コラムと漫画、しかもプロの姉妹が一つのテーマで決闘する異種格闘表現バトル。最終回のお題は【無駄毛(むだげ)】。

どこもかしこもあそこも⁉️  そう! アソコのヘアのお話です‼️ コラムニスト・吉田潮(妹)が綴り、イラストレーター・地獄カレー(姉)が「漫画」で表現してみました(漫画を見てコラムを読む順番でお願いします!)。2年間にわたる連載、ご愛読ありがとうございます! 



◾️姉・地獄カレーは【無駄毛】をどうマンガに描いたのか





◼︎妹・吉田潮は【無駄毛】をどうコラムに書いたのか⁉️無駄毛

 思春期の頃、ありとあらゆる手段で脱毛した。カミソリに毛抜き、たんぱく質を溶かす除毛剤、黒い毛を目立たなくする脱色剤、皮膚に貼って一気に剥がす脱毛テープ(時にガムテープを代用)、温めて塗って剥がす脱毛ワックス、微振動するコイルに毛を巻き込んでひきちぎる脱毛器……体毛が薄い人にはわかるまい、この苦労。



 私は毛深いというか、1本1本は細いが生える範囲が広かった。眉毛もほうっておくとつながるし、顔の産毛もびっしり。腹にも太ももにもうっすら産毛が繁茂しているし、足の指や甲にも生えている。

指毛族はかなりの割合でいるが、甲毛族の女性は実に少ない(私は甲毛族女王の末裔だと思っている)。10代の頃は必死だった。体育の授業でも部活でも半袖ブルマー姿になる。とにかく露出する部分で生えている毛は剃りまくり抜きまくり。で、うっかり忘れていたのが顔の産毛だった。



 ひとつ、トラウマがある。

中学生のとき、後輩男子に言われた。



「ねえ、なんで女の人なのに口ヒゲが生えてるの?」



 小学校からの知り合いで、顔が整っていて可愛らしい男子だったが、大勢の前で、しかも得意げに大声でそう言われて、周囲も一瞬凍った。笑いに変える切り返しができればよかったのだが、当時思春期真っ只中の私は恥ずかしさと怒りで黙ってしまった。無邪気を装い、致命傷を与える。彼は先輩である私を「女として恥をかかせてやる」ことに成功した。底意地の悪い子だったな。

「死ねばいいのに」と本気で思ったよ。中学校の時の写真を見ると、確かに私はもれなくうっすらヒゲヅラだ。あの一言で剃り始めたので、彼には感謝すべきだ。死ななくてもいいが、毎日必ずズボンのチャックを閉め忘れて恥をかけ、と思う。



 20代になると、技術の発達のおかげで「医療レーザー脱毛」に救われた。それまでは絶縁針を1個1個の毛穴に刺して、毛根だけを撲滅する手法だったからね。

気の遠くなるような手作業だよ! ともあれ、数十万円をかけて、あちこちレーザーを当て、気にやまない程度に脱毛することができた(でも、まだ生えてくる)。



 しかしだな、50歳にもなると黒い毛よりも白い毛が気になる。産毛も若い頃よりは薄くなった。加齢とともに毛は細くなる(老眼が進んだせいで見えにくいだけかも)。時々あごに太いヒゲが生えるが、誰も見ちゃいないし、マスクをしていれば気づかれない。脱毛に時間をかけていた思春期の自分に教えてあげたい。


「無駄毛は細く、心は図太く、時間は有意義に使える更年期は最高だよ!」と。



 そこで考える。無駄毛の撲滅に時間とお金をさんざんかけてきたわけだが、無駄毛は本当に無駄なのか? 体の防御反応として生える毛を「無駄な存在」と言っていいのだろうか? 自分なりに毛に関する機能を真摯に考えてみたところ、本当に無駄なのは、陰毛・指毛・甲毛くらいという結論に達したのである。



