アイドルユニット「純情のアフィリア」の寺坂ユミさんを、ASCII.jp自動車部のゆみちぃ部長としてお招きし、様々な自動車を試乗する本連載。昨年あたりから、彼女の心をつかんで離さないクルマがあります。
その名は「マイナーチェンジ版ポルシェ・カイエン」。ついにに試乗する機会を得ました!
ポルシェの屋台骨を支えるラージサイズSUV
カイエンが登場したのは2002年のこと。当時、エンスーの多くが「ポルシェがSUVを作るとは何事だ」「俺たちの知っているポルシェは終わった」と同社の高級SUVマーケット参入に落胆しました。
しかし、フタを開けてみれば市場は大歓迎で、売れ行きは今にいたるまで絶好調。2023年の全ポルシェラインアップで最も売れたのがカイエンなのだとか。その数は8万7553台。実に3割以上の販売台数を誇ります。いまやカイエンとマカンが、ポルシェの“持続可能性”を支えていると言っても過言ではありません。
ゆみちぃ部長が「カイエン」という言葉を覚えたのは2021年秋のこと。千葉県木更津市に世界で9番目となるブランド体験施設「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」がオープンするというのでお邪魔した時にさかのぼります(千葉にポルシェのサーキットができたので台風だけど走りに行った)。
カイエンの助手席に座ったゆみちぃ部長は、「大きくて、乗り心地がよくて、シッカリ感があって、すごくイイクルマでした!」と熱く語るや「このクルマ、欲しい」と、情景の念を抱くように……。その目は、恋する乙女そのものでした。
以来、何かにつけて「カイエン」の名を口にするようになって約2年。
「あれこそ、私が乗るべきクルマ」といわんばかりの一目惚れっぷり。そしてついに試乗の日がやってきました。
外見の大きな変更はないが
ホイールが大きくなって迫力が増した
パッと見た感じ「以前と変わってないんじゃない?」と思えるのですが、よく見るとホイールは20から22インチへとサイズアップしたほか、テールランプは左右をつなげた最近のポルシェの一文字タイプへ。フロントバンパーとグリル、ボンネットも変更されています。そして全車マトリックスLEDライトが標準装備となりました。
寸法は全長4930×全幅1983×全高1697mmと立派なラージサイズ。威風堂々とした王者の風格が漂います。
ラゲッジスペースは698Lと大容量。バックドアと床面がツライチになっているので使い勝手は良好です。プライバシーボードは「単なる板」で、取り外すと置き場に困ったりします。また、12Vアクセサリーソケットがないため、キャンプに便利なポータブルバッテリーをラゲッジに置いて走行中に充電することはできないようです。
リアシートを倒せば1708Lで「載せられない荷物はない」と言いたくなるほど。リアシートを倒した時、若干角度がつくものの床面はフラットになりますので多くの荷物を載せるのに便利です。さらに良いのが荷室部分の車高を下げることができること。小柄な方や重たい荷物を積載する時にはとても便利でしょう。
エンジンが刷新されモアパワーモアトルク!
重量級ボディーを軽々走らせる
パワートレインも刷新。注目は最高出力176PSの電気モーターと、大幅に改良された同599PSの4L V8ツインターボエンジンが組み合わされたハイブリッドユニットを搭載する「ポルシェ・カイエン ターボEハイブリッド」。
システム総出力は739馬力、最大トルクは950N・m、0-100km/h加速は3.7秒、最高速度295km/hというからスゴい! さらにEV航続距離は82kmと、従来のカイエン・ハイブリッドの2倍で環境に優しい1台に。
もっとも、お財布には厳しくて2342万円~というプライスタグが付けられています。今回試乗したのはハイブリッドモデルではなく、最高出力474馬力を発する4L V8ターボエンジンを搭載したカイエンSというモデル。ガソリンはもちろんハイオク専用で、タンク容量は90L。都心部での街乗りはメーター読みでリッター4km……。1561万円というプライスと相まって、やはりお財布には厳しいクルマです。
カイエンSは、3車種あるガソリンエンジン搭載モデルの中間に位置するモデル(カイエン→カイエンS→カイエンGTS)。ノーマルモデルより走りに振ったモデルといえ、それゆえかルーフやリアデフューザーにカーボンが採用されています。またマフラーエンドも左右2本づつ出ており、迫力たっぷり。結構いい音がしていました。
デジタル化を推し進め、タイカンのようなインテリアへ
インテリアは、ポルシェらしいドライバー志向のデザイン。フル液晶は3連タイプで911の5連とは違うんだ……と思った一方、ステアリングホイールも911とほぼ同等のものを装備しています。
20秒間全開になるスイッチも搭載!
