世界的なエネルギー価格の上昇は、日本の家庭にも大きな影響を及ぼしている。特に2022年以降、燃料価格の高騰や円安の影響で、電気料金は上昇を続けており、多くの家庭がエネルギーコストの見直しを迫られている。
そうした動きは欧州でも見られる。そのような状況下で今注目されているのが、家庭で自ら電力を生み出す「自家消費型」の再生可能エネルギーだ。

欧州の一部では、家庭用の小型太陽光発電システム「Plug-In Solar PV(プラグイン太陽光発電)」の導入が進んでおり、特に電気代の節約とエネルギー自立を目的とした取り組みが拡大している。ベランダやバルコニーなどの小スペースに設置でき、コンセントに接続するだけで家庭内の電力供給に貢献できる新しいタイプの太陽光発電システムだ。

2025年3月にSolarPower Europeが発表した報告書『Plug-In Solar PV』では、この新しいエネルギー技術の欧州における最新の動向と課題、そして今後の可能性が詳細に示されている。本記事では、同報告書に基づき、プラグイン太陽光発電の仕組みとその普及状況、経済性、制度的課題、そして今後の展望について紹介する。

プラグイン太陽光発電とは

Plug-In Solar PVとは、従来の屋根設置型の太陽光発電とは異なり、1~2枚の太陽光パネルに、単一のソーラーモジュールによって生成された直流(DC)を交流(AC)に変換する機器「マイクロインバーター」を接続し、家庭内の通常の電源コンセントに差し込むだけで利用できる小規模な発電システムである。

欧州では「バルコニーソーラー」や「ミニPV」といった名称でも知られており、特に集合住宅に住む人々や賃貸住宅の住民など、従来の太陽光発電の設置が難しい層に向けて、手軽に再生可能エネルギーを導入できる手段として注目されている。

システム構成は非常にシンプルで、通常1枚あたり最大出力が800W程度のパネルと、それに接続されたマイクロインバーター、家庭用電源プラグで構成されている。ユーザーは自宅のバルコニーやテラス、庭先、あるいは外壁などにパネルを設置し、延長ケーブルを通じて家のコンセントに接続するだけで、太陽光で発電した電力を自家消費することが可能となる。

この仕組みは、屋根に大規模な設備工事を行う必要がなく、専門業者を介さずにユーザー自身で設置・運用できる点が大きな特徴である。そのため初期投資が比較的少額で済み、エネルギーの自給自足を始める第一歩として、幅広い層にとって現実的かつ魅力的な選択肢となっている。

報告書によれば、Plug-In Solar PVは脱炭素社会に向けた”草の根”的なエネルギー転換手段としての役割も担っており、従来のエネルギーシステムの在り方を市民主体の方向へ変えていく可能性を秘めている。
再生可能エネルギーの民主化という観点からも、極めて重要な技術と位置づけられているという。

経済性とエネルギー自給率

先にも述べたように、Plug-In Solar PVは、システム構成がシンプルで業者に依頼することなく設置できるため、設置費用が数百ユーロ程度で済むことから、多くの家庭にとって手の届く再生可能エネルギーの選択肢の一つだ。

報告書によれば、Plug-In Solar PVは家庭の年間電力需要の最大25%をまかなうことができる。これは特に日中の時間帯における電力消費(冷蔵庫・洗濯機・照明など)と重なる部分が多く、電力会社からの購入量を大幅に削減できることを意味する。エネルギー価格の高騰が続く欧州において、このような自家消費の割合を高めることは、家計の負担を軽減し、エネルギー自給率の向上にもつながる。

投資回収期間は設置条件や地域、消費パターンによって異なるが、報告書では2~6年とされている。これは従来の屋根設置型の太陽光発電と比べても短く、長期的に見れば明確な経済的メリットがあるといえる。

さらに、小規模な蓄電池と組み合わせることで、発電した電力を夜間にも使用できるようになり、自給率のさらなる向上が期待されている。特に電気料金が高い時間帯に系統電力の使用を抑えることができるため、ピーク時のコスト削減にも有効である。