 指毛と甲毛に関してはいうまでもなく、機能も生やしておく理由もない。そもそも生えていない人が多いわけで、私の指毛と甲毛は存在する価値すらないわけだ。



 陰毛は婦人科医にも聞いたことがある。

「正直、不要だと思います。不衛生の元になるし、毛が何かから防御してくれるわけでもない」とのこと。諸外国では早々に無駄毛と認定して、多くの人が処理をしているのだが、奥ゆかしき日本ではみんなまだまだボーボーである。陰部を隠すという美学も強いせいなのか。
が、最近は「介護脱毛」なる言葉もある。介護では陰毛がもたらす不利益(ニオイや汚れ)の方が大きいので、「介護してもらうときに迷惑をかけずに済む」と40~50代の女性たちが脱毛を始める件数が増えた、というのだ。いや、すごいな。どこまで女の人たちは優しいんだ! 陰毛がないことによる自分の快適さや清々しさを求めるのではなく、子供や介護者に迷惑をかけないように…という発想。どこまで滅私奉公なんだよ、日本の女性たちは……。



 そもそも女はなぜ体毛が生えていたらいけないのか。いつからか「女は処理するものだ」と刷り込まれ、せっせと脱毛をしてきたが、費やした膨大な時間とお金を考えると「不毛」という文字が浮かんでくる。誰のために? 何のために? 日本独特のツルスベ信仰を呪いながらも、夏場はそれなりに処理する自分がいる。体毛はアイデンティティの一部だと言い張るだけの根拠や勇気もなく、結局「ケアをしていないと恥ずかしい」という枠から抜け出せずにいる。



 逆に、必要な毛についても考えてみる。最近、ドラマや映画で俳優たちの泣き顔に「ある共通点」を感じている。なんかね、みんなすごく鼻水が出るのよ。しかも、ただの鼻水ではない。「いなかっぺ大将」(涙だけど)とか「まことちゃん」レベルのロングレングスな鼻水である。男も女も老いも若きも、つららのように長~く垂れ下がる鼻水を出す人が実に増えたのだ。



 もちろん、感情の表現として、泣きながら鼻水が出ることは涙のレベルをぐんと上げる効果がある。あるけれど、20㎝以上垂れ下がるつらら鼻水は、正直、その行方を凝視してしまう。せっかくの珠玉の演技なのに、気もそぞろになってしまう。



 これ、「鼻毛の脱毛」が原因だと思う。4Kや8Kなど、映像の解像度が上がったため、芸能人は細部にこだわるようになった。なかでも鼻毛はワックスなどで抜く人が増えた。大画面で観ると、鼻の中がつるんとしている俳優もかなり多い。



 鼻毛は外部からの侵入を防ぐだけでなく、鼻水の排出も防ぐ目的がある。すべてなくしてしまうと、インもアウトもストッパーがない。私も一度、ワックスで鼻毛を脱毛したことがある。その間、くしゃみの回数が異様に増えた。インするストッパーがなくて、異物がそのまんま鼻腔内に入ってしまうからだと痛感した。逆に、長い鼻水が垂れ下がるのも、アウトのストッパーがなくなってしまったからではないか? 俳優の皆さんには鼻毛の部分脱毛を推奨したい。脱毛するのは出入口付近だけにして、奥のほうは毛を維持してほしい。健康のためにも。
ツルスベ信仰の日本では、理想や思い込みが根強い。個人的には男性の胸毛も背毛も好きだし、女性の後れ毛も素敵だと思っているが、マジョリティではないようだ。敬遠して処理してしまう人も多い。これだけ多様性が取り沙汰される世の中で、体毛だけは排除されまくっている。体毛が個性となる日はまだまだ先のようだ。





【無駄毛(むだげ)】介護脱毛、美容脱毛、ココもアソコもヘアは...の画像はこちら >>



 (連載コラム&漫画「期待しないでいいですか?」は今回で終了となります)