65年前の今日は1955年11月15日——自由民主党結成の日だニャン。



◼︎素晴らしい自由民主党と美しいジャパン

 今日は自由民主党の65歳の誕生日だ。


 還暦は過ぎたが、引退にはまだまだ早い。平民ならまだまだ、働かねばならない。上級国民ならまだまだ、のさばれる。権力の奥座敷にいる長老たちから見ればまだまだ青い。死ぬまで働くか、死ぬまでのさばるか、これがジャパンだ。



 1955年11月15日、吉田茂率いる自由党と鳩山一郎率いる日本民主党、二つの保守政党が合併して、自由民主党が生まれた。



【自民党65歳】「サンセイのハンタイの反対は賛成‼️」自己愛...の画像はこちら >>



 先立つ同年10月、左派と右派が再統一して、日本社会党ができていた。
 永久与党の自由民主党と永久野党の日本社会党による「55年体制」は38年間続いた。1993年の細川内閣で、自民党が初めて野党となることで、この体制は崩壊した。



 昔の小学生は「サンセー! ハンターイ!」と言って遊んだ。
 自民党に寄り添い、寄生していた社会党は衰退、ベルリンの壁崩壊後、いつの間にか消えて無くなった。社会党を支えていた労働組合は役割を終え、自己改革できずに退化絶滅した。



 新党は季節商品のように、次から次へと店先に出ては忘れられていく。



 細川・羽田内閣の1年、民主党政権の3年という、短い中断はあったが、政権交代サンプリングで終わった。
 その民主党も自民党田中派を継承した竹下派が作ったことをすでに平民は忘れている。



 自民党は戦後西側世界に稀にみる、長期にわたる一党断然優位、政権与党の座にあり続ける。受け継がれる派閥は人間関係と利害関係のパッケージだ。



 政権交代は自由民主党の内部で行われる。

アメリカの共和党と民主党のような思想と政策をぶつけ合う外部構造は無い。すべて自由民主党内部で事足りる。



 日本は自民党が回す。当たり前すぎて話にもならない。
 上にはうっすら菊のご紋章を頂く。下にはがっつり官僚と地方自治が末端まで根を張る。


 記者クラブを頂点に、ワイドショー&週刊誌を底辺とする御用メディアがお囃子を奏でる。網の目のように広がる草の根が限界集落までもゆきわたる。



 大多数の国民は政治とは無縁だが、大多数の国民は自民党とつながる。世界で唯一かつ最も安定した政治システムだ。おかげさまで戦争には行かない。平和すぎて申し訳ない。



 しかし、日本は回りながら落ちていく。
 世界第3位の経済を何とか保ちつつ、対GDP比世界最悪の債務残高を抱え、貧富の差は世界で8番目に大きい。階層格差から階級へと、固定は進む。



 農薬使用量、残飯廃棄量、若者自殺率、精神病院数、寝たきり数、世界一。



 嫌いな中国人と韓国人に支えてもらったインバウンドはコロナで停止、おいしい日本は食品添加物の種類も世界一。カワイイ頼りのクールジャパンでペット殺処分は世界断トツ。



 誰のための低賃金とハードワーク、誰のための同調圧力とガマン、誰のために放射能で汚染された美しい国。



 あやしい調査会社が18~29歳の菅内閣支持率は80%だと発表している。信憑性はなくても、そんな情報が出てくること自体が変だ。
 思考停止が完成した奴隷制度に終わりはくるのか。
 めでたく65年を迎え、選挙区を知らない世襲エリートたちも3代目から4代目、そして5代目となって特権階級は恒久化する。足りない分は低劣な新規議員で数を合わせる。



 平民ジャパンに、夜明けは来るのか。



 ますます劣化しながらますます強固になる、素晴らしい自由民主党とともに考えよう。



【1955年メモ】
トヨタが「クラウン」を発売し、日産が「ダットサン110」を発売
カリフォルニア州アナハイムに「ディズニーランド」が開園
東京通信工業(SONY)が「トランジスタラジオ」を発売
西ドイツが主権完全回復、「ワルシャワ条約機構」発足



◼︎亡国の汎用OS——見事なエコシステム

 令和日本において、自由民主党以外のすべての政党は、自由民主党を支えるために存在する。
 全盛期の「昭和」の日本社会党ですら自民党の補完機能でしかなかった。その社会党が役割を終え消滅してからは、その他の補完政党は自民党と共存するためのマイナーチェンジをちょこちょこ続けながら今日に至る。



 残念な、そして美しいジャパンの鉄板のインフラが自民党だ。



 宗主国アメリカに従属して生き延びる巨大な生命体のしぶとさを国民は自覚しない。極限まで完成度を高めた支配と被支配の芸術的仕組みだ。自民党の一部となって完全補完する公明党と、その唯一のライバルである職業野党の日本共産党という、二系統のガス抜きバルブ、教団型政党の支えもあって、見事なエコシステムは運営されている。



