はろぷりは、コクヨが発売した感熱紙プリント式キッズカメラです。今どきのスマートフォンとは真逆のモノクロ・ざらざら・低解像度の三拍子そろったカメラ。
今回は、こういったカメラの方がスマホよりも記憶に残りやすい写真を撮れるのではないか、という点を、過去の研究や事例を参考に明らかにしていきます。

●写りは粗くても、とにかく気軽に残せる はろぷり
 はろぷりは、「白黒感熱紙プリント」「低い鮮明度」「安価なロール紙」の三つが大きな特徴。高解像度ではなく「写りは粗くても、とにかく気軽に残せる」のが利点です。
 感熱紙プリントとは、熱により発色する紙のこと。はろぷりは、撮ったその場で印刷できる点も強みですが、さらにインク残量を気にせず印刷できます。写真はカラーではなく、白黒で印刷されますが、感熱紙は文字などを書き込むのにも適しているので、色を塗ってみたりとさまざまな工夫ができます。
 搭載カメラは2400万画素とありますが、解像度はかなり粗いです。感熱紙印刷なので鮮明度が低く、ラフな仕上がりで、小さな文字が読めないほどです。
 そして、ロール紙が安いのも強み。1本あたり100円以下で購入できることもあるので、失敗を恐れず枚数制限なくプリントできます。
●粗いプリント×スクラップ=記憶を深める仕掛け
 では、なぜ高画質なカメラではなく、はろぷりのようなトイカメラを推すのか。そこにはカメラで撮ったときの脳の働きに違いがあるからです。

撮りすぎ・高解像度は記憶を薄める?
 実は、カメラで撮っただけで記憶が鮮明に残るかといわれると必ずしもそうではありません。例えば、高画質なスマホのカメラで何十枚も写真を撮っておいても、結局何を撮ったのか、どんな出来事があったのかあまり覚えていなかった、という経験はありませんか。これは写真を撮ることで、逆にその体験に関する記憶力が下がってしまう、いわゆる「フォトテイキング・インペアメント」現象だと考えられています。
 フォトテイキング・インペアメントは、具体的には以下のような認知プロセスにより発生します。
(1)カメラが“外部記憶”になるせいで脳は「覚えなくていい」とサボる(認知的オフローディング)
(2)シャッター操作や構図決めに気を取られ注意が体験からそれる(注意逸脱)
(3)撮った瞬間に「もう記録した」という完了感が生まれ、深い処理を飛ばす
(4)情報として記憶するための過程(符号化)が十分ではないため、後で思い出せる情報量が減る
 有名な実験として、被写体を丸ごとパシャッと撮ったグループは、撮らずに観察したグループより美術館の展示物の位置やディテールを思い出せなかった、といった事例があります。
●あえて「粗く・少なく」残すメリット
 こうした点を踏まえると、はろぷりはその製品の特性上、記憶に残りやすいカメラと言えるでしょう。
 白黒で画質が粗いので、写真の細部は自分の記憶で補完しようとする。脳は不足している色やディテールを想像で補完し、深く感情移入する。だから撮りすぎない。
 感熱紙は時間とともに薄れる。だから色あせる前にアルバムへ貼ろうと行動が促される。
 そして、レンズがチープなので手軽に撮れる。
簡素な構図を選ぼうとする。さらにロール紙は安価なので、失敗を恐れず撮れるため、瞬間の感動を逃さない習慣が身につく。
 つまり、「撮りすぎない」「見返す機会を増やす」「自然とシンプルな構図になる」というトイカメラゆえの一連の行動が、記憶の符号化と想起を自然に鍛えてくれるのです。
●スクラップは記憶を深める 脳を活性化させる「スクラップブック療法」
 逆にレンズの粗いカメラの方が、人の記憶に残りやすくなる可能性を秘めていることはわかりました。さらに、その特性を生かして脳を活性化させる「スクラップブック療法」にも注目です。
貼って語るだけで脳がよろこぶ
 スクラップブックといえば、雑誌や新聞の一部を切り取って貼り付けていた人も多いのではないでしょうか。現在、こういったスクラップブックづくりが、心理療法として高齢者施設で活用されている事例があります。過去の経験や記憶を思い出し、語り合うことが、高齢者の精神的な安定や認知機能改善につながるとされる「回想法」の一環として使われているのです。
 こうした効果は、手を動かしたり、語り合ったりすることで、脳が刺激されるからこそ起こるもの。具体的なポイントは以下の通りです。
(1)手先を動かすクラフト作業で前頭前野が活性
(2)写真を見ながらエピソードを語ることで海馬が刺激
(3)完成した冊子を家族と共有=社会的交流でストレス低減
 ちなみに、米国神経学会が紹介したアート&クラフト研究では、創作活動を続ける人は、軽度認知障害の発症リスクが73%低かったと示されています。手先を動かし作業をする人は、認知症になりにくくなるということです。

