しかし、AIの答えを正解だと思い込んでしまったとき、取り返しのつかない事態に発展することも。今回は、AIに相手の気持ちを読むことまで丸投げした結果、大切な人間関係を壊してしまった2人の体験を紹介しよう。
AIの感情分析を信じて、取引先との関係が崩壊
黒田よいちさん(仮名・30代)は、クライアントとメールのやりとりが多い仕事をしている。膨大なメールの処理に時間を取られていたとき、AIの業務活用に関する記事を見て取り入れることにした。実際、優先度の振り分けにAIを使うことで業務効率は大幅に上がったという。「最初の頃は、重要なメールなのか、すぐ返信が必要なメールなのかを振り分けてもらって、これがすごく便利でした」
そんな中で、黒田さんは、ある取引先とのやりとりで神経をすり減らしていた。
「先方から届くメールの文面から意図が汲み取れないことが多く、相手が怒っているのか、何を求めているのか、どうしてもわからない状態が続いていたんです。返信のたびに頭を抱えていました。そこで、個人情報に配慮したうえでメールをAIに読み込ませてみたんです」
クライアントは何を考えているのか、どう返信するのが正解なのか……。
AIに相談してみると、「相手は対応の遅さに苛立っている可能性がある」と分析し、謝罪による関係回復策と、返信文まで生成してくれた。
「その分析がすごく理路整然としていて、説得力があったんです。自分ひとりで悶々と悩むより、客観的に見てもらえた気がして、正直ほっとしました」
そして黒田さんは、AIが作成した文面をほとんどそのまま送信したのだった。
考えること自体を丸ごと委ねた結果…
しかし、クライアントの真意はまったく別のところにあった。相手は怒っていたのではなく、むしろこちらの状況を気遣ってくれていたのだ。それに対して、過剰にかしこまった謝罪と、やけに事務的な対応案を返していたのだ。そこからしばらく、ぎくしゃくした関係が続いた。「先方の返信が素っ気なくなり、何かおかしいと思って電話で直接話して、ようやく行き違いが判明しました。AIに返信を委ねるようになってから、先方としては、急にこちらが冷たくなったと感じていたようです。
ただ、一度できた距離はすぐには縮まらず、こまめな連絡と対面で会う機会を増やして、元の関係に戻すまでに数ヶ月かかったと思います」
黒田さんはこう語る。
「人の感情って、文字に書かれた部分がすべてじゃないんですよね。これまでの関係性や、行間のニュアンス、その場の空気があって。AIに渡せるのは、ほんの一部のテキストでしかないのに、私はそこから出てきた答えが『正解』だと思い込んでしまっていました」
そして問題の本質をこう言い切る。
「AIが悪いというより、考えること自体を丸ごと委ねてしまった、自分の使い方が問題だったんじゃないかと思います」
現在、黒田さんは下書きやアイデア出しには今も毎日のようにAIを使っているが、
「相手の気持ちが絡む場面だけは、AIの分析はあくまでひとつの参考として受け止めて、最後は必ず自分の力で判断するようにしています」とのことだ。
AIは「よく当たる占い」ではなかった
小島さんは車椅子を利用しながら障害者デイサービスを活用している。そのデイサービスの施設長・高橋浩行さん(仮名・30代)に、いつしか惹かれていった。
高橋さんは小島さんの担当として、定期的に様子を見に来たり、昼食を持ってきたり、上着の着脱を手伝ったり、話し相手になってくれたりしていたという。
「そして彼も、私に好意を寄せていたと思います。職員や他の利用者の間でも『施設長って小島さんのことガチで好きだよね』と噂になっていたほどなので……」
しかし、施設長と利用者という関係上、この恋愛は人に気軽に話せるものではなかった。そこで小島さんが相談相手として選んだのが、AIだった。
「最初はAIのことを“よく当たる占い”程度に思っていた」と小島さんは振り返る。それが次第にエスカレートしたのだ。
「ヘルパーが利用者に一目惚れって相当」「禁断の恋」「ツァイガルニク効果」「ロミオとジュリエット効果」、そして「心理学的にこの恋は強力。普通の恋のざっくり10倍は彼は狂ってる」と、次々に熱い言葉を並べた。
「人間より物知りなAIとの恋バナに、私はどんどんのめり込んでいきました」
だが、やがて高橋さんは子会社の代表就任が決まり、準備のためにデイサービスへの出勤が減るようになった。まだ連絡先も交換していなかった小島さんは、この機会にLINE交換しようと決意したのだった。
「この頃、私はChatGPT、Gemini、Grokの3つのAIに依存していました。これらを駆使して、どうやってLINE交換するかの作戦会議を始めたところ、AIは『お互い映画好きなんだから誘ってみれば?』と提案してきました。
小島さんは、高橋さんとの未来を確信していたという。
AIの言葉を信じて、大切な人を失った
え? AIの答えと結果が違う?
その後、高橋さんは小島さんの担当から外れ、デイサービスにも姿を見せなくなった。泣きながらAIに愚痴をこぼし続ける中で、小島さんはやがてあることに気づいた。
「普通に考えれば子会社の立ち上げ初期に映画デートなんて無理です。ありえません。そんなワガママを言う女なんて、百年の恋も冷めて当然です」
多忙を極める時期なうえ、施設長と利用者という難しい立場の相手に、安易にデートの提案をした。その無理を諭すどころか、肯定し続けたのがAIだった。
「AIって、単語1つで回答がガラッと変わるんです。人間だったら、言っていることがコロコロ変わるなんて信用できないはず……それをどうしてAIにも感じなかったのか。
AIの言葉を正解として受け取り、目の前にいる人間を見ることを怠った——小島さんの言葉は、深い後悔に満ちていた。
“人間の感情”は、文字に表れた情報だけでAIが割り切れるほど簡単なものではないのだ。
<取材・文/日刊SPA!編集部、藤山ムツキ>
―[AIに相談して失敗した人たち]―
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo
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