このように、Plug-In Solar PVは単なる発電手段にとどまらず、家庭のエネルギー管理の中心的存在となりうる技術であり、個人レベルでのエネルギー転換を加速させる鍵となっている。

市場の現状と成長

ドイツはPlug-In Solar PVの導入が最も進んでいる国の一つであり、2024年末時点で登録済みシステム数は78万台を超えている。しかし、未登録のまま使用されている場合が多く、実際の設置数は最大400万台に達すると推定されており、電力網の可視性と安全性の観点から課題となっている。また、Plug-In Solar PVと併用する小型蓄電池の需要も急増しており、特に2kWh未満のモデルは販売数が1年で24倍に拡大。今後、ドイツ政府が掲げる太陽光発電容量の大幅な拡大において、Plug-In Solar PVは重要な役割を果たすと期待されている。


また、ベルギーではこれまでPlug-In Solar PVの法的な位置づけが不明瞭であったが、2025年4月より正式に合法化される予定だ。この動きは、EU全体で進む再生可能エネルギーの普及と制度整備の一環であり、他の加盟国にとっても先例となる可能性がある。制度化をきっかけに、都市部の住民や賃貸住宅層を中心に導入が加速すると見込まれており、ベルギーは新たな市場拡大フェーズに入ろうとしているといえる。

オーストリアやオランダでは、すでに制度が整い導入も進んでいる。フランスも法整備を進めており、今後の成長が期待される市場である。南欧のスペインやイタリアでは、日照条件の良さを背景に潜在的な需要が高く、エネルギー価格の上昇により関心が拡大している。また、東欧諸国ではまだ初期段階にあるものの、住宅所有率の高さやエネルギー自立への意識の高まりから、中長期的に大きな市場へと成長する可能性がある。

規制と標準化の課題

Plug-In Solar PVの普及が進む一方で、安全性や設置方法に関する統一基準が整っておらず、各国で対応が分かれているのが現状だ。製品の品質や設置手順にばらつきがあることは、誤使用や事故のリスクにつながる。

また、多くの国でシステムの登録義務があいまいなままであり、送電網への影響を正確に把握できない状況も課題として挙げられる。建築物への設置規制や行政手続きの煩雑さも導入の妨げとなっているという。

SolarPower Europeは、EUレベルでの最低限の安全基準と設置ルールの統一を提案しており、安定した市場拡大には制度整備が不可欠としている。

政策提言と今後の展望

Plug-In Solar PVが持つ大きな可能性を実現するためには、制度やルールの整備が欠かせない。
SolarPower Europeは、以下の三つの柱で各国政府とEUに対して具体的な提言を行っている。

1.明確なルールづくり
製品の安全性、設置方法、登録手続きなどに関する共通のガイドラインをEU全体で整備する必要がある。これにより消費者が安心して導入でき、市場全体の信頼性も高まる。

2.登録制度の簡素化と義務化
現在は多くの国で登録が任意または煩雑になっているが、簡単かつ義務的な登録制度を導入することで、系統管理の精度向上と公平な運用が実現可能となる。

3.支援策と情報提供の強化
補助金や税制優遇、設置に関するわかりやすい情報提供など、消費者への後押しが求められている。特に賃貸住宅や都市部の住民がアクセスしやすくなる工夫が必要である。

今後、EU内でこれらの政策が整っていけば、Plug-In Solar PVは再生可能エネルギーの新たな柱として急速に普及する可能性がある。エネルギー価格の上昇に直面する日本にとっても、こうした動きは重要な示唆を含んでいる。限られたスペースでも導入可能なPlug-In Solar PVは、分散型・自家消費型の再生可能エネルギーとして、今後のエネルギー政策の一端を担う可能性を秘めているのだ。欧州の先行事例から学びながら、日本でもより柔軟で市民に開かれたエネルギーのあり方を模索していくことが求められているのではないだろうか。

文:中井千尋、岡徳之(Livit

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