はろぷりでもできる はろぷり+ノートで始める“毎日3ステップ”
 この「スクラップブック療法」をはろぷりに応用してみます。上手くいけば、日常的に脳を鍛えることができます。気になる人は、以下のように、「撮る」→「貼る」→「書く・語る」の3ステップで取り組んでみるのが良いでしょう。
まずテーマを決めよう! 今日からできるスクラップブック療法
 始めるには、基本的に100均のクラフトノートがあればOK。ですが、色ペンがあれば、プリントに色を塗れるので可愛いアクセントにもなります。
 コツはテーマを絞ること。「今日のありがとう」「季節の花」「推し活」など、身近なところから考えていくと良いでしょう。
 家族を巻き込んでみるのもありです。孫が撮った写真に祖母がコメントを書く「リレー帳」もおすすめです。1カ月ごとにページを見返しながらプチ振り返り会を開けば、思い出を語る時間そのものが脳トレになります。
 ちなみに、筆者が実際にやってみたところ、A6ノート1冊で約100カット貼れるので、1日3枚でも1カ月分。厚みが増えるたび達成感も芽生えてきます。

●高画質じゃなくても、心に鮮明な一枚になる
 脳トレにも役立つはろぷりを使ったスクラップブックづくり。筆者は「日本酒ノート」を始めてみました。
 日本酒は酒造やロットごとに多様な特徴をもっています。ただ、酔っ払っているせいもあるのか「どれが、どのように美味しかったのか?」なかなか覚えられませんでした。
 また、飲んだボトルの写真をスマホで撮影したり、iPhoneのメモアプリなどを使って記録していたのですが、飲みながらチマチマとスマホをいじるのを、ちょっとストレスに感じることもありました。一人でメモしているので孤独感があり、せっかくの飲みの場の雰囲気を冷ましてしまっているような気分にもなります。
 ですが、はろぷりで日本酒ノートを付けるようになってからは、一緒に飲んでいる仲間に「なにやってるの?」と面白がってもらえて、一緒に感想を考えてもらうきっかけが増えました。「紙」をプリントして貼って書く。一人でチマチマやっているよりかは、周囲の興味を引きやすい行動だと思います。
 みんなの意見を書き入れることで、話題も広がり、「素敵な思い出」が残る。「高画質じゃなくても、心に鮮明な一枚になる。」そんな体験を、はろぷりとノートで始めてみませんか。(Jag Project,LLC代表・Jag Yamamoto)
【参考文献】
[1]コクヨ. 好奇心応援プリントカメラ「はろぷり」公式サイトhttps://hellofamily.kokuyo.co.jp/view/page/hp (参照 2025-07-18)
[2]Henkel L.A. Point and Shoot Memories: The Influence of Taking Photos on Memory for a Museum Tour. Psychological Science, 25(2):396 402, 2014.
[3]Bethesda Health Group. Cognitive Benefits of Scrapbooking for Seniors. Blog post, 2023 04 26. [online]. Available: https://bethesdahealth.org/blog/cognitive-benefits-of-scrapbooking-for-seniors/ (参照 2025-07-18)
[4]TIME Magazine. The Health Perks of Arts and Crafts for Adults. TIME, 2015 04 08. [online]. Available: https://time.com/3814104/adults-arts-and-crafts/ (参照 2025-07-18)
[5]Soares J.S.&Storm B.C. “Photographing for memory: repeated photo‐taking impairs, not improves, memory.” Psychonomic Bulletin&Review, 29(6): 2211 2218, 2022.
■Profile
Jag Yamamoto(山本釈弘)
Jag Project,LLC代表。
武蔵野美術大学デザイン情報学部 実践的社会論講師。オランダジャーナリスト協会会員。
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