いよいよ3月15日より開催される「第2回新潟国際アニメーション映画祭」。世界初の長編アニメーションを中心とした多岐にわたるプログラム、そしてアジア最大のアニメーション映画祭として国内外で大きな注目を浴びている。

今年は長編コンペティション審査員長に世界的アニメーションスタジオ・カートゥーン・サルーンのノラ・トゥーミー氏を迎え、レトロスペクティブ部門では長編アニメーション映画全作品ラインナップの高畑勲特集、そしてイベント上映では湯浅政明監督の貴重な短編の特集上映、『機動戦士ガンダム』シリーズの富野由悠季監督の来場も決定している。
待望の開催が近づく中、プログラム・ディレクターを務める数土直志さんに、本映画祭の大きな見どころについてお話をうかがった。

>>>国とジャンルを超えた多彩な上映作品のラインナップをチェック!(写真33点)

――昨年から始まりました「新潟国際アニメーション映画祭」ですが、第1回の全体的な印象はいかがでしたか。

数土 本当にたくさんの方々に協力して頂いたおかげで、各所で話題として取り上げて頂いたり、プログラムについても「面白いものが観られた」という評価を頂けたことが本当にありがたかったです。

――それを踏まえて、今回どのような取り組みをされていらっしゃいますか。

数土 前回の延長線上ではありますが、やはり作品の幅を広げていこうという意識があります。
あと「コンペティション」「世界の潮流」では日本の作品を増やしまして、オープニング作品は塚原重義監督『クラメルカガリ』のワールドプレミアも決定しました。

今回「コンペティション」で上映する作品は、僕の方から映像と技術の優れた作品であること、長編作品でストーリーが優れたもの、多様性を重視してほしいという3点を要望として出した上で選考委員の方々に協議していただいて決定したのですが、結構攻めたラインナップになっていて、僕としてはもう大満足! 自分だけニコニコしていてはいけないんですけれど(笑)。

――昨年、審査委員長を務めた押井守監督にお話をうかがった際は「海外の長編アニメ作品を探すのは大変なんだ」ということだったのですが、その辺りのご苦労は?

数土 確かにそう言える部分もあります。例えば東南アジア地域で探した場合、やはり年に1~2作(新作が)できればという感じなので、そこから優秀作を選ぶとなるとどうしてもハードルが高くなってしまうので。
ただ世界全体で見れば状況はかなり変わってきて、海外の長編アニメ作品の制作は確実に増えてきていますので、今後そういう状況は好転していくと考えています。

――ラインナップに大満足とのことですが、中でも数土さんのお薦めタイトルは何でしょうか。


数土 どれも素晴らしいので、私個人の好みで挙げさせてください。まずは世界的な話題作でもあるジェレミー・ぺラン監督の『マーズ・エクスプレス』(フランス・2023)。これは近未来を舞台にしたSF作品で、バンド・デシネ(フランス語圏のコミック)的な映像もオシャレで、日本のアニメファンにも刺さるんじゃないでしょうか。(記事メイン写真:3月17日・3月20日/新潟市民プラザホール)

あとはイザベル・エルゲラ監督の『スルタナの夢』(スペイン・2023)。1905年にインドで書かれた女性が支配する世界を描いたSF小説を読んだ女性が自分を発見する旅に出る話で、ジェンダーを扱ったテーマ性やストーリーは勿論のこと、絵が本当に素晴らしいんですよ。これは本当にお薦めしたいですね。


――イベント上映での注目作は『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』(1988)でしょうか。富野由悠季監督と出渕裕さんのトークショーは大きな目玉となりそうですね(3月16日/新潟市民プラザホール)。

数土 ガンダムはいわゆるフランチャイズアニメであるわけですが、その中でとてつもない作家性を発揮してきたのが富野由悠季という存在です。中でも『逆襲のシャア』はそれが際立っていますので、この異能ぶりは絶対に取り上げるべきだと考えました。

――湯浅政明監督の短編作品を集めた企画も気になります(3月16日/日報ホール)。

数土 湯浅さんは今や世界的なアニメ作家ですから、日本でやる映画祭ならば何らかの企画を立ち上げたいと思っていたんです。
映画祭の主旨に合わせるならば長編作品なのですが、長編をまとめたプログラムは他の映画祭やイベントなどでもすでにあります。
なので、ここはあえて短編に絞って「アニメーションの動きの楽しさ」を追求してみようかと。湯浅さんにも、そのテーマでトークを展開していただく予定です。

――アニメ作家の作品を掘り下げる「レトロスペクティブ」では、高畑勲監督を取り上げますね。

数土 先日放送された『プロフェッショナル 仕事の流儀~ジブリと宮﨑駿の2399日』で、『君たちはどう生きるか』に高畑監督の影響がどれほどのものだったかが明らかにされたことで、まさに絶妙のタイミングでの特集となりました。

――今回高畑監督を選ばれた理由は、どういうところから?

数土 前回の大友克洋さんと高畑監督は、僕の中では二人でセットみたいな印象があるんですよ。
日本のアニメが海外で高く評価されるのは二つの潮流があると思っていまして、まずは大友さんの作品に代表される尖ったセンスとハイエンドな作画を追求した路線です。そしてもう1つはスタジオジブリに代表される、丁寧で良質などんな世代も観るアニメーション。その原点にある高畑監督。たとえば宮﨑駿監督もその先輩である高畑監督に大きな影響を受けているわけです。そういう意味からも、高畑監督に注目するのはごく自然な成り行きでした。

――こちらのラインナップは、テレビ作品が入っているところも素晴らしいですね。


数土 「映画」祭ではあるのですが、高畑監督のキャリアを振り返る上で「世界名作劇場」ほかテレビ作品は大きい位置を占めるので、これは欠かせないなと。

――そして、オールナイト企画のテーマは「時代劇」(3月19日/シネウィンド)。こちらのラインナップも、なかなか攻めたセレクトだと思ったのですが。

数土 あ、これはもう僕の趣味です(笑)。ボンズの作品が大好きで、中でも『ストレンヂア ―無皇刃譚-』(安藤真裕監督・2007)がお気に入りなんですが、これを柱に何か企画ができないかな、と考えまして。

トークゲストに會川昇さんと虚淵玄さんをお招きするんですが、會川さんから「『少年猿飛佐助』(薮下泰司監督・1959)はどうでしょうか?」と提案があったんですね。
そこで劇場アニメの『ストレンヂア』、テレビの『機巧奇傳ヒヲウ戦記』(アミノテツロ監督・2000)、OVAの『劇場版 戦国奇譚妖刀伝』(山崎理監督・1989)、そして東映動画(現・東映アニメーション)の『少年猿飛佐助』へ、という感じで時代劇アニメの系譜を遡っていく流れを組んでみました。

――様々な角度からアニメーションの魅力を味わえる機会になりそうです。

数土 アニメーションという括りの中で、ここまで多彩な作品が生まれてきていることを知ってもらえると嬉しいですね。特に海外作品は本当に観られる機会が限られていて、まだ日本配給が決まっていない作品がたくさんあるんですよ。是非関係者の皆さんも足を運んでいただいて、今後のラインナップの参考にしてもらえるとありがたいです。
そして上映の合間には、新潟の街もゆっくり楽しんでほしいですね。各会場がバラバラになっているので、散歩気分で歩き回ったり、地元のグルメを楽しんで頂いたり……それも地方の映画祭ならではの楽しみ方だと思いますので。