■日独ハーフの著者がドイツ人の老い方を探る
ドイツ人の父と日本人の母をもつサンドラ・ヘフェリンさんの新著、『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』(講談社)が2025年3月に発売された。
ドイツで生まれ育ち、23歳から日本に住むようになったサンドラさんは、今年50歳。
親の老後をめぐる「こんなはずじゃなかった」には、日本でも直面することが多いはず。親や自身の老い方、人生の閉じ方について考えざるを得ないサンドラさんの世代。ではドイツの人たちはどうしているのか? と、さまざまな人に取材して一冊にまとめている。
先進国として、高齢社会という問題を抱えているのはドイツも日本も同じだ。しかし高齢者たち自身の価値観は、日本とは異なるところが多い。
まず印象的だったのは、パートナー文化。どこへ行くにも夫婦・カップルで行動し、友達付き合いもカップルぐるみだそう。だからこそ、日本ではネガティブにも見られがちな「パートナーを亡くした後の恋愛」が当たり前になっている。子どもにとっても、残された親のそばに誰かがいてくれることは確かに安心だ。実際、本書で取材を受けているドイツ人の一人は、親の恋愛を見て「歳老いてからの恋愛もいいものよね」と語っている。
また、日本のような“終活”よりも、老いてからは「今を楽しむ」という行動をする人が多いそう。認知症になったパートナーを積極的に旅行へ連れ出す人のエピソードが紹介されている。
■「高齢者にあるのは“今”だけ。高齢者こそ“今”を楽しむ」
サンドラさんの友人は本書でこう語っている。
「子どもには『将来』がある。でも高齢者には『将来』なんてぶっちゃけないのよ。高齢者にあるのは『今』だけ。高齢者こそ、『今』を楽しむことが大事なんじゃないかしら」
節約が生き甲斐で、お金に困っていなくても「タダ」「半額」のために奔走する高齢者のエピソードもある。節約家の多さは、「ドイツ人といえば」のイメージ通りの実態なのだそう。こちらも日本なら「高齢なのにケチケチして……」とネガティブに見られそうだが、ドイツの高齢者はあくまで自分の「こうしたい、こう生きる」を貫いて暮らしている。
一方で、日本と同じような問題を抱える一面も。家族の中で介護の必要が生じた時、妻・娘・息子の妻といった女性陣が主に担うのは、ドイツも同じだそう。
また、認知症になっても運転しようとする男性の話も、日本でもあるあるではないだろうか。車のカギを取り上げた妻の苦労が紹介されていて、共感しながら読める人も多そうだ。
ドイツ人の多くが、終活などせずに突然死で「ぽっくり逝きたい」と言う。本の全体を通して、ドイツ人は良い意味で「ドライ」だなという印象。エピローグで紹介されている、サンドラさんの母の言葉がまさに、ドイツの国民性を端的に言い表しているだろう。
「ドイツ人がいいのは、やっぱり本音で話せることよ」
「でも必要以上に踏み込んでこないし、気持ちのいい関係なのよ」
「何歳になっても何を着てもいいし、何をしてもいいのがドイツで、それがすごく楽」
日本の価値観はウェットで、「こうあるべき」に縛られがち。サンドラさんの母も、そこから自由になれるドイツに惚れ込んでいるのでは。本書を通して、老いや終活に対して無意識に「こうあるべき」を抱いていた読者が、「こうしてもいいんだ」と楽に考えられるようになるはずだ。
海の向こうの人たちと、「お互い大変だね」と肩を叩き合えるような気持ちになる、心強い一冊だった。
文:梁木みのり(BEST T!MES)