ポルシェは2024年1月25日、タイカンに続く電気自動車(BEV)としてマカン4とマカンターボを発表。第2世代マカンからすべてEV化し、ガソリンエンジン搭載モデルは現行モデルが最後になるようだ。
発売からすぐに人気モデルになったマカン
EV化する前に乗っておきたいクルマのひとつ
インドネシアのジャワ語でトラを意味するマカンが登場したのは2014年のこと。アウディQ5と同じプラットフォーム(フォルクスワーゲングループ・MLBプラットフォーム)と、一部コンポーネントを流用して誕生した。ポルシェのコンパクトSUVということですぐに人気は爆発! ベーシックグレードが800万円台に設定されていることもあって、都内で見かけない日はないといえる存在に。日本で最も流通しているポルシェはマカンという声も聞く。
マカンのグレード体系は、価格順に「マカン(838万円)」「マカンT(901万円)」「マカンS(1073万円)」「マカンGTS(1295万円)」の4種類。TはTouringという意味で、その歴史は古く1967年の911にまでさかのぼるという。一旦はTの名が途絶えるものの復活。昨今は「ベーシックグレードにスポーティーな足回りを与えたグレード」にTの銘がつけられるようだ。
エンジンはシリーズで最もベーシックな2L 直4ターボ。ベーシックといっても、最高出力は265馬力もあって、十分すぎるほどのハイパワーだったりする。トランスミッションは7段PDKで、駆動方式は4WD。燃料はもちろんハイオクガソリンで、気になる燃費は街乗りでリッター4kmだった。
ボディーサイズは全長4726×全幅1927×全高1606mmと立派なDセグメントサイズ。車重は1865kgとヘビー級ながらも、0-100km/h加速は6.2秒と十分に俊足なスポーツSUVに仕立てられている。
専用装備として、新設計のフロントリップスポイラーとサイドエプロン、そしてリアデフューザーが奢られ、ノーマルとは違うことを主張する。
専用の足回りで車高がかなり低くなる
マカンとマカンTの違いは足回りで、ダンパーには「PASM」(ポルシェ・アクティブ・サスペンション・マネジメント)を標準装備。モードに応じて減衰力が適宜アジャストされる。また、そこに組み合わされる専用のスプリングにより、車高も通常より15mm低く設定されている。
そして試乗車はオプション設定の車高調整機構付きエアサスペンションに変更。任意で車高が変えられ、スポーツプラスモードを選べば、さらに10mm低くなる。ホイールサイズはマカンSと同じ20インチで、タイヤサイズは前が265/45R20、後ろが295/40R20。ポルシェだから履くタイヤはミシュランかと思いきやピレリだった。
荷室はSUVらしく大容量。しかも、荷物の出し入れ時に便利な車高を下げる機能を有している。その一方、走行中にポータブルバッテリーを充電するのに便利なアクセサリーソケットや、大きなプライバシートレイを収納する場所が見当たらなかったのは残念だ。
インテリアはシンプルだが上質感のあるデザイン
インテリアは黒で統一されたシックなもの。シートは8Wayの電動調整式スポーツシートを標準装備。さらにスポーツクロノストップウォッチやマルチファンクションGTステアリングホイールも装備。これらはオプションになっていることが多いので、お買い得感がある。
クルーズコントロールはフォルクスワーゲン系らしく、左手コラムに用意。アダプティブクルーズコントロール機能付きだが、車線監視はレーンキーピングアシスト(8万8000円)とオプション。
ポルシェのほかのモデル同様、ステアリングホイールに走行モード切替と、フルブーストボタンを用意。20秒間、ハイパフォーマンスで走行できるのだが、おそろしくて使うことはなかった……。
メーターはフル液晶ではなく、機械式の速度計とエンジン回転計とインフォメーションディスプレイの3眼式。きちんとローカライズされており、何が書いてあるかワカラナイということはない。
