ソニー・ホンダモビリティは、2025年に発売するEVのブランドを「AFEELA」にすると発表。同時にプロトタイプをCES 2023の会場で発表した。
記者会見では、クアルコムのクリスチアーノ・アモンCEOがサプライズで登場。クアルコムのクルマ向けプラットフォームをAFEELAで採用すると明らかにされた。

現地で取材をしていて、クリスチアーノ・アモンCEOの登壇はまさに「サプライズ」であったのだが、「ソニー・ホンダがクアルコムを使う」というのは想定の範囲であり、どこかのタイミングで明らかにされるのだろう、というなんとなくの予想はできていた。
AFEELAにSnapdragonを選んだ理由は低消費電力化のため
そもそも、ソニーはスマートフォン「Xperia」シリーズでクアルコムのチップである「Snapdragon」を採用し続けている。さらに犬型ロボット「aibo」や、ドローン「Airpeak S1」もクアルコム製品で動いている。CESでのソニー記者会見では、これまでのソニーとクアルコムの仲の良い関係性が強調されていた。

現在、クアルコムはスマートフォン向けチップであるSnapdragonを、クルマやXRなど様々な分野に横展開を広げている。
一方、ソニーは2020年に吉田憲一郎社長が「これまでのメガトレンドはモバイルであったが、これからモビリティだ」と語り、Xperiaを代表とする「モバイル」から、クルマの世界である「モビリティ」に舵を切ると宣言した。
つまり、クアルコムとソニーは同じ方向を向きつつあったのだ。
実際に、クルマ作りをしていく上で、ソニーとクアルコムの相性は良さそうだ。
ソニー・ホンダモビリティの川西泉社長兼COOは「クアルコムとは、モバイルからの長い付き合いでもあるし、色々話していくと、我々と考え方が近いところはあるな、と感じる」と語る。

川西社長によれば、モバイルとモビリティは同じ課題を抱えながら進化してきたというのだ。
「スマートフォン向けのSoCはパフォーマンスの追求だけでなく消費電力の問題もずっとつきまとってきた。
確かに、クアルコムのSnapdragonは高性能でありながら、通信をしつつ低消費電力ということが評価されてきた。スマートフォンもバッテリーの大型化が難しく、SoCがいかに低消費電力で駆動するかを競ってきた。
EVも、バッテリーの大容量化というのはそう簡単ではない。そこで求められるのはいかに低い消費電力で稼働できるかに尽きる。走行に必要な電力は簡単に省電力化できないが、インフォテイメントなどの部分での省電力化にはSnapdragonが貢献できる可能性が極めて高いのだ。
これまでクルマとスマホは開発スピードの違いが大きすぎた
CESでは数年前から「クルマが主役」と言われてきた。しかし、自動運転など当初期待されていたイノベーションはなかなか起きていない。
かつてクアルコムの関係者がぼやいていたのは、「モバイル業界とモビリティ業界では開発のスピードが違いすぎる」ということだった。スマートフォンは毎年必ずと言っていいほど新製品が登場する。しかしクルマのモデルチェンジは数年に1回という頻度だ。
ソニー・ホンダとしては、この「モバイル業界とモビリティ業界の開発スピードの違い」に立ち向かわないといけないことになる。
川西社長は「クルマとITの開発スピードの違いについてはこれまでの基準がどこまで正しいのかを見直す時期に来ている気がする。これまでの習慣的なプロセスがあり、それに従って評価期間を決めてきたところがある。そのためクルマ向けの半導体はどうしても出てくるまでに5年かかる。
しかし、スマートフォンは毎年新製品が出ている。クルマもスマホと同じにするとは言わないが、何かしら一定の評価期間を足せば、もっと加速できるのではないか。ただ、車載用半導体の品質レベルをどこに持っていくかはこれからの課題だし、ある程度収斂されていくともっと早く作れるようになるのではないか。実際中国メーカーはそうしている。ただ、そのやり方が正しいのかということを誰も断言できないのがジレンマでもある」と言う。
ソニーがホンダと組んだ大きな理由は「安全性」
クルマを開発する上で時間がかかるのは「安全性」を重視していることに尽きるのも事実だ。そのあたりがIT企業であるソニーとしても悩ましく、だからこそ安全性について豊富な知見を持つホンダと組んだ意味でもある。
川西氏は「個人の自動車を長年、やってきた人たちの知見は絶対に必要。
やはり、安全性を考えるとホンダと組んだのは大きかったようだ。さらに商品化をする上でもホンダの存在は偉大のようだ。
川西社長は「ホンダから感じるのは量産の重み。クルマを数台作るだけであれば、そんなに大した話ではない。実際、VISION-Sも作れたわけだし。ただ、何万台というオーダーになったときに工場やインフラのことを考えると、量産はものすごくハードルが高い。
しかし、ホンダにはこれまで積み上げてきた知見があり、本当に素晴らしく、リスペクトしている。やはり経験が浅いと、いろんなところでトラブルが起きてしまうはずだ」という。
「ハイエンドに必要な要件の開発は、SoCベンダーと一緒に」
川西社長の話を聞いていると、AFEELAを「スマートフォン的な思考」でものづくりをしようとしている雰囲気が漂ってくる。
実際、スペックの考え方はまさにXperiaに共通するものがあるのだ。
「ミドルレンジをいくらやってもイノベーションはおきない。進化はやっぱりハイエンド・フラグシップから起きる。だから、僕らはハイエンドから始めていく。
スマートフォンも一緒なのだが、ハイエンドな必要な要件の開発は、SoCベンダーと一緒にやっていく。そのあたりはEVでも同じではないか」(川西社長)。
ただ、どんなにハイエンドなEVを作っても、スマートフォンに比べてクルマの買い換え間隔は長い。そこで、AFEELAではいかに「買った後も長くアップデートし続けられるか」が重要となってくる。数年間、アップデートし続けられるだけのスペックを提供していくつもりのようだ。
「重要なのは成長の可能性をどれだけの残していけるか。従来のクルマは未知な部分は『わからないからやらない』と決めて作ってきた。しかし、自分たちは「わからないなりの可能性」を提供できるかがチャレンジでもあり、プレッシャーでもある」(川西社長)。
発売後も成長するクルマを提供していくには、どんなに最先端のスペックを提供しても、年数が経過すればおのずとメモリ容量などでの限界がやってくる。
そこで川西氏は「そうしますよ、という話ではなく、ちょっと刺激が強いかもしれないが、ブレードサーバー的な構成にして、ハードを追加できるとか交換できるといった方向性に持っていくのがいいかなとも思う。それが可能なら、ユーザーが自分で入れ替えたり、サブスクで提供することもありうる。もちろん、強調しておくが『ブレードで交換できます』という話ではない。これまでのクルマとは違う考え方でやっていく可能性もある、という話だ」と語るのであった。
最先端のスペックでソフトをアップデートし続けられるだけでなく、処理部分のハードも載せ替えられるかもしれないクルマ。既存の自動車メーカーには想像もしないようなクルマを、川西社長は描いているようだ。

筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)
スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)など、著書多数。