ける自信につながっている」と語った。

ジヤトコ広州は、世界三大自動車変速機メーカーのジヤトコグループが2007年4月、生産と販売、研究開発を手がける外資全額出資企業として広東省広州市に設立。

以来18年間、中国での新エネルギー車の急速な普及を見届けるとともに、消費者のスマート化・低炭素化に対する需要が物珍しさから必須のニーズへと変化する過程を目の当たりにしてきた。

従来型製造業からイノベーション主導型への転換の道
広州ハイテク産業開発区科学城にあるジヤトコ広州のショールームで、海野氏は同社日本本社が開発し、広州で生産予定の電動アシスト自転車用2-in-1ドライブユニットを示しながら「変速機とモーターアシスト機能を一体化しており、お客様に快適な乗り心地を提供できる」と紹介した。

同社は2009年から2020年にかけて自動車用CVT(無段変速機)の量産に注力していたが、2020年以降に新エネ車の市場シェア急拡大とCVT製品の販売減少に直面すると、戦略的転換を図り、新規事業を積極的に展開。CVT事業の基盤を強化しつつ、2輪車用ドライブユニットやギア加工、熱処理生産委託、切削工具の再研磨、工業企業経営コンサルティング、デジタルソリューションサービスなども手がけている。

「われわれの考えるモビリティーの定義は日増しに多様化しつつある」。海野氏は、モビリティーには自動車だけでなく移動の楽しさを味わえるあらゆる移動手段が含まれるという。「われわれには新興分野を切り開くのに十分な技術力がある」とし、高齢者向けの移動支援機器から電動アシスト自転車専用の駆動システムにいたるモビリティーツールの全てが技術革新の方向だと説明した。

自動車産業の根本的な変化に対処するため、ジヤトコ広州は三段階の戦略を策定した。まずは人件費や電力費などの固定費を最適化して柔軟な経営体制を確立し、次に電動二輪車や高齢者介護・移動ツール、工業企業コンサルなど新たな成長の柱の育成を加速させる。最終的には、資源を先端技術の研究開発に振り向け、将来の競争に向けて力を蓄える。

粤港澳大湾区の優位性が企業の発展を後押し
ジヤトコ広州はこれまで、中国で1100万台以上の車にCVTを供給してきた。サプライチェーンはほぼ完成し、主要部品の現地調達率は8割を超えた。

海野氏は、同社が中国で18年間、事業を広げてこられた背景には、地元政府の支援と粤港澳大湾区(広東・香港・マカオグレーターベイエリア)の優遇政策が欠かせなかったと考えている。

大湾区は現在、新エネルギーやスマート化の発展を強力に推進し、補助金や優遇税制など一連の政策を打ち出している。海野氏は「われわれは政策の方向性に積極的に順応し、企業の転換・高度化の流れに応じて電動化や二輪車など多様なモビリティー分野に参入しようとしている」と述べた。

特に印象深かったのは政府の高いサービス意識だった。人材ビザや子どもの就学、各種行政手続きに至るまで、政府は多様な支援を提供しているとし「企業の問題を自身の問題と捉える姿勢によって、政府と企業による『共同体』が効果的に形成されている」との見方を示した。

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国際経済情勢が目まぐるしく変化する中、海野氏は中国投資を続けることに強い自信を持っている。その背景には、中国の市場規模とサプライチェーンの優位性があるという。「短期的には課題もあるが、中国の充実した産業インフラと革新的な市場環境をよりどころとすれば、持続可能な成長力を得ることができると確信している」と力強く語った。

中国の発展速度には驚かされる
広州の街を歩いていると、中国の都市が持つイノベーションの活力にたびたび圧倒されるという。「モバイル決済の普及や電気自動車の急速な広がりなど、中国の発展速度には驚かされる」と話した。

かつては日本で開発していたものを中国で製造していたが、今では中国で開発された電気自動車(EV)が世界に出荷されるようになったとし「中国の自動車市場は常識を覆すような急速な進化のただ中にあり、新エネルギーの普及率が急速に伸びている。世界でも類を見ない」と述べた。

中国の自動車市場の発展に伴い、同社と中国サプライヤーとの協力モデルも徐々に変化しているという。「当初は主に日本の本社と契約した日系サプライヤーの中国現地法人から調達していた。これらの日本企業がわが社と足並みをそろえて中国に進出し、安定した供給体制を築いてきた。近年は、中国の現地サプライヤーとの契約もある」と語った。

中国企業との協力を進める中で、海野氏はその経営手法に大いに学ぶべき点があることに気付いた。「中国企業はシンプルな設備、デジタル技術やスマート化の活用で驚くほどのコスト最適化を実現している。われわれが学ぶべき点は多くある」と話した。

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中日の経済・貿易協力の未来についても自信をのぞかせ、中日双方が共に努力することで地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の利点を最大限に生かすとともに、第三国市場向けの製品開発で協力し、互恵ウィンウィンの新たな発展モデルが実現することに期待を示した。【新華社広州】

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