昨日まで元気だった人が突然倒れ、そのまま還らぬ人に…。そんな30代、40代という働き盛りの突然死が増加している。
「それには、健康の仮面をかぶった『潜病』という状態・ステージを知ることが重要です」
そう語ってくれたのは『なぜ、元気な人ほど突然死するのか 強い血管をつくれば健康になる!』の著者、日本循環器学会専門医・杉岡 充爾氏(※以下、本稿では「杉岡氏」と記載する)だ。
杉岡氏によれば、病気とは診断されないけれども、慢性疲労や頭痛、便秘などの不快な症状がある状態を指す「未病」の前に、見えない「潜病」というステージがあるという…。
では、「潜病」とは何なのか。前回に続き、じっくり話を聞いてきた。
30代、40代という働き盛りの突然死が増加している。突然死の怖さは若くても、昨日まで元気でも起こること。
ではなぜ、昨日まで健康に見えた人が急に還らぬ人になってしまうのだろうか。この世代の突然死の原因の多くは「血管のけいれん」によって血管が詰まってしまうことだと杉岡氏は言う。
「血管がけいれんする原因や予兆は健康診断ではわかりません。しかし、無意識に過度のストレスを受け続けることで、日々のストレスを軽減するための『抗ストレスホルモン』をつくる副腎の機能が低下し、血管がけいれんを起こす危険性が高まっていきます。この『副腎機能の低下』期間こそが『潜病』という盲目のステージなのです」
副腎とは、左右の腎臓の上にある親指ほどのとても小さな臓器で、ピラミッドのような形をしている。
その結果、ストレスを受け続ける血管は緊張状態を強いられ、血管の機能も著しく低下するのである。
つまり、副腎疲労によって血管が弱っている「潜病状態」に気づき、そこで正しい対策をとれば、突然死のリスクを軽減することが可能だと言えそうだ。
■潜病~突然死を予防する3つのポイントでは潜病状態をどうやって見抜くか。また、そうであった場合の具体的な対策はどのようなものがあるのだろうか。
「軽微なサインで見落とされがちですが、例えば寝起きが悪くなったとか、甘いものを摂取したりコーヒーを飲む頻度が増えている場合はストレスの影響が大きくなっていると考えてください。潜病対策としては前回もお話した通り以下の3点が重要になります」
① ストレスの軽減
② 食事の見直し
③ 適度な運動
また、杉岡氏によれば、自律神経が整うことで、ストレスを上手に受け流して、副腎をはじめとした体のダメージを予防できるという。そのためには朝に軽く体を動かすことが効果的なのだとか。
例えばいつもより5分早く起きて、ベッドの中で軽くストレッチをすれば、交感神経に適度な刺激を与えることができる。さらに、有酸素運動でもある「ジャンプ」は全身運動にもなるのでおすすめだと話す。
「実は私も毎日仕事前に100回ジャンプしています。
ライフスタイルの見直しに加えて、血管自体を強化することも忘れてはいけない。そのためには有酸素運動が大切だ。なぜなら、運動で内臓脂肪を減らすことによって、傷ついた血管を修復する「アディポネクチン」というホルモンを分泌することができるからだ。
「ウォーキングやジョギングといった有酸素運動を定期的に行うことで、内臓脂肪は必ず減らすことができます。内臓脂肪が増えると血管は詰まりやすくなるので、お腹まわりをすっきりさせましょう。見た目も良くなり突然死の予防にもなる。
とはいえ、普段あまり運動をする習慣のない人にとって有酸素運動はハードルが高いのが正直なところだろう。そこで(本来であれば意識的に運動する時間を設けるべきなのだが)、通勤時間や休憩中にできて、なおかつ内臓脂肪を減らすためにおすすめのトレーニングを杉岡氏に教えてもらった。
「腹筋トレーニングである『ドローイング』は、お腹をへこませるだけの簡単な運動なのですが、内臓脂肪を減らす効果はバツグンです」
【基本的なドローイングのやり方】
① 肩幅くらいに足を開いて立ち、お腹をリラックスさせる。
② 3秒くらいかけて鼻から息を吸い込み、お腹をふくらませる。
③ お腹を思い切りへこませながら、6秒くらいかけてゆっくりと口から息を吐き出す。そして、お腹に力を入れながらさらに2秒息を吐き、お腹をギュッとへこませる。
④ お腹に力を入れて、お腹をへこませた状態をキープ。息は止めないで、自然に呼吸を続ける。まずは30秒を目安に。
このドローイングは、座っても横になっても同じように行えるのだそう。杉岡氏も毎日行っているという朝の100回ジャンプと合わせて、さっそく今日から生活に取り入れていただきたい。
■自分と大切な人に「潜病」が無いかを見直して、突然死を予防するここまで述べたように「潜病」から脱して突然死を防ぐには、日常生活やライフスタイルの改善が重要だ。しかし、染み付いた生活習慣というのは一人ではなかなか変えられないもの…。
だからこそ身近な人、特に生活をともにする家族の目や協力が非常に有効ではないだろうか。
日常の些細な変化に気づくことができるし、夫婦や親子で一緒にエクササイズをするのも良いだろう。その結果、自分だけではなく大切な人も突然死から守ることができるのだ。
「でも、無理はしないでください。人間ですから、たまにはエクササイズを忘れる日や寝坊する日もあると思います。予防がストレスになって副腎疲労してしまったら本末転倒ですから(笑)」
自分や家族が健康だと思っている貴女も、生活の中で突然死の原因となる潜病はないかどうか、今一度見直してみてはいかがだろうか。
そして、突然死を「急に起こる不幸」ではなく「予防可能な自分ごと」として捉え、できる範囲で予防に取り組んでほしい。