■止まるグリーンが伸ばしあいを演出
例年伸ばしあいとなる大会で、唯一の2桁アンダーとなる15アンダーをマークした稲見。2位は大里桃子の9アンダーで、最後に大差はついたものの、やはりバーディ合戦の様相は呈していた。そして初日に降った大雨も、この展開を後押しする要因になった。
「もう梅雨入りも目前。雨が降れば、水分でコンパクションが軟らかくなったグリーンはボールがよく止まるのは間違いありません。
そのなかで、第1ラウンドに稲見は長短織り交ぜたパットを沈め続けた。パット数は『24』。これが、こちらもツアー記録(タイ)となった11アンダーというスコアにつながった。
■切れるか切れないか…稲見に備わるライン読みの妙
そのグリーン上で、辻村氏は稲見のこんなキラリと光る部分を目にしたという。それが『ラインの読み』の妙だ。
「同じラインでも、(1)素直に切れる(2)切れそうに見えるけど切れない(3)切れなさそうに見えるけど切れる、という3パターンがある。この見分け方が冴えていましたね。それを見分ける“動物的な勘”というものが試合では必要になってきます。稲見さんは、序盤からこのライン読みがハマっていました」
さらに遅くなったグリーンでは、どうしても“しっかりと打ちたい”という気持ちからストロークのテンポが速まることもあるというが、先週の稲見にはその様子がなかったと辻村氏は続ける。
「一定のリズムで打てていたし、それをゆったり目でキープできていた。だからこそ、球が最後に伸びてくる。
■稲見のコーチに話を聞いて感じた“心・技・体”
特に今年に入り12戦5勝と、稲見は驚異的な強さを発揮している。その要因を聞くため、辻村氏は稲見のコーチを務める奥嶋誠昭氏に電話をかけた。その話を聞き辻村氏が感じたことは、若干21歳の選手ながら“心・技・体”のバランスが整っているという部分だった。
「“心”に関しては、奥嶋君は『納得するまで、問題が解決するまで練習をやり続ける信念がすごい』と言っていた。それは普段、体に染み込むまで練習を続けている様子を見ても分かります。
では、この“体”に合った“技”とはどういうことか? 辻村氏は続ける。腕が長いという部分は、ゴルフにおいては「スイング中に体から外れやすくなることもあり、難しさが生じる」こともあるという。だが逆に「うまく使えば得にもなる」。そして稲見は、それをしっかりとメリットにしている。
「両ひじの管理が非常にうまいですね。
そしてなによりも辻村氏は、稲見のプレー姿のこんな部分に感心している。「その表情からは“1番でなければ嫌だ”という性分を感じます。それが顔に書いてある。ショットもパットも“これさえ守れていれば”というものもある。両方とも球際の練習をひたすらやり続けている姿をよく見かけますから」。
『ほかの選手には負けたくないという気持ちがある』というのは、稲見自身も語る部分でもある。「絶対的なものは揺るがないという信念がある。一番になる人はここぞで頼れるものを必ずもっていますから」(辻村氏)。この“負けん気”は、1日10時間以上の練習量に裏打ちされたもの。備わっている“心・技・体”と、それを整えるための圧倒的練習量。快進撃はまだまだ止まりそうもない。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、永井花奈、小祝さくら、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。