彼らは一体、何者なのか? 仕事は大丈夫? ただのサボり?
しかし、そこには想像以上に複雑な事情が潜んでいるケースも。今回は、実際に勤務時間中にビデオBOXを利用していた当事者たちへの取材をもとにその実像に迫った!
週3回以上、昼食代を削って…
「勤務時間中にビデオBOXへ入ることに抵抗感はないですね」そう語るのは、福岡でルート営業の仕事をしている田中弘毅さん(仮名・20代)だ。平日の昼間、多い週には3回以上ビデオBOXを利用しているという。
「外回りの仕事なのですが、お客様と仲を深めるために世間話や趣味などの雑談をすることが多く、一件にかかる時間がまちまちなんです」
日によっては、数時間単位でスケジュールに空きができることも。その時間を埋めるべく、ビデオBOXへ向かうのだった。
「上司も似たような感じなので、基本的に突っ込まれることはないですね」
会社から電話がかかってきたときは「運転中なので」と誤魔化し、県内を幅広く移動するルートの性質上、居場所を疑われることもなかった。
田中さんがビデオBOXでの時間潰しに行き着いたのは、金銭的な事情がきっかけだった。
もともとは真っ昼間からオトナのお店を利用していたが、若手社員の給料では続かなかった。そして辿り着いたのがビデオBOXだった。
「会社に経費として出せるわけがないので、昼飯代を削っていますね」
最初こそ罪悪感があったというが、今はそれもない。
「個室の中では、性欲の処理や急な仕事の対応、昼寝など何でもできるので、便利なところを見つけたなって。ビデオBOXは最高なので、やめられないと思います」
管理職が個室に逃げ込んだ理由
一方、まったく異なる動機でビデオBOXへ通っていたのが、安室玲さん(仮名)だ。かつてサービス業で店舗責任者を務めていた安室さんは、現在はその仕事を離れているが、当時を振り返って「罪悪感はありました。でも、あれは完全に心の避難行動だった」と言い切る。
「朝から晩まで接客に追われ、昼食も立ったまま5分で流し込む日々です。クレーム対応、スタッフの教育、売上管理。“笑顔でいなきゃいけない”とか“店の空気を壊しちゃいけない”というプレッシャーが積み重なったある日、店の外の雑居ビルに掲げられたビデオBOXの看板が目に入ったんです」
安室さんは「30分だけ……」と自分に言い聞かせながら中へ入った。薄暗い個室に腰を下ろした瞬間、「胸の奥がじわっと緩んだ」と話す。
「誰にも見られない、笑顔をつくらなくていい、声を張らなくていい。ただ無言で座っているだけで許される空間。ほとんどの時間は、ただぼーっとしていました。休憩するというより、逃げ込む感覚でしたね」
利用頻度は週1~2回、多いときはそれ以上。滞在時間は30~60分。その間、店は他のスタッフに任せていた。管理職という立場上、厳密な時間管理はなかった。「仕事の合間にビデオBOXで休んでた」と言えば誤解されるのは明らかなので、スタッフに詳しくは説明しなかったが、戻るたびに文句を言われていたという。
「もっと早く誰かに相談すればよかったんですが、当時はそんな余裕すらありませんでしたね」
人事担当者が見た“上司と部下”
佐伯さんは事業会社で職場環境に関する社員の相談の対応をしている。ある日、彼女のもとに中堅の男性営業社員が訪れたという。
その社員は「これは人事に言うべきことなのか分からないのですが……」と前置きしながら、自分の上司にあたる40代の管理職の行動について言及した。
山手線の主要駅に近い繁華街のビデオBOXへ入っていく姿を目撃したというのだ。問題は、その上司の日頃の振る舞いにあった。
「上司は部下に対して勤務時間や報告について非常に厳しく、『今どこにいるのか』『なぜ戻りが遅いのか』と細かく確認するタイプでした。それだけに、本人がそういった場所に行くのを見た部下の困惑は大きかったようです。ふだん、自分たちは厳しく管理されているのに、上司は何をしているのかと」
上司が目撃されたのはその日だけでなく、以前にも似たような場所で見かけたという話があるそうだ。会社には「外出」「取引先訪問」「移動中」などとしていた。
そして、上司への不信感と不公平感が積み重なっていたのだ。
「人事担当者として、職場の信頼関係がこういう小さな違和感から崩れていくんだということが印象に残っています」
とはいえ、佐伯さんはその上司に直接「ビデオBOXに行っていましたか」と確認することはしなかった。
「もちろん、勤務時間中であれば問題になる可能性が高いです。ただ、単純に“サボり”と決めつけるのは少し違うとも感じました。
実際その部署はかなり忙しく、数字のプレッシャーも非常に強かった。とくに管理職は上下から責任を問われ、板挟みになりやすい立場。じつはその上司もかなり追い詰められていたのかもしれません……。
ビデオBOXは単なる娯楽の場所というより、“一人になれる場所”なのかと思います。カフェだと人目がありますし、ネットカフェも若い人や学生が多い。ビデオBOXは入りにくい雰囲気がある一方で、逆に知り合いには会いにくい。上司が昼間の数十分だけでも誰にも見られずに休みたかったのだとしたら、少し切ない話でもあります」
“ただのサボり”ではない事情も
三者の証言を重ねると、ビデオBOX利用には大きく二つの側面があることがわかる。一つは、田中さんのように勤務時間中の暇つぶしを主な目的とした利用だ。外回りの隙間などを活用し、コストを抑えつつ個室空間を満喫する。
もう一つは、安室さんや佐伯さんが話した上司のように、精神的な逃避を目的とした利用だ。
職場の信頼関係を損ねるリスクを抱えながらも、それでもそこへ向かわざるを得ない事情が、現代社会には潜んでいるのだ。もしも平日の昼間からビデオBOXに吸い込まれていく人がいても、どうか大目に見てあげてほしい。
<取材・文/日刊SPA!編集部、藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo
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