「備蓄米が放出されても価格は上がる可能性」お米マイスターが指...の画像はこちら >>



いま、日本人の主食・米の価格が上がりまくっている。5キロあたりの値段は、2023年6月は2000円~2200円だったが、今年は今月に入って4000円台にタッチ。

それを受けて、深刻な不作や災害時などに限って市場に放出される「備蓄米」が3月末からスーパーに並んでくる。今回の騒動の発端はどこにあるのか、価格はどうなっていくのか、そして備蓄米や古米とどう向き合うべきか。五ツ星お米マイスターの西島豊造さんに解説していただいた。



 そもそも今回の米騒動の発端は。



「始まりは、一昨年の猛暑と新潟等の水不足による、品質の低下と流通量の減少です。そこから生産量・品質の低下・流通の不安定さが解消されないまま今年に至っています。ただ昨年の春段階では、関係者の意識は『ギリギリ乗り切れるだろう』だったんですよ。それが去年の夏から潮目が変わりましたね。それまでは東京を中心とする局所的な問題だった米不足が、8月頃からメディアで盛んに取り上げられるようになり、東京から隣接県、東北、関西…と全国に波及していったように見えます」



 過剰に不安をあおったメディア、それを真に受けた消費者、さらには旧態然とした政府やJAの対応、流通体制…「どれか1つが悪いわけではないんです。色々なものが複雑に絡み合っていて、米業界にたまっていた長年のツケを払わされている」のが今なのだという。



■「備蓄米放出で価格高騰」のシナリオ

 そして今年の春からこの混乱を収めるべく、政府は本来深刻な不作や災害時に使われる「備蓄米」を放出することを決めた。備蓄米は、店頭にはそれとわかるような形で並ぶのだろうか。



 今の段階では「パッケージに『備蓄米』とは書かれないと言われています。その産地や年数表記なども『複数産地』『複数年産』といった形で曖昧に書かれる可能性が高いです」



 気になる価格は…



「今回の入札では、確実に落とすために若干高めの値段設定をしたように感じます。そこから経費や卸売買手数料等も乗っかりますので、結果的に今流通しているお米と大差ない値段でスーパーに並ぶのではないでしょうか。5キロあたりで200~400円安い、といったところに落ち着くと見ています」



 さほど安くなく詳細不明の備蓄米と、産地・年産が明記されているブランド米。消費者意識を先回りすると、後者に手が伸びそうだ。そうすると、「備蓄米以外の普通のお米の価値が上がって、さらに価格が高騰する可能性すらあります」と西島さん。



 さらに混乱する市場の隙をついて、“不透明で怪しいお米”の取引が盛んになるかもしれない。



「事実、今でも品質が担保されていない、怪しいお米がネットやアプリで出回っていますよ。海外の食材を多く扱う食料品店でも正規ではないルートで仕入れたお米が売られていたりします。実は米の販売は、各都道府県で登録さえすれば、誰でもお米が売れるような規制緩和がされていますし、そのような手続きをしないままネットなどで販売されてしまっていても、指摘・指導がされないまま放置されている現状です」



 想像以上に、米の流通や価格をめぐる状況はカオスだった。





■常温NG!購入後はまず冷蔵庫へ

 ここからは、古米や備蓄米であっても美味しく食べるポイントを聞いてみる。備蓄米については、倉庫では15℃以下・湿度60%前後の環境で保存されており、鮮度が極端に落ちているものではないのだとか。

とはいえ、購入後の保管には気を配りたい。



「お米は生鮮食品と同じように精米直後から味落ちは始まり、2週間たつと確実に味落ちが始まってしまいます。だから冷蔵保存をしてください。袋に入れっぱなしで常温保存はもってのほかです」と西島さん。



 手軽にできるのは、「ジップロック」を使った冷蔵庫の野菜室での保存だ。西島さん自身も実践している。



「1~2合ずつ小分けにして空気を抜き小さくして、野菜室に敷きつめています。お米が保冷剤の役目も果たすので、冷蔵庫の省エネにもなります。こうすると常温保存の場合の4倍の長さ、約1か月半は美味しく食べられますよ」





「備蓄米が放出されても価格は上がる可能性」お米マイスターが指摘。令和の米騒動を“ご飯の冷凍貯金”で乗り切れ
▲西島さんも実践しているジップロック保存法



 西島さんは、お米の保存方法について長年研究してきた。



「以前は5kgの米袋をそのまま冷蔵庫へ入れる方法も推奨されていました。しかし、これは冷蔵庫を傷めるうえ、使い勝手も悪いです。計量時に冷蔵庫を開けっ放しにすることで電気代のムダになります。

また、ペットボトルや牛乳パックを使う方法も試しましたが、出し入れの不便さや容器の匂いが移る問題がありました」



 そこで行き着いたのがジップロック方式だという。



「2年ほど使い続けています。100円ショップの製品より、ブランド品の方が丈夫で空気をしっかり抜けるのでいいですね」





■“ご飯の冷凍貯金”で有事を乗り切る

 通常は炊飯器で保温しても問題ないが、精米してから時間が経ったお米や今回の備蓄米などを炊いたご飯は、炊飯器の保温機能を使用せず冷凍庫に入れることもオススメしている。