シフトレバーはタイカンと同じに
ステアリングホイールにはポルシェらしく、走行モード切替スイッチを用意。オフロード、ノーマル、スポーツ、スポーツプラスの4種類を用意します。中央にはスポーツレスポンススイッチがあり、20秒間だけハイパワーモードで走行できます。
クルーズコントロールはフォルクスワーゲン系らしくステアリングコラムに操作スイッチを配置。アダプティブ+ハンドル支援でロングドライブもラクラクです。
ただ、今までのポルシェと違い、パワースイッチがボタン式へと変更。右側に配置するのは今までと変わりません。
また、タイカンと同じようにメーターパネルが左下に配置されています。
そのため幅広のセンターコンソールはスッキリした意匠へとなりました。グロスブラック仕上げであるため、指紋が目立ちやすいのが難点です。スマホトレイはワイヤレス充電に対応。素晴らしいのは手首を捻らずに置ける縦置きタイプで、さらに充電中の発熱を抑えるべく、送風口が設けられていること。
12.3インチのインフォテインメントディスプレイはダッシュボードよりも下側につけられているため、前方視界は良好。「Hey Porsche」と声で指示を出すだけで、ナビゲーション、音楽、エアコン、アンビエントライトなど、車両のあらゆるものをコントロールできます。もちろん行きたい場所を伝えると、リアルタイム交通情報を考慮にいれた最適なルートを選択できます。
助手席にもインフォテインメントディスプレイを取り付けることができ、動画ストリーミングサービスを使っての映画鑑賞も可能だそう。スマホ連動も良好で、問題なく動作しました。なお、ポルシェはApple CarPlayを介してラジオやエアコンを直接操作できるようになる次世代CarPlayの先行導入をコミットしていますが、カイエンには搭載されなかった様子。
ペダルがオルガン式じゃないのが不満
それ以外の車内装備は文句ナシ
天井は黒のベロア調で、光の乱反射を抑制するなどスポーツカーの雰囲気たっぷり。ダッシュボードの中央に時計を配置するのも高級車ではよく見かける仕様です。
ポルシェらしくないのはペダルがオルガン式ではないところ。SUVとはいえ、スポーツモデルはオルガン式が良かったですね。
また、オプションでお好みの1台を作るれますので、試乗車の室内はあくまでひとつの例。それでも「やっぱり上質感がすごい」と言葉を失うゆみちぃ部長。一方でレザーシート至上主義者の彼女にファブリックシートは合わないようで、そこが引っかかった様子。
後席はさすがの広さ。エアコンは左右独立、シートヒーター、ベンチレーションもオプションで用意されています。USB Type-Cの充電ポートもありますので、長時間のドライブも安心です。センタートンネルはかなり幅が広く、シートの中央部が小物入れになっているので4名乗車のようです。
アームレストにドリンクホルダーがついているので、ドリンクを置くとひじ掛けが使いづらかったり……。
ボディーが大きくて有り余るパワーがあるけど
スムースに運転できるのはポルシェマジックか
それでは、ゆみちぃ部長による試乗の時間です。大きな車両ゆえ、慣れるまではドキドキされた様子。ですが、しばらくすれば滑らかな走りと高い安定感に、ゆみちぃ部長の頬が緩みます。端的に言えば、乗り心地がよくて、スムースで、それでいてパワフル。文句のひとつもありません。
「とにかく守られている感じがします」とゆみちぃ部長。「ドアを閉めた時の質感、密閉感がいいですね」と、ほかでは味わえないポルシェのフィールを感じられていました。
一方で「Aピラーが太くて右左折時が見づらい」という話も。2トンを超えるクルマがひっくり返った時の事を考えたら、これくらいの太さは必要なのでしょう。
全体的に軽やかなフィールゆえ「これが2トンもあるクルマなのか?」と疑うほど間違いなし。使い勝手の点ではライバルのSUVに劣る部分はあっても、ドライブフィールでは上回ること間違いなし。いつまでも運転していたい、と思わせるクルマってそう多くはないのですが、カイエンは間違いなくそんな1台と言えそうです。
カイエンに大満足されたゆみちぃ部長。「やっぱりいいなぁ」と、一層恋心を高められた様子。しかし、EV大好き部長としては「エンジンの音が気になる」と、4L V8 ツインターボが気に入らないご様子。というわけで「次はハイブリッドのカイエンが本命ですね」と、早くも目を輝かせていました。
マカンとカイエンの違いは、大きさよりも「ポルシェらしさ」ではないかと感じた部員K。カイエンの方が手応えがあり、ドライバーに対する要求レベルが高いように思いました。
この次に手強いのがタイカン/パナメーラといったスポーティーセダンで、718、911になるとドライバーを突き放す傾向があります。この手強さこそがポルシェであり、それゆえ「ポルシェ使い」という言葉が誕生するわけです。
カイエンを買われる方は、駐車場に1台分のしかスペースしかない中で「ファミリーカーとしての役割をこなしつつ、ポルシェという名門ブランドのクルマを所有したい」というポルシェブランドに憧れを抱かれている方か、「すでに911を所有している富裕層」ではないでしょうか。
カイエンは「憧れている人」と「すでに持っている人」の両者を満足させなければならないのです。手強いクルマだったら、ブランド名で憧れを抱いていた人の心は離れてしまう。かといってヌルいクルマだったら、ポルシェ使いからソッポを向かれる。
つまりポルシェらしさをどこまで残すかが重要で、カイエンはこの塩梅が実に見事。なるほどマカンよりも高額であるにも関わらず、8万7553台も生産される人気車種とは、こういうことなのか。
ポルシェのおそろしさに触れた気がしました。
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寺坂ユミ(てらさかゆみ)プロフィール
1月29日愛知県名古屋市生まれ。趣味は映画鑑賞。志倉千代丸と桃井はるこがプロデュースする学院型ガールズ・ボーカルユニット「純情のアフィリア」に10期生として加入。また「カードファイト!! ヴァンガード」の大規模大会におけるアシスタント「VANGIRLS」としても活躍する。こだわりが強く、興味を抱くとのめりこむタイプであることから、当連載でお気に入りの1台を探す予定。