過去の成功体験が変化の適応力を阻む日本。この難局をどう乗り越えるべきか。
全国初のふるさと納税ポータルサイト「ふるさとチョイス」を立ち上げ、都市と地方の格差を「寄付」を通じて是正すべく取り組むリーダー須永珠代(すなが・たまよ)トラストバンク会長兼ファウンダーにお話をうかがった。
■私が考え抜いたこと 点と点をつなぐこと
私は2012年4月、一人でトラストバンクを起業した頃、すでに「ふるさと納税」という制度(08年~)はありました。しかし、当時、まったく普及していませんでした。
地方への支援をすることで税金の控除があり、返礼品まで出る自治体もある。調べるほど「なぜ多くの人がこんなにいい制度を使わないのか」と考え抜きました。すると、「事務手続きが面倒臭い」ということがわかり、その手続きを簡単にするために、「ふるさとチョイス」という全国初の納税ポータルサイトを立ち上げました。
私が事業を通して行なってきたことは「点と点をつなぐこと」であり、例えば、地域課題を解決するために「点」となっている都市や地域の人々と自治体とをつないで好循環を生み出すためのアイデアを提供しておりました。
具体的には地域で素晴らしい活動をしている民間企業の技術を自治体へつなげ、その地域独自の産業や文化に貢献できるような「場」をつくってまいりました。
私自身にとってこのアイデアを実行するまでの「思考」こそまさに「創造への信念」と位置付けることができると思います。
■なんのための地方創生か「自信がない壁」を乗り越える
人口減少社会と言われ、都市と地域の経済格差などを背景とした地方創生という課題に対し、多くの地域自治体がいろいろな政策を掲げ、取り組んでいます。
しかし、自治体の担当職員や首長などとお話しをしていると、地域の「何を」創生したいかについて答えを持っていないことに気づかされたのです。
「では、なぜ、地方創生なのか? 」という問いに「人口を何パーセント増やす」ことのような回答を聞くのですが、人口増加によってその地域が「どんな街へと変わるのか」というビジョンがないままみなさん真剣に働いていたのです。
さらに地域の自治体の職員さんたちは「自分たちが何もできない」と思い込んでいる人が多いのです。これが地方創生における「壁」の一番の原因だと思っています。
しかも、「立場という壁」でも固められていて、地方創生という目的のためにパートナーとして「対等」であることが最も大事だと思うのですが、組織の論理で柔軟な思考が阻まれてしまうことがあります。立場に縛られると、上役への忖度などが優先され取り組む課題を「自分ごと」化できないのです。
ですから、私は、地方創生を掲げる以上は、その問題を取り組む前提として
「対等であること」、さらに目標としっかり向き合い「考え抜く」ところから始めるべきだと考え、現在、「トラストバンクアカデミア」という主に自治体職員向けのオンラインコミュニティを立ち上げました。

■ヒト・モノ・カネ・情報の好循環で劇的に人が変わる!
