ニッポン放送報道部畑中デスクのニュースコラム「報道部畑中デスクの独り言」(第438回)
■党内融和、野党連携……、配慮はあれど争点に乏しい総裁選
石破茂首相の退陣表明を受けた自民党総裁選挙の火ぶたが切って落とされました。立候補したのは5名、小林鷹之元経済安全保障担当相、茂木敏充前幹事長、林芳正官房長官、高市早苗前経済安全保障担当相、小泉進次郎農相(以上届け出順)で、前回の総裁選の上位が顔を揃えることになりました。
自民党本部
9月22日の告示日には所見発表演説会、23日には共同記者会見に党青年局・女性局主催演説会が行われました。
「先頭になって引っ張っていくのは新しい世代、スピードある決断を」(小林氏)
「これまでにない人材投与、実行力で結果を出せるベストチームを」(茂木氏)
「この時代に合った保守の立ち位置を明確にする。議論をしっかりやりたい」(林氏)
「全員参加の人事、党員の声が直接党に集まるシステムを構築したい」(高市氏)
「現場に行って国民の声を受け止め、政策に反映。挙党一致の“チーム自民党”を」(小泉氏)
衆参両院で少数与党となるなど劣勢の中、5人は党の立て直しに関し、このような見解を述べました。また、5人はいずれも速やかな追加経済対策策定の考えを示しました。その上で物価高対策については「現役世代を重点にした所得税改革、近々では定率減税」(小林氏)「生活支援特別地方交付金の創設」(茂木氏)「給付をベースに」(林氏)「自治体向け交付金に推奨メニューをつけて拡充」(高市氏)「ガソリンの暫定税率廃止を速やかに」(小泉氏)と、様々な主張を繰り広げました。なお、財源については高市氏のみ「どうしてもという時に発行もやむを得ない」と、赤字国債の可能性に言及しています。

自民党本部 前回の総裁選(左)と今回の総裁選(右) 前回は大きなポスターが掲げられていた
選択的夫婦別姓制度への慎重姿勢についても5人の考えはほぼ一致。「慎重な立場」と明言したのは小林氏。それ以外は、これまでの言動から自明の候補はいるものの、「結論を急ぐのではなく議論を重ねて合意形成を」(茂木氏)「国民と意見を双方向でやり取りしながら進めていく」(林氏)「ここまで議論したからここを着地点にしようという形を打ち出す」(高市氏)「国民的な理解、与野党の中でコンセンサス(を得る)努力が必要」(小泉氏)と、自らのスタンスについては言葉を濁しました。
党内融和、今後の野党との連携も視野に入れた様々な配慮がにじみます。一方で、尖ったところもなく、争点に乏しい選挙戦というのが率直な印象です。
■「重鎮」が今回も幅を利かせるのか……、終盤の動きに注目
そうした中で議員、党員・党友がどういう判断を下すのか、何が投票基準になるのか。私は選挙戦終盤の動きに注目しています。
昨年実施された前回の自民党総裁選挙を振り返ると、史上最多の9人が立候補する激戦でした。1回目の投票で高市早苗氏181、石破茂氏154、小泉進次郎氏136、林芳正氏65、小林鷹之氏60、茂木敏充氏47、上川陽子氏40、河野太郎氏30、加藤勝信氏22……、決選投票では高市氏194、石破氏215、21票差で石破氏が逆転勝利を収めました。

前回の総裁選 党本部に置かれたボード
9人の候補者乱立で、議員票の「勝敗ライン」が下がり、党内基盤が弱い候補も活路を見出しました。1回目は議員票よりも党員票がモノを言う投票で、党員票に強い高市氏と石破氏の躍進につながりました。
とは言え決選投票では議員票の比率がぐっと上がります。結局、選挙戦終盤になって、各候補の首相経験者や有力者への「重鎮詣で」が相次ぎました。投票日前日には麻生太郎副総裁(当時)が決選で高市氏に投票することを表明しました。1回目の投票で当初30前後と見込まれていた高市氏の議員票は、大きく増えて72票に。影響を指摘する声もありました。
多くの派閥が解消したことで、派閥のグリップは弱まったものの、エゴむき出しの権力闘争、重鎮がカギを握るという構図が変わることはありませんでした。
さて、今回はどうでしょうか。今回は前回ほどではないものの、5人が立候補、1回目では決まらず、決選投票にもつれる可能性はあります。「#変われ自民党」というキャッチフレーズを立てていますが、こうした構図は変わるのでしょうか。

今回の総裁選 党本部に置かれたボード 何か感じることはありますか?
「一兵卒」(いっぺいそつ)……、岩波書店「広辞苑 第六版」には「一人の下級武士。比喩的に命令を受けて下働きをする者」とあります。権力者がその座を降りる時、今後について必ずと言っていいほど口にする言葉です。
しかし、こと政治家が発するこの言葉ほど、信用に値しないものはありません。いざことが起こると、「キングメーカー」「フィクサー」を気取る輩が何と多いことか。これは与野党を問いません。今回もある重鎮が候補者に対して「俺だったらお前の年で火中の栗は拾わない」と言ったとか、そんな話が漏れ伝わってきます。候補者も「やるべきことは全部やる」と、こうした輩を「集票できる実力者」とみなして支持を求めていくのか。そんな動きに、傍観するしかない国民はうんざりしているのではないでしょうか。
そして、投票する面々も信念より、自身の損得、有力者への配慮・忖度を優先するのか、そんな姿が展開されれば、自民党はますます「何も変わっていない」ということになるでしょう。衆参両院で少数与党の中、総裁選後の首班指名選挙は数の上では、必ずしも総裁=首相になるとは限りません。今回の総裁選は候補者のみならず、投票する側の姿勢も問われています。
(了)