「大麻グミ」による健康被害が話題だ。その成分である「HHCH」を厚労省は指定薬物に追加し、販売、所持、使用を禁止した。

危険ドラッグとその取り締まりはもはやイタチごっこの様相を呈しているのが日本の現状だ。一方海外では、2019年以降、大麻はアメリカの州によっては嗜好用としても解禁され、瞬く間にバドワイザーの売り上げを抜くといったニュースも世界を駆け巡った。いまアメリカでは大麻はどう扱われているのか? 頚椎ヘルニアの激痛から逃れるため、世界中の大麻治療を体験し、それを著した『マリフアナ青春治療』著者・工藤悠平氏がアメリカの大麻事情の最前線(2020年当時)を語った記事を再配信。



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■産業としての「大麻」



 昨今、グリーンラッシュと呼ばれ世界中を席巻するカナビスインダストリー(Cannabis Industry:大麻産業) に新たな兆しがあるのかもしれない。まず前提として、現在のアメリカにおいての大麻の法律は、大麻の完全解禁までの発展途上のためなのかとてつもなくややこしい状態の中にある。そのややこしさは一言で言ってしまうと、アメリカの多くの州では嗜好用大麻を含めた大麻が合法化されているにも関わらず、アメリカ全土を管轄する『連邦法』では「一部を除いて」は未だに 違法状態となっている、といったところだ。この点に関しては法律が複雑化してしまう点は世界共通ということで、本記事では詳細は省かせていただく。
 現在多くの州で大麻が解禁されているアメリカにおいても、カナビスインダストリーへの事業進出は、当該事業において金融機関を利用することへの一部制約がある、ということが大きな障壁となっている。これは例えばユーザー目線で考えた場合の一例として、アメリカでの大麻販売店であるディスペンサリーで大麻などの商品を購入する際は、クレジットカードを利用することができない、という点が挙げられる。
 この点については現地の多くの店内にはそれに対する対応策としてATMが設置してあるため心配は無用だ。規制するのかしないのか、日本でいうところのパチンコの三点方式を連想させる対策となっているところが絶妙な状態であることの証ではないだろうか。アメリカにおいての金融機関も間接的にはカナビスインダストリーを支援しているといえるだろう。

ところがこの制約は、私達消費者にとっては現金を準備する煩わしさが増すことになるだけなのに対し、実際の経営を考えたときの大麻販売店ではさらに問題が増えることとなる。





アメリカ議会で大麻ビジネスの銀行業務法案が可決後(2019)、西海岸の一部のITワーカーや起業家はハイな状態に!?





■大麻で稼いだ現金を屋根裏に隠す!



 皆様はNetflixにて日本語吹き替え版まで登場している『ハイ・ライフ(原題:Disjoint)』というドラマをご存知だろうか? このドラマは、あの『タイタニック』にも 出演した女優である、キャシーベイツらで構成される豪華出演陣によってアメリカの大麻販売店の日常が描かれたドラマだ。以下ネタバレとなってしまうかもしれないのだが、このドラマ内で はドラマ内の大麻販売店において以下の描写がある。
 まず前提として当時(筆者が原稿を書いている今日時点ではこれから述べることが生じかねない法律制度はまだ存在している)アメリカにおいては、大麻販売の事業活動から生じる収益は現地の銀行に預けることが出来なかった。さらにはアメリカ特有の州法と連邦法の矛盾から、大麻販売店を置く州法には完全に準拠した経営方針を取っていても、連邦法では大麻そのものが違法ということで、様々な『わけのわからない事態』が生じることとなる。
 これらの法律的矛盾や制約から、ドラマ内に登場する大麻販売店の利益から生じた現金を屋根裏に隠す、という描写がなされている。当然それでは経営的にも常識的(日本、アメリカ共通の認識のもとでの常識的)にも、余りにもリスク管理ができていない。その指摘をMBAホルダーであるトラビスが、大麻販売店トップである主人公のルースにすることとなる。そして以上の現金だけが増え続けるという事象に対するリスクヘッジとして、当該事象によって貯め込んでしまった現金でルースの『墓石』を購入しようと検討していた。ところがそのキャッシュアウト直前、連邦政府が駆け付けてしまい、せっかく苦労して貯め込んだたくさんの収益は、日本の税務署さながらの『モッて行き方』をされてしまうというトラジェディだ。
 以上はドラマ内でのメタファーだが、同じような環境に置かれたとしたら皆様は大麻事業に乗り出そうと思えるだろうか? 少なくとも筆者には無理だ。筆者的には、それなら国家のバックアップという点では少し不利になっても障壁の少ないカナダで起業しよう、と思ってしまうだろう。





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■アメリカ議会が大麻ビジネスの銀行業務法案を可決!



 しかしながらこれまで長々と語ってしまった大きな障壁である、 アメリカでのディスペンサリーと金融機関との取引規制がまさにいま、緩和されつつある。2019年9月に米下院がカナビスインダストリーに対する銀行サービスを提供する法案を可決したことを皮切りに、米当局が銀行に対しカナビスインダストリーとの取引を段階的に明確化するとの報道が出始めている。
 この記事を執筆している現在はまだ上記明確化は段階的になされることになる課程の最中なのだが、数年前のカナビスインダストリーへの期待や実績と比較すると、今後世界的にさらなる法的整備が当産業の発展という共通認識のもとでなされていくだろうことは読者皆様も少なからず感じているはずだ。
 そして今、諸々の事情からアメリカでは徐々に外出規制が増えてきていることで、部屋の中で過ごす機会が多くなってきている。これはリラックス効果をもたらすカナビス製品には追い風ともなり得る。それはなぜかというと、西海岸の一部のITワーカーや起業家の中には、いわゆる『ハイ』な状態で仕事をしている人がすでにこれまでも発生していた。そして彼らが社会に許容されつつあることで、今はもはや合法であるカナビス製品に手を出すことに抵抗のある人も減少傾向にある。さらに人目や匂いの届かない自宅での仕事環境を突然与えられた人たちの一部は、以上のような成熟した環境によってカナビスデビューをし出してしまうだろうことは、事情通なら容易に想像できることかもしれない。現在の世界情勢を逆手にとってカナビスインダストリーがさらなる発展への追い風となることを筆者は願っている。





文:工藤悠平

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