先週の国内女子ツアー「中京テレビ・ブリヂストンレディス」は、36ホール短縮競技となるなか2位に6打差をつけた稲見萌寧が、圧勝で今季6勝目をつかんだ。第1ラウンドにはツアー新記録となる1ラウンドで13バーディを奪うなど、異次元の強さを発揮。
2日間トータル15アンダーを記録し、他の選手に影も踏ませないまま逃げ切った。この勝利を、上田桃子らのコーチを務める辻村明志氏はどう見たのか?
■止まるグリーンが伸ばしあいを演出
例年伸ばしあいとなる大会で、唯一の2桁アンダーとなる15アンダーをマークした稲見。2位は大里桃子の9アンダーで、最後に大差はついたものの、やはりバーディ合戦の様相は呈していた。そして初日に降った大雨も、この展開を後押しする要因になった。
「もう梅雨入りも目前。雨が降れば、水分でコンパクションが軟らかくなったグリーンはボールがよく止まるのは間違いありません。
ここから1カ月くらいは“伸ばしあい合戦”が続いていくでしょう。最近の女子プロはグリーンさえ止まれば、ビタビタとピンをデッドに攻めてきます。こうなると必然的にパター勝負になっていく。18ホールのパット数がそのままスコアに反映されます」
そのなかで、第1ラウンドに稲見は長短織り交ぜたパットを沈め続けた。パット数は『24』。これが、こちらもツアー記録(タイ)となった11アンダーというスコアにつながった。
辻村氏は、「バーディ合戦が苦手というプロは多い。みんな耐えながら獲れるところで獲るというゴルフをして、プロになっていますから。初日からあの大差がつくと、もう攻めるしかなくなって、自分のゴルフを見失いますよね」という。他の選手に与えるプレッシャーという意味でも、大きな意味をもつラウンドになった。
■切れるか切れないか…稲見に備わるライン読みの妙
そのグリーン上で、辻村氏は稲見のこんなキラリと光る部分を目にしたという。それが『ラインの読み』の妙だ。

「同じラインでも、(1)素直に切れる(2)切れそうに見えるけど切れない(3)切れなさそうに見えるけど切れる、という3パターンがある。この見分け方が冴えていましたね。それを見分ける“動物的な勘”というものが試合では必要になってきます。稲見さんは、序盤からこのライン読みがハマっていました」
さらに遅くなったグリーンでは、どうしても“しっかりと打ちたい”という気持ちからストロークのテンポが速まることもあるというが、先週の稲見にはその様子がなかったと辻村氏は続ける。
「一定のリズムで打てていたし、それをゆったり目でキープできていた。だからこそ、球が最後に伸びてくる。
テンポが速くなるとラインはずれるし、ボールも伸びてこない。どんな状況でも、自分のテンポを変えてしまってはダメなんです」
■稲見のコーチに話を聞いて感じた“心・技・体”
特に今年に入り12戦5勝と、稲見は驚異的な強さを発揮している。その要因を聞くため、辻村氏は稲見のコーチを務める奥嶋誠昭氏に電話をかけた。その話を聞き辻村氏が感じたことは、若干21歳の選手ながら“心・技・体”のバランスが整っているという部分だった。
「“心”に関しては、奥嶋君は『納得するまで、問題が解決するまで練習をやり続ける信念がすごい』と言っていた。それは普段、体に染み込むまで練習を続けている様子を見ても分かります。
そして、166センチの恵まれた体と、その腕の長さが“体”にあたる。この自分の“体”の特徴をしっかりと理解したうえで、それに合う“技”を身につけている、ということを感じました」
では、この“体”に合った“技”とはどういうことか? 辻村氏は続ける。腕が長いという部分は、ゴルフにおいては「スイング中に体から外れやすくなることもあり、難しさが生じる」こともあるという。だが逆に「うまく使えば得にもなる」。そして稲見は、それをしっかりとメリットにしている。
「両ひじの管理が非常にうまいですね。
ダウンスイング時、右ひじが体の近くを通り、フォロースルーでは左ひじが低い状態のままキレイに回っていく。ボディターン中、両ひじは地面を向き、その動きを体の近くでしっかり管理できています。体から外さないというのがポイントになるなか、そのことをしっかり理解したスイング作りができていますね」
そしてなによりも辻村氏は、稲見のプレー姿のこんな部分に感心している。「その表情からは“1番でなければ嫌だ”という性分を感じます。それが顔に書いてある。ショットもパットも“これさえ守れていれば”というものもある。両方とも球際の練習をひたすらやり続けている姿をよく見かけますから」。
『ほかの選手には負けたくないという気持ちがある』というのは、稲見自身も語る部分でもある。「絶対的なものは揺るがないという信念がある。一番になる人はここぞで頼れるものを必ずもっていますから」(辻村氏)。この“負けん気”は、1日10時間以上の練習量に裏打ちされたもの。備わっている“心・技・体”と、それを整えるための圧倒的練習量。快進撃はまだまだ止まりそうもない。
解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、永井花奈小祝さくら、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。