「毎回炊くのは大変ですよね。保温せずに冷凍しておけば、必要な時に使い回せて便利なんです。大事なお金を口座に預けておく感覚で、冷凍庫にご飯を保存しておきましょう。欲しい時にさっと引き出せるようにしておきましょう」



 西島さんはこれを“ご飯の冷凍貯金”と呼んでいる。「お金を貯金するように、炊いたご飯を冷凍庫で保存すると、必要な時にいつでも使えて便利です。とくに備蓄米や精米してから時間が経ったお米を炊いたご飯は、炊飯器での保温に向かないんです。通常のご飯なら12時間保温できても、古いお米を炊いたご飯は6時間程度しか持ちません」



 ご飯の冷凍はすでにラップなどでくるんでやったことがある人も多いかもしれない。しかし、西島さんによるとこれよりもおすすめの方法があるという。



「ご飯をぎゅうぎゅうに詰め込んじゃう人が多いんですよ。

これをやると食感が悪くなります。温めた時にムラができますし、水っぽさも出たりするので美味しくはないんですね。炊きたてのようにふわっと戻したいですから、容器に入れる時はすっと滑り込ませる感じで。流し込むように入れると、ご飯とご飯の間に空気が入ります。この空気の層があるほど、炊き上がりの美味しさのように戻すことができるんです」



 ポイントはもう1つ。ご飯を良く冷ましてから、蓋をすること。



「熱々のまま蓋をしてはいけません。粗熱を取らないと上の蓋にたくさん結露が発生し、解凍している時にそれが全部ビシャッと落ちてしまって、上のご飯が溶けちゃうんですね。ですから、ちょっと粗熱を逃してから蓋をして、急速冷凍が一番いいです」



 冷凍ご飯専用容器を使うことで、ラップよりも効率的に保存できるという。



「ラップだと縦横に並べるだけで冷凍庫のスペースを専有してしまいます。一方、専用容器なら積み重ねられるので、他の冷凍食品も一緒に保存できます」





「備蓄米が放出されても価格は上がる可能性」お米マイスターが指摘。令和の米騒動を“ご飯の冷凍貯金”で乗り切れ
▲容器がハマれば効率的に配置できる





■時間が経ったお米を美味しく頂く法

 炊飯や料理でのヒントもいただいた。



「基本的に精米してから時間が経ったお米はパサツキがちなので、水を多めにしてください。

いつも食べているお米の水加減が1カップに対して水1カップですがだったとすると、パサついていると感じるお米なら1.2倍などと、多めの水量にすると良いでしょう。吸水時間もしっかり持たせてください。お酒やみりん・ハチミツ等を入れることをオススメするところもあると思いますが、“異物混入”は炊飯器の内釜や圧力弁を痛めるのでNGです!」



 時間が経ったお米を美味しく食べるための調理法としては、「チャーハンやドライカレーがオススメです。スパイスを入れることで匂いを消せますし、油で炒めることでパサついた感じも気になりません。リゾットやおじやなど、水分を多めに使う料理も時間が経ったお米は向いています」



 また、時間が経ったお米の表面を「再精米」する裏ワザも教えてくれた。「金網のざるに入れて手でガラガラと、網目に擦りつけるようにかき回すと、ざるの網の下に白い粉が落ちます。これは酸化したお米表面の古くなった部分なので、これを落とすことで匂いや黄ばみ、ザラザラ感が軽減されます。ビニール手袋をして1分ほどかき回すと効果的です」





「備蓄米が放出されても価格は上がる可能性」お米マイスターが指摘。令和の米騒動を“ご飯の冷凍貯金”で乗り切れ
▲「再精米」はちょっと楽しそうだ



 さらに、時間が経ったお米と精米日が新しいお米をブレンドする方法も効果的だ。「時間が経ったお米7:新しいお米3の割合で混ぜると、味をごまかせます」とのこと。



 西島さんは最後にこうアドバイスする。



「これから備蓄米が放出されます。今まとめ買いに走ってしまうと、品質や食味が落ちてしまったお米をいつまでも食べることになりかねません。

食べ終わったら買う、というサイクルが今はもっとも賢い選択です。そして、もし時間が経ってしまったお米が手元にあるなら、今回ご紹介した方法で美味しく食べきってください」



取材・文:BEST T!MES編集部



西島豊造さんプロフィール



株式会社スズノブ 代表取締役



北里大学獣医畜産学部畜産土木工学科卒業後、北海道で農業コンサルタントに勤務し、1988 年 9 月に、家業の株式会社スズノブを継ぐ。 五ツ星お米マイスターの資格持ち、新しいお米の時代を作っていきたいという考え方から、大学時代に得た「土」の知識、北海道で得た「農業土木」の知識、産地を回ることで得た知識等を活かしながら、産地と消費者をつなぐパイプ役として、多くの生産地の、産地の特徴を活かした地域ブランド米作りと地域活性化を手伝っている。



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