 選挙に行くすべての日本人と、選挙に行かないすべての日本人の共犯関係が完全犯罪を可能にする。
 世論調査結果をあらかじめ知らしめ続けることで、政治的無関心を恒久化し、諦観は無意識レベルで固定する。
 散発的な政策的対立のフォーカスに、政局的対立のボカしを入れて、御用メディアが無毒化する。



 賛成の反対の反対は賛成だ。賛成と反対を繰り返しているうちに、何に賛成で何に反対かもわからなくなる。
 自民党、公明党、日本共産党、その他スキマ流動政党、記者クラブが一体となったガラケージャパンの汎用OSだ。



 同情するようなふりをしても、平民の痛みに関心は無い。
 国民のみなさんに対することばにも、心は無い。
 ただ自己保存本能に従って動く。GAFAも顔負けのマシーンだ。



 対抗勢力は存在しない。
 対抗文化も存在しない。
 対抗する力が生まれない。



 保守合同からの65年で、タマを抜かれてしまった。
 義理と人情、度胸と愛嬌、意地と根性も葬り去られた。



 モーレツな昭和はアンインストールされ、ゆとりの平成が常駐アプリとして動作をさらに重くし、フリーズしたまま令和になった。



 かくして民族の闘争本能と生殖能力は奪われた。
 家畜人ヤプーの帝国が完成したいま、そこには星飛雄馬もあしたのジョーも悟空もはだしのゲンもいない。反逆のルルーシュも亡国のアキトもいない。ドラえもんの都市伝説だけが親から子へと静かに語り継がれる。





◼︎この65年間で起きたこと

 政治的議論なき国…ジャパン。
 田中角栄の追い落としをきっかけとして派閥政治、金権政治が批判された時代があった。
 中選挙区制から小選挙区比例制への制度変更もあった。
 自民党の宿痾と言われた党内派閥を衰えさせたが、結果的に自民党に存在しなかった「党中央」を、行政機関である首相官邸というかたちで生み出した。



 土地に紐づいた票田を相続する子弟女婿か、さもなくば頭数要員の低劣な落下傘候補者かの2択を与えることで、誰が国会議員になるかを選ぶ発想を平民から奪った。
 NHKと新聞社による世論調査が頻繁に行われ、一票の無力を日々刷り込んだ。
 投票を決める以前に結果がわかっていたら投票する意味は無い。
 繰り返し生まれては消える新党は、あだ花にすらならず、新しい政治の流れなど決して生まれはしないと誰もが確信するまでに至った。
 有名無名の議員たちはGRP(テレビ露出量)を求めてバラエティー番組に出演し、政策議論を15秒CM化した。
 二流タレントが議員となり、都道府県知事になった。
 政策対立の無効化が確実に進んだ。
 政治イコール「政局」(誰がどうした、ただそれだけ)となって、始まる前から、筋も終わり方も同時に見える四コマ漫画になった。



 そこにはダークヒーローの一人もいない。そして、日本は衰えていく。



◼︎もはや保守政治家もいない日本のディストピア

 保守合同のとき、政治家はまだまだ特殊な職業だった。
 「党人」と言われたたたき上げも、「高級官僚」からの転身も、特殊な人間たちが政治家になった。いま見渡す限り政治家を名乗る人々は「凡人」だ。



 それは平民ジャパンの劣化と正比例している。



 幼稚化した老人、意思を持てない大人、心の折れた子供たち。
深く静かに広く、ネガティブな感情が広がるジャパン。
 嫉妬、羨望、諦観、無関心、結晶化した恨みつらみのマグマを、表面だけの善意が覆い隠す。コンプライアンスが違法な状態を包み隠す。



 65年間かけて、熱狂と正直さは日本から徐々に失われた。



 1964年の東京オリンピックは再来しない。
 1970年の大阪万博は再来しない。
 三波春夫の歌はもう二度とかからない。



 三島由紀夫は命を懸けてこう予言した。
「このまま行ったら日本はなくなって、その代わりに、無機的な、からっぽな、ニュートラルな、中間色の、富裕な、抜け目がない、或る経済大国が極東の一角に残るのであろう」(『産経新聞』1970年7月7日付)と。



 この天才ですら、格差の広がりと階級の固定までは読み切れなかった。



 AO入試で学力の落ちた学生たちは奨学金という借金を背負って生きる。
超大手企業正社員を頂点として、子会社孫会社関係会社下請け孫請け派遣無職生活保護の固定したヒエラルキーのどこかに居場所を与えられる。



