東京都医師会副会長で精神科「ひらかわクリニック」院長の平川博之氏が7月29日、ニッポン放送「モーニングライフアップ 今日の早起きドクター」に出演。摂食障害の患者との向き合い方について解説した。

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ニッポン放送「モーニングライフアップ 今日の早起きドクター」

摂食障害の患者に向き合うには ~根本的な原因が他にあり、摂食障害に陥っている

飯田浩司アナウンサー)摂食障害の患者さんに向き合うときは、どういうことを心掛けていらっしゃいますか?

平川)目につく体重減少や食べていないということに直接突っ込むのではなく、信頼関係をつくりながら、本人が困っていることや悩んでいることを聞きます。それは食事の問題ではないかも知れませんけれども、そちらの方を聞きます。

飯田)いきなり食事のことを聞くのではなく。

平川)ご本人の悩みをなくすのが私の役目であり、体重を増やすことや食事量を上げることが私の目的ではないのだと。「あなたの困りごとに対して支えていきたいのだ」ということを根気強く伝えていきます。

最初から「摂食障害だ」と決めつけて接しないこと

飯田)摂食障害と言うと、「食べない」あるいは「食べ過ぎる」ということばかりにフォーカスされますけれども、探っていくと、根本原因は別のところにあるケースが多いのですか?

平川)コンプレックスや昔の心理的なトラウマ、子どものころの養育環境など、さまざまなものが背景にあります。結果として、たまたま食事を摂らない、食べ過ぎるということに出ているだけであって、そこに目がいきがちですが、注意すべきです。最初から摂食障害だと決めつけて、そのラベルで本人を見るということは非常に危険だと思います。

人に言われた心無い一言から摂食障害になるケースも

新行市佳アナウンサー)多感な時期ですと、ふとした一言で傷ついてしまい、それが引き金になることもありますか?

平川)摂食障害の場合には、体型のことや体重についての心無い一言にハマってしまうのです。それで一気にそちらへいってしまう。そこを解決すれば、「自分は思い通りの自分になれるのだ」と思ってしまうのです。

飯田)自分からすると「それが解決策だ」と思って走っていく。

平川)おっしゃる通りです。これが救いの道なのだと。そこから一気に走ります。

摂食障害の患者とはどう接すればいいのか 合言葉は「これでいいのだ」

新行市佳アナウンサー、平川博之氏、飯田浩司アナウンサー

一言で回復するということもある摂食障害 ~根気よく治療すれば必ず治る

飯田)この病気は治る病気なのですか?

平川)些細なきっかけから起こったものというのは、それなりのことで治ります。私の患者さんで、かなり痩せているのに体重や食事にこだわっている方がいました。その方は、たまたま高校の仕組みでオーストラリアに半年間ほど行く制度があったのです。

飯田)交換留学のような。

平川)それで向こうに行ったのですが、日本と常識がまるっきり違うではないですか。彼女は甘いものを控えようとして、オーストラリアの巨大なアイスクリームやパンケーキを見て、唖然とする。そしてまったく食べないわけです。

飯田)食べたら太ってしまうと。

平川)すると周りの同級生たちが「なぜ、あなたは食べないの、嫌いなの?」と。「いや、好きです」と答えると、「ではなぜ食べないの?」と。そこで「太ってしまうから」と答えると、向こうはあきれてしまうわけです。

飯田)オーストラリアの女の子は。

平川)「こんなにおいしいもの、いま食べなくていつ食べるのよ」と。

そのような環境に半年間いて、まるっきり価値観が変わってしまった。「自分の好きなものを好きにすればいいのだ」ということがわかったわけです。

飯田)オーストラリアに行ったことで。

平川)いままでは「いい格好の自分を見せよう」として、食事を我慢していたけれど、「そんなことは無駄ではないか」ということに気付いたのです。帰ってきたときの体型を見て驚きました。しかも太り過ぎではなく、いい体格になって帰ってきたのです。

飯田)太っているわけではなく。

平川)ですから一言で傷つきますけれども、一言で回復するということもあるのです。根気よく治療していけば、必ず治る病気だと思います。もちろん、一部には重症化することもありますけれども、多くは治療すれば回復します。

天才バカボンの「これでいいのだ」でいい

飯田)以前、天才バカボンの「これでいいのだ」というお話をされていましたよね。

平川)よく覚えていますね。

「これでいい」のですよ。本当に「これでいい」と言わなければ進まないのです。でも、いろいろ考えてしまうのですよね、人間は。「これでいい」のですよ。

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