Milan Csizmadia

 電気自動車に乗り換えるという話を友人・知人にすると、かなりの確率で返ってくるフレーズが「あと10年もすればみんなEVになるんだから」というもの。


 だから急いでEVにする必要はない、今のうちにガソリンエンジンを楽しみたい、という話もとても納得ができるものです。

人類が生み出し長らく育んできたテクノロジーの終焉を迎えるわけですから、筆者も少しノスタルジーを感じずにはいられませんが……。


 しかしそうした感傷的な気持ちを、Model 3への試乗が解きほぐしてくれました。今日はそんな話です。


1500万円か、500万円か

 今乗っているのは2トンを超える大きめなクルマ。米国から日本に帰ってきて、現地で乗りそびれた大きくゆったりとしたSUVへの憧れを、道が狭い日本で果たしてしまった、というと言い方は悪いのですが。


 トルクフルなディーゼルエンジンで、車体は重くとも踏み込めばちゃんと加速し、燃費も普段の街乗りで10km/l前後、遠出をすると15km/lで航続距離は1000km以上になります。給油頻度は月1.5回で故障もない、手のかからないクルマでした。(正直、かなり気に入っています)


 ただ、乗り換える場合は難儀だと言うことは予想していました。というのもトルクが620N・m(63.2kg・m)もあり、このパワフルさを踏襲する内燃機関のクルマに乗り換える場合、いっぱいお金を出さなければ、もう体験できないんだろうな、という諦めがありました。このクルマ自体は当たりでしたが、カーライフを長い視点で見ると悪手だったわけです。


 そこで1月に試乗したTesla Model 3ロングレンジです。200kgほど軽いクルマで同じようなパワフルさ。かっ飛んでいくような速さです。

しかもSUVからセダンに変わるので、ただでさえも車高が低いのですが、バッテリーが底面にあるためにさらに低重心が極まり、どっしりとした安定感。ガソリンエンジンで同じような性能を買おうとすると、1500万円ぐらいになっちゃうレベルの性能だと感じてしまったのです……。


「乗ったら終わり」の感覚の正体

 自分がTeslaの購入を決めてから、いろいろとオンラインやSNSの情報を調べ始めましたが、そこで出てきたのは「乗ったら終わり」ということ。一度運転してみたら、すっかり好きになって購入してしまうという意味合いです。すごく感覚的に見えるこの体験ですが、少し掘り下げてみましょう。


 既存のよく知った自動車メーカーの品質にしか触れていなかった人が、それまで抱いていたTeslaという新興自動車メーカーや電気自動車というものに触れて、運転してみて、「意外に普通だな」と思ったり、「意外に良いな」と思う感覚。これが「乗ったら終わり」のきっかけです。


 ある程度クルマに乗っている歴が長い場合は、「意外に普通だ」と思った方が多いのではないかと思います。字面だけ見ると、そこまで感情を動かされていないようにも見えますが、Teslaや電気自動車が「よく分からない存在」から「知ってる存在」に変わるだけでも十分なきっかけになるのです。


 試乗をきっかけに、Teslaについて、あるいは電気自動車について調べはじめます。動力性能や維持費、燃費ならぬ電費、自動運転や運転支援機能といったスペックの比較を進めます。もし車の乗り換えを検討し始めていれば、ガソリン車も含めてターゲットになるクルマのピックアップや下調べも進んでいると思うので、さらに好都合です。


 このようにして比較を進めていく中で、Teslaは特に航続距離と価格の競争力が高い点に気づかされます。

さらにファイナンス。自分のクルマの下取り価格と電気自動車取得に関わる補助金を差し引いた車両価格を見て、10年1.7%ローンの月々の金額を見て、一気に乗り換えが現実的になっていきます。


 それだけ、Model 3が、Dセグメントのセダンとしての競争力がある製品だと理解でき、外堀が一気に埋め立てられていきます。


 一方、「意外に良いな」と思った方が、決断まで早そうです。こちらはさほどクルマ遍歴が長くない、あるいは初めて買う車として検討している人に多いかも知れません。そこまでクルマに対しての好みやこだわりが強くなく、スマホとの連携、スマートな体験などTeslaの強い部分が際立つ格好になるからです。


 筆者はどちらかというと前者でした。今のクルマが10万km突破目前という絶妙なタイミング。中古車市場が高騰し、特にSUVが高く売れるという市場環境の変化。そして原油価格の急騰からガソリン価格が高止まりし続けている現状と、Teslaに対する考えだけでなく、今のクルマの維持という外堀も埋まりつつあった点が、乗り換えの決断となったのです。


(つづく)


「10年後にはみんなEVになるんだから」と人は言うけれど

筆者紹介――松村太郎

 1980年生まれ。ジャーナリスト・著者。

モバイルとソーシャルにテクノロジー、ライフスタイル、イノベーションについて取材活動を展開。2011年より8年間、米国カリフォルニア州バークレーに住み、シリコンバレー、サンフランシスコのテックシーンを直接取材。帰国後、情報経営イノベーション専門職大学(iU)専任教員として教鞭を執る。


公式ブログ TAROSITE.NET
Twitterアカウント @taromatsumura


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