 日本は選択肢の無い国になった。
 ブラックもホワイトも無駄だらけで、誰もかれもが意味不明に忙しい。
 女はもっと時間が無い。仕事のストレスは社内にある。家庭に居場所が無い。くつろぐ時間もない。プライバシーがない。
 だからスマホでソシャゲ、パチンコ、一人カラオケ、持ち帰る仕事はファミレス、アニメを見る時間もゲームをやる時間も言うほど無い。
 チューハイとコンビニ弁当で漫画アプリ読んで寝落ちする。
 鳩山一郎の孫の鳩山由紀夫、鳩山邦夫(故人)は、すでに政治の表舞台から去った。
 吉田茂の孫の麻生太郎も菅政権では用済みだ。
 岸信介の孫の安倍晋三は晴れて戦後最長政権を達成して首相を引き、河野一郎の孫の河野太郎は総裁選を断念して大臣職を保ち断固としてハンコを廃止する。
 そして、彼らの子弟に受け継がれていく。



 アルゴリズムと人工知脳が運転する金融経済が支配する世界では、人間の倫理観に制御を期待することがもはやできない。チキンゲームはクラッシュするまで続き、クラッシュしても生身の人間の屍を乗り越えてシステムは再起動する。平民はすり減り、踏みつぶされていく。郵政民営化を果たした国際金融資本はまだまだ日本を狙っている。最後の黄金伝説、日本の公的年金資金162兆円が残っている。ただでさえ破綻した健康保険と年金制度は、それ自体支えきれなくなって、奪われていく。



 ネットフリックスのCEOは日本での成長に大きな可能性を感じている。ハリウッド、韓流、そしてジャパニメーションの次にくるものは何か。日本にはなかった政治エンターテインメントかもしれない。
 あふれかえるディストピア、輪廻転生、貴種流離譚、悔恨共同体の悲しみと絶望のストーリーが、世界に輸出されるかもしれない。政治の貧困から乱世の物語は人類の定番だ。



 日本は落ちたというのはまだ早い。下には下がある。まだまだ底ではない。低空飛行でもまだ飛んでいる。家の下に巨大な空洞があることを知らずに生きている。放射能汚染は故郷の山河をゆっくりと半永久的に破壊している。





◼︎この支配からは卒業できない

 大統領選挙は人種と思想と世代のギャップをあからさまにした。トランプは白人男性のベビーブーマー(59歳以上)の圧倒的支持を受けつつ敗けた。
 バイデン(反トランプ)を勝たせたのは黒人をはじめとするマイノリティに加えて、人種を超えた18~29歳の若者層の投票行動だった。



 ミレニアル(1981~96年生まれ)とZ世代(97年以降生まれ)が勝負を決めた。



 2045年、アメリカの人種構成はさらに変わり、ついに白人が50%を切る。
前後してヒスパニック系の大統領が誕生するだろうとも想像される。
そして、同年は「シンギュラリティ(技術的特異点)」、「2045年問題」が訪れると言われる年でもある。AIが人間よりも賢明なAIをつくるかもしれないときを迎える。



 いまから25年後。
 日本の人口は約1億に縮み、その3分の1は65歳以上となっている。
 いま20歳の若者は45歳で疲れ果て、35歳の日本人は還暦を迎えて職探し、50歳の人々は75歳で徘徊し、65歳の人々は運悪く生き延びれば90歳で恍惚のブルースだ。
 単純な足し算だが社会の変貌は足し算ではない。
 足し算では想像がつかない異世界が平民ジャパンを待っている。



 そのときもまだ、日本はアメリカの属国だ。米軍基地は日本各地にある。



 弱者、少数者、高齢者に冷たい社会が奇妙な笑顔で繁栄を遂げている。
 都市の片隅には老人だらけのスラム街ができている。自由民主党は安泰で政治は吉田茂や鳩山一郎、岸信介の4代目、5代目にしっかりと「相続」されている。御用メディアの社員も、その下で働く派遣労働者もすでに3代目、4代目たちに引き継がれているだろう。



 ツタヤの調査では日本の若者(10歳~29歳)の64.4%が「いま期待する政党」として自由民主党を選んでいる。46.5%が早くも「次の首相」に菅義偉を選んでいる。
https://www.ccc.co.jp/news/2020/20201110_001966.html



 保守合同が生み出した自民党が環境を作り、極限まで適応することで、日本の政治は劣化しながら進化を続けた。
 そして日本は落ち続けてきた。
 これからまだまだ落ちる。
 思っているより底は深い。



 日本の闇はまだこの先にある。  



 夜明け前が一番暗いと人はいう。しかし夜明けはこないかもしれない。



 ——仕組まれた自由に 誰も気づかずに あがいた日々も終わる——  



 小さなしあわせを他人の不幸に求め、けっして闘わないジャパンは、この支配から卒業できない。



 しかし、それでいいのかもしれない。それでも平民ジャパンは、自由民主党のおかげで、じゅうぶん幸せなのだから。



 賛成の反対の反対は賛成なのだから。



 朝日のような夕日は、夕日のような朝日かもしれないのだから。◼︎