3月4日、ソニーとホンダが電気自動車(BEV)の新会社を共同で設立すると発表した。
ソニーは2020年に電気自動車「VISION-S 01」を1月にラスベガスで開催されたCESで発表。
そして、今年のCESでは同じプラットフォームを利用した「VISION-S 02」を発表。さらに新会社を設立し、電気自動車の事業化を本格的に検討するとした。
ソニーとホンダの新会社設立は、ホンダからのアプローチがきっかけだった。2021年夏頃に意見交換レベルで両社の若手が集い、ワークショップを実施。「そこでの化学反応に大きな可能性を感じた」(ホンダ・三部敏宏社長)として、話がまとまったようだ。
ソニーにとって、ホンダからの提案はまさに「渡りに船」だったはずだ。
「ソニーだけでクルマを?」の不安が解消
今年のCESで「事業化を本格的に検討する」と吉田社長は語ったが、「本当にソニー単独で事業化できるのか」というのは自動車関連のジャーナリストからも不安視されていた。
クルマを売るには、当然、販路やメンテナンス拠点が不可欠となる。また、クルマの製造はソニーが工場を作るのではなく、どこかに委託するという話であった。VISION-S 01などはオーストリアの自動車製造会社であるマグナ・シュタイアが手がけており、実績は申し分ないのだが、事業化の際もマグナ・シュタイアが製造担当するのかは謎であった。
今回、ホンダと新会社を設立し、ホンダが製造を請け負うことが明らかになった。これにより、製造における品質面は問題なさそうであり、安心して両社が手がける電気自動車を購入できるようになったのではないか。
「ソニーだけでクルマをつくるなんて無理でしょ」と思われたが、ホンダと組むことで、そうした不安は一気に解消された。
Honda eの安全運転支援は快適だった
筆者は、ソニーの吉田社長が語った「モバイルの次のメガトレンドはモビリティである」という言葉を真に受けて、「スマホジャーナリストの次はモビリティジャーナリストだ」ということで、勉強がてら、ホンダ初の量産電気自動車「Honda e」を購入した。
Honda eに乗りながら「ソニーが本気で電気自動車をつくるのなら、ホンダと組んだら面白いかも」と妄想していたが、まさか本当に両社が手を組むようになるとは思わなかった。
実際にHonda eに乗って感じるのが「ソニーが電気自動車をつくると言ってもクルマの基本性能、安全性を高めるのは相当、大変であるし、ホンダも先行するテスラに対抗するのは難しいのではないか」という点だった。
特に最近のクルマは自動運転まではいかないものの「安全運転支援システム」の出来が素晴らしい。Honda eにも「Honda SENSING」が搭載されており、たとえば、アクティブクルーズコントロール(ACC)により、高速道路を走行している際には、前に走っているクルマに対して、ちょうどいい距離を保ちながら着いて行ってくれる。車線を維持してはみ出さないようにも走行してくれるため、運転がかなり楽になったのだ。
実際、高速道路が渋滞していても、さほど苦痛を感じなくなった。過去にはマニュアル車に乗っていて、とにかく高速の渋滞で止まってからの発進が面倒くさかったのだが、ACCにより、渋滞にハマっても、Honda eが勝手にブレーキをかけて止まってくれるし、完全に停止したときも、ちょっとアクセルを踏めば、自動的に前のクルマについて行ってくれるので、快適なのだ。
こうした安全運転支援システムをソニーがイチから作り上げるのには、相当な技術力と時間が必要なはずだ。初めてクルマを作るソニーが安全運転支援システムを提供してきても、ユーザーとしてはどこまで信用していいいかわからない。しかし、ソニーとホンダが作るクルマにHonda SENSINGが乗っていれば、「これなら安心」という気持ちにさせられる。
Honda eのUIなどはちょっと野暮ったかった
一方、Honda eはダッシュボードに5枚のディスプレーが並び、タッチパネルで操作するようになっている。まさにスマホ感覚で操作ができるのだが、ユーザーインターフェースなどがちょっと野暮ったい。
Honda eに向けてアプリなども提供されているのだが、数が少なく、面白みに欠けてしまう。
先週、スペイン・バルセロナでモバイル関連展示会「MWC」が開催され、NTTドコモは同じタイミングでBMWに対してeSIMのサービスを提供すると発表していた。同様のサービスはMWC会場でも散見された。
これからのコネクテッドカーは、2つのeSIM搭載が当たり前となり、1つはユーザーの携帯電話番号や契約を書き込みつつ、もう1つのSIMはクルマが必要とする情報をひたすら通信したり、車内にWi-Fi環境を提供するために5Gに接続するという使い方をしていくようになるという。
現状では、ユーザー視点から見ればアップル「CarPlay」やグーグル「Android Auto」があれば充分であるが、それらのプラットフォームを使われてしまえば、自動車メーカーとすれば、ドライバーとの接点を失うことにつながる。
ソニーは車内でユーザーが触れるプラットフォームを開発し、提供していく。吉田社長は「今までのサービスはクルマを認証していたが、今後は人に対してアクションやサービスを提供していく。その中でアップデートや必要であれば課金も行なう」としている。
通信を活用しつつ、いかにユーザーに対してサービスを提供していくかは、ホンダも独自に開発を進めているが、決して得意ではないだろう。その点、XperiaやPlayStationを手がけるソニーグループのほうが一日の長があるはずだ。
ワクワクさせる電気自動車が2025年に
両社では2025年の商品化を目指しているという。2つの会社から人が集まり、イチからクルマを開発するのには時間が足りなすぎる。
しかし、ホンダには電気自動車のノウハウがあり、ソニーはすでに電気自動車を勉強しつつ、様々な通信やユーザーインターフェースの実績がある。
すでにホンダもソニーも同じ方向を向けて電気自動車を開発してきている会社だ。両社の知見を持ち寄り、面白い化学反応によって、これまでにはない、我々をワクワクさせてくれる電気自動車が2025年には生まれるのではないだろうか。

筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)
スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)など、著書多数。