センターコンソールの幅はかなりあり、それゆえか外観とは異なり車内はタイトな印象。車高ボタンのほか、排気音変更ボタン、サスペンションセッティングボタンが用意され、スポーツ感を演出している。
リアシートはサイズなり、といったところ。
素晴らしいデキだが
ポルシェに乗った感覚が薄い
結論から申し上げれば、マカンTは実に素晴らしいクルマだが、いくつか引っかかった部分もある。そこで、最初にマカンTで感じた気になった部分から文章を始めることにしたい。
筆者は過去、911だけで5グレード、BEVのタイカンを2グレード、そのほかボクスター、カイエン、パナメーラ、そして今回のマカンと11車種しかポルシェの試乗経験がない“にわか”であることを承知の上で、マカンTは「素晴らしいクルマであるが、ポルシェに乗ったという手応えが薄い」と感じた。
何をもって“ポルシェに乗ったという手応え”を感じられるのだろうか? 筆者は「ドライバーを突き放すかのような緊張感と手強さ」だと思っている。わずかな緩みすらない操作感と、ミシリとも言わない堅牢なボディーは、ドライバーの意図をダイレクトに反映する。当然ミスをすればスグに跳ね返ってくる。ドライビングに一切の妥協を許さない、それがポルシェの世界だ。
常に緊張感を伴うが、そのあとには心地よい疲労感と達成感を得る。気づけば速く、かつ丁寧にクルマを走らせる技術が身につく。これがポルシェのエクスペリエンスだ。
マカンTはドライバーにそのような緊張を強いない。ポジティブに表現するなら「カジュアル」で「フレンドリー」だ。
それに緊張感を強いるクルマでは、トヨタ「ハリヤー」レクサス「NX」、日産「エクストレイル」、Honda「ZR-V」、スバル「フォレスター」、メルセデス「GLC」、BMW「X3」、アウディ「Q5」、ボルボ「XC60」などなど実力機が並ぶDセグメントSUV市場では受け入れられないのだろう。アクセルペダルが、他のポルシェと違い、ライバルたちと同じ吊り下げ式ないのも、誰もが扱うクルマだからなのかもしれない。
そのようなことを思いつつも、群雄割拠のDセグメントSUV市場の中で、マカンTは出色のデキ栄えの1台であると断言できる。感心したのは乗り心地で、ライバルたちとは段違いだ。エアサスを装着している影響か、高速道路のつなぎ目などで強いショックを感じさせない乗り味は、まるでマジックカーペットのよう。
数多あるプレミアムブランドのライバルよりプラス200~300万円の予算が許されるなら、そして維持できるだけの財力があるなら、マカンTは買いの1台だ。高いだけのエクスペリエンスをオーナーと同乗者に提供する。これもまたポルシェのエクスペリエンスだ。
2L 直4ターボエンジンは、生理的な心地よさが印象的。
ボディーは重たいハズなのに、軽快さが印象に残り、回頭性のよさも相まってスポーツブランドらしい説得力を持つ。色々な機械が複雑に織りなしながら、走り、曲がり、止まる。やはり機械を動かしている、というのはイイ。ステアリングを握りながら、ポルシェの意地を垣間見た気がした。
【まとめ】今後確実にエンジン版の価格はあがるので
今のうちに乗っておくのはアリ
EV化はポルシェとしても無視できない世界的な流れだ。最量販車であろうマカンのEV化は必然なのだろうが、一方で別次元の完成度を誇るガソリンエンジンのマカンが消えるのはもったいない話だ。EVマカンが、ガソリンエンジンマカンを超える魅力を放つかはまだわからないし、そもそも日本導入がいつ頃になるかも不明だ(確実に導入されるとは思うが)。
だとしたら、今のうちにガソリンエンジンマカンを手に入れ、気負わずにラストガソリン車としてカジュアルポルシェを愛でるのはアリだと思う。
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モデル紹介――新 唯(あらた ゆい)
10月5日栃木県生まれ。ファッションモデルとしての活動のほか、マルチタレントを目指し演技を勉強中。また2022年はSUPER GTに参戦するModulo NAKAJIMA RACINGのレースクイーン「2022 Moduloスマイル」として、グリッドに華を添えた。