ヒト・モノ・カネ・情報の循環を好くする目的で始めた「ふるさとチョイス」でしたが、「自分たちには何もできない」という思考の壁に対してモノとお金が動き出したときに人が劇的に変わっていったことが見えたことも確かでした。
例えば、返礼品を提供する企業と自治体という「点」を私たちがつないだ瞬間から、つぎつぎと自然に「線」となり、また「面」となっていったのです。
その地域の人たちの顔つきが「自信」へと変わったのです。
自信を持つといろんなことを突破し出しました。これは絶対に議会に通らないって言われていた案件を通したり、絶対にできないと言われていた企画をどんどん突破して実現する。
「ふるさと納税」だけで彼ら自身が自分や立場、議会、首長の壁を突破していくのを見て、このエネルギーを他の領域にも波及できるはずだと思ったわけです。大本は、人々の思考、考え方が変わっただけなのです。私は点と点を「ふるさと納税」というツールを通してつなげてきただけなのです。
そうすると、災害時の寄付を取り組もうと思ったときも、その「点と点同士」が自然と協力しながら結びついていきました。
例えば、災害支援としての「代理寄付」などは地域同士のネットワークが自発的に働いたものであり、いまでは、寄付文化として私たちの生活に根ざしたといっていいかもしれません(下段【*取材メモ】参照)。
例えば2016年の熊本地震における茨城県境町が行なった「代理寄付」は前例のないものでした。困っている人に寄付をしたい人々が多く、そうした人々の思いやりと底力に感動した思いです。
【*取材メモ】
寄付文化を日本社会に根づかせたいという須永氏の思いは、地域課題解決のための自立支援活動を通じて確かなものと結実していく。「ふるさとチョイス」では、とくに未来の社会を担う若者たちへの経済的支援を、社会にとって「必要な」ものとして捉え、様々な取り組みを行っている。
例えば、コロナ禍で生活が困窮する遺児達が安心して年を越せるよう、あしなが育英会の「年越しの緊急支援金」に賛同し、今月(2020年12月)の寄付月間に合わせて、「ふるさとチョイス」を通じていただいた寄付1件につき、トラストバンクから10円(上限1,000万円)を、あしなが育英会に寄付をさせていただく取り組みを実施。今月25日(12月25日)に、1,000万円を寄付した。
須永氏は「新型コロナウイルスによって生活がより一層厳しくなっている遺児やそのご家族が安心して年を越せることを願い、その声を広く届けるお手伝いをしたい」と語った。そして、寄付文化の醸成と社会課題解決を大切なテーマとして取り組んでいく考えを示した。
■小さくても踏み出す一歩地元の食堂で地産地消
現在、このコロナ禍で都市と地方など本当に二極化が加速化され、例えば、貧困格差問題などを「つなげる」ことがまさに喫緊の課題だと感じています。
例えば、1%でも地元でお金を使うことで乗数効果が働き、モノとお金の循環が好くなり地方の地産地消で持続的な発展を継続すると専門家の方が言われています。かたや2040年には800を超える自治体が消滅する危機だとも叫ばれています。
でも、例えば、現在より人口が半分以下の江戸時代はどうだったんでしょうか? 幕末に260を超える藩があったと言われます。明治維新から150年以上過ぎた現在でもそうした地方は消滅していません。地域内の経済が回っていたからです。
ならば、この二つの問題を「つなげ」て解決することはできないでしょうか。
地域の人がネットで商品を買うことから地元の商店街で意識的に買ってみる。
地元の商品に携わる人たちにお金が回転していきます。例えば地域の農作物なら、つくる人、販売する人、そして消費者がそのサービスの恩恵を得ます。
ただ一つ言えるのは、自分たちこそ地域を変えることができるとする思考、考え方と行動が大事だと思うのです。
■自分に「なぜ…」と問い続け考え抜くことが大切です
読者のみなさんに、何か新しいことを始めて問題で行き詰ったときに思い出してほしいことがあります。
考えることと悩むということは違うということです。
これは自戒をこめて言うのですが、普段私たちが考えていると思っていることの多くは悩んでいる状態です。目の前の一つの問題の前でなんどもぐるぐる考え行き詰まってしまう。
じつは考えることはむずかしいのです。解決策、すなわち思考を具体的な行動にして問題を解決することが「考える」という意味になります。
私自身が行ってきたのは、つねに自分のアイデアに対する問題に「なぜ」をつきつけ、「書きながら」解決策を見出しました。
さらにその解決策へ再び「なぜ」を問い続けると、例えばAとBかの選択で迷う時、ふとCという「第三の選択肢」があることに気づいたりしました。
この「なぜ」と問い続けることが「考えぬく」ことであり、この知的体験こそみなさんがときに爆発的な問題解決力を生み出すきっかけになると思います。
◉須永珠代(すなが・たまよ)
トラストバンク会長兼ファウンダー
群馬県出身。
15年12月、日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2016」大賞を受賞。19年、「ガバメントクラウドファンディング®」で「2019年度グッドデザイン賞」を受賞。
20年1月、同社会長兼ファウンダーに就任。著書に『1000億円ブームを生んだ 考えぬく力』(日経BP)がある。
(『一個人』2021年冬号より再構成)