2月22日に『千年女優』のBlu-ray化が発売された。これに合わせて、キャラクターデザイン・作画監督を務めた本田雄さんにあらためて本作の制作当時の様子を伺っている。


インタビューの後編は、本田雄さんに『千年女優』の好きなシーン、そして今 敏監督の作品についての思いを話していただいた。

『千年女優』特集ページ展開中
http://animeanime.jp/special/323/recent/

■ 本田雄さんが選ぶ好きなシーン

― アニメ!アニメ!(以下、AA)
今監督の作品で、好きな作品、好きなシーンというものはありますか?

― 本田雄さん(以下本田)
作品は全部見ています。『妄想代理人』は面白かったですよね。今さん初のテレビシリーズで、どういう風にやるのかなと見ていました。
今さんが自分でコンテを担当した回はいつも以上にきっちりとしたコンテを描き、そのコンテを拡大してレイアウトにしています。そうして作業を端折って時間を稼いでいます。
原画マンにはそのレイアウトを元に直接原画にしてもらっていたみたいです。

― 本田
『パプリカ』は、エンディングが好きなんですよね。あれはちょっとグッとくるんです。あと『東京ゴッドファーザーズ』は手堅い作りをしているなと思います。あそこからデジタル作品になっているんですよね。『千年女優』は、セルアニメなので現在のデジタルアニメとは違って、出来ることが限られていました。
『千年女優』では出来なかったことを細かく色々やってる感じでした。
ほかに好きなのは、『ジョジョの奇妙な冒険』(93年-94年発売のOVA)の5話目ですね。今さんの作風と合う「週刊少年ジャンプ」系の作品はなかなかありませんから。

― AA
『千年女優』でお気に入りのシーンはありますか。

― 本田
前半部分ですか。まだ若い頃の千代子のあたり。
満州行ったあたりとかも含まれます。制作時間もあったので、じっくり見られたんですね。後半になってくるとスケジュールも押してきますから。(笑)
どこも気に入っていると言えば、気に入っているんだけど、いつも力不足だったなと反省の方が多かったりします。
かなり今さんにおんぶにだっこが多いですからね。劇中に登場する、千代子の映画のポスターは全部今さんが描いていますから。


― AA
ちょうどそれをうちのサイトで掲載しているのですが、すごい枚数ですね。

― 本田
すごいんですよ。あの状況でこれだけ描いている。自分の知らないところでこれをやっていて、「あれ、いつの間にこんなの描いているの(笑)」という感じです。

■ 現実と虚構をいつも行ったり来たり

― AA
本田さんから見て、今さんの作品特徴はどこにあると思います。

― 本田
現実と虚構を行ったり来たりして混在するのは、今さんの中ではいつもあった感じがします。
『PERFECT BLUE』から『パプリカ』まで一貫してありますよね。
そこになんでいつも拘ってたんだろうと、思っていました。

― 本田
今さんに「なんでいつも同じことばっかりするんですか?」と聞いたこともありました。(笑)

― AA
お答えはどうでした?

― 本田
どうだったかな…。本人の中ではやっぱり何か違うみたいなんですよね。毎回テーマが違うから。

今さんは嘘を描く世界と、現実を超リアルにやる世界の両方ともやりたくて、そこを両立させた作品を作りたいというのがあったんでしょうか?

― AA
アニメは嘘をいくらでも描ける世界ではある一方で、リアルを追求して、絵でありながらリアルを作ることも可能な訳ですが、本田さん自身はどちらが魅力的ですか?

― 本田
嘘の世界を描くためには、地に足をつけて基本をしっかり描かないと成立しないんですよ。嘘を嘘で固めてしまったら表現したいものが何なのかどんどんわからなくなる。そうなってしまっては嘘を描く面白さがなくなってしまう気がするんです。
だから地に足のついたしっかりとした表現は必要だと思います。

― AA
日常をきちんと描くことで、嘘がより説得力を持つということでしょうか。

― 本田
そういうことだと思います。(笑)

― AA
『千年女優』はまさにそうした作品だったと。

― 本田
そうですね。でも、ここまでカッチリさせると今度は逆に嘘をつかせづらくなってしまう(笑)。結局、嘘をつく部分も今さん頼りでした。(笑)
例えば背景美術に関しては、池信孝さんが一貫してやっていますよね。おそらく池さんしか今さんの気に入るものが描けなかったからじゃないかと思います。

(C)2001 千年女優製作委員会

■ バリエーションで違う世界をつまみ喰いする面白さ

― AA
『PERFECT BLUE』からはじまり『妄想代理人』まで、今 監督と長い間一緒に仕事をしていた事で、影響を受けたことはありますか?

― 本田
影響は細かく受けていると思います。作業するに当たってどのくらいのペースでやるのかとか、仕事の構え方みたいなことは、今さんからは受け継いだ部分はある気がします。
劇場作品の作監をやるとなると、全体を見るのにどのくらいのペースで毎日計画的にやるかは身につきましたね。今さんは一日当たり6カット上げるのを目標にしていたんです。
『千年女優』をやっていた今さんって37歳ぐらいかなぁ。もう年下ですよ。(笑)
今さんが亡くなったのが46歳、自分は、今年46歳なんですよ。46か俺…。

― AA
『千年女優』は数年経ってもとても人気の作品です。映画としても非常に評価が高いのですが、作品がこんなに人から愛される理由は、何だと思いますか。

― 本田
自分の関わった作品って客観的に見れないですよね。(笑)
自分が楽しかったのは、いろんなバリエーションで違う世界をつまみ喰いしながらできたことでする。そこが本当に面白かった。
女優業を通して、いろんな世界を渡り歩いているような感じで、一人の初恋の人を死ぬまで追い求めていくのは、何かくるものがありますよね。(笑)

― AA
最後に、映画のラストについても伺ってもいいですか。千代子の最後の言葉「あの人を追いかけているあたしが好き」を印象深いと話す人が多いのですが、本田さんはどう思いますか?

― 本田
ロマンチックにも見えるかも知れないけど、逆に言うとすごく怖いじゃないですか。 (笑)
ある見方をすれば、相当なストーカーですよね。(笑) これはこれで怖ぇーなーと思います。
どうとでもとれるラストのセリフなんですが、自分的には非常に怖いな。(笑)

[本田雄(ほんだ・たけし)アニメーター、キャラクターデザイナー]
1968年生まれ、石川県出身。スタジオカラー所属。
1987年のOVA『レリックアーマー・レガシアム』で動画デビュー。22歳で作画監督として『ふしぎの海のナディア』に参加。『新世紀エヴァンゲリオン』ではOP作画や作画監督を、同劇場版『Air』ではEVAシリーズのデザインやメカ作監などを担当。
OVA『青の6号』や映画『東京ゴッドファーザーズ』『イノセンス』などで原画を担当。『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』ではメカニック作画監督、『:破』では作画監督及びデザインワークス、そして『:Q』では総作画監督を務める。
『千年女優』ではキャラクターデザインと作画監督を担当。

(C)2001 千年女優製作委員会