かつては婚活の場で「私の好きなタイプとは出会えない」と悟った彼女が見つけたのは、"結婚はない"という前提でも心地よくつながれる相手だった。最愛の母の事故死や突然の病で一度は人生が止まった彼女は、どのようにして今の場所にたどり着いたのか。

ミドル独女の当事者が、幸せな現在地への道のりを聞いた。《#ミドル独女~私たちのホンネ~》シリーズ





■車中泊とライブ配信アプリに夢中



 車中泊仕様の車の中からZoom取材に応じてくれた佳奈さん(仮名・50歳)は、買い換えたばかりの車の魅力を熱っぽく説明しつつ、車中泊の魅力をこう語った。



「車で休憩できたら、時間に縛られることないじゃないですか。前泊もできるし、友人と会った帰りに車で休んでから帰ることもできる。自由に動けてラクなんです」



 道の駅に泊まって他の車がうるさければ、別の道の駅に移るだけ。そんな自由さも、佳奈さんが車中泊をやめられない理由だ。



 佳奈さんが車中泊にハマったのは、キャンプサークル仲間とのイベントに参加した2年ほど前のことだ。テントの布が薄いのでコテージで寝ることにした佳奈さんは、YouTuberの動画を思い出し、その後のキャンプで車中泊するようになった。



 そこから車中泊が当たり前の日々が始まった。今では「グループで」「彼氏と」「一人で」というパターンで楽しんでいるようだ。



 今までで一番きれいだったのは、彼氏と見た六甲山の夜景だったそうだ。両隣の窓とバックドアから星を眺めることができる時間は、「移動する出窓」にいるような気分だったと語る。



「家族がいてたら、そんな車中泊用の車なんて買えてなかったと思う」と佳奈さん。



 早くに結婚した友達が「一人で旅行なんてしたことない」と語るのを聞くと、そんな人生はイヤだと考える。



「好きなことやりたいという気持ちが、たぶん人より強いんですよね。だからここまで独身できたけど、やりたいことをやっている感があるから全然悔いはないんです」



 佳奈さんには、かつて積極的に婚活をしていた時期があった。



 30代のときは、婚活パーティーに参加し、マッチングアプリを活用し、マッチしたらすぐ相手と会っていた。しかし、あるときから一切活動をやめた。



「ふと、私の好きな人はここに来ないなって思ってしまったんですよね。自信のあるタイプが好きなんですけど、ここでは出会えへんなぁって」



 それでも「人には会わなければ」と、バーベキューのイベントなどに行ってみたが、そこでも会えなかった。



 潔く婚活をやめた背景には亡き父の影響がある。



「10年後を想像して生活しろ」が口癖だった父親、しかし佳奈さんが中学生のとき肝臓がんになり、病気が分かって1か月ほどで亡くなってしまった。父の死をきっかけに、「未来のために我慢するより、今を大事にしたい」という気持ちが強くなったという。



 ともかく違和感を感じたら、その場をすぐに離れるということを大事にしてきた。

事実、佳奈さんは転職も多く、調理師、歯科助手、歯科衛生士、訪問介護……これまでさまざまな仕事を経験してきたという。



 そんな佳奈さんだったが、4年ほど前に確たる居場所を見つけることができた。 



 それは顔出しナシのライブ配信アプリだ。なんとなくライブ配信を始めた佳奈さんは、バッジを維持するために、現在は毎日欠かさず配信を行う。



 プロフィールをほとんど書いていないため、佳奈さんのことを大学生くらいだと思う人もいる。



「私、本当に“このまま”なんですよ。(配信に)来てくれた人とただただ喋るだけで、とくに情報を発信するわけでもないんです。『何食べた?』とか、本当にたわいもないことを話しています」



 それでも、佳奈さんには“常連さん”がついている。喋りを生かした仕事にスカウトされたこともあるというから、やはり何かトークにひきつけるものがあるのだろう。







■声で恋に落ちた、ライブ配信アプリの彼



 今の彼氏・健太さんともこのライブ配信アプリで出会った。このアプリでつながった人は配送関係者が多いそう、彼もその一人だ。



 健太さんは、4年前のアプリデビューの日、使い方がよく分からない佳奈さんの枠にポンと入ってきた。

笑顔で当時を振り返る。



「普通は許可しないと喋れないのに、いきなり声かけられてびっくりしたんです。でも、やっぱりね、好きな声やったんですよ」



 また、その日は偶然健太さんの誕生日でもあった。なにか記憶に残る出会いの日、交流はその後も続いた。



 決め手となったエピソードがある。



「既婚者の元彼のことで悩んでいたときだったのですが、ぐちゃぐちゃした気持ちを全部聞いてくれたんです」



 当時、佳奈さんは「一線を越えなければ大丈夫」と自分に言い聞かせて、既婚者の元カレに毎晩電話をしていた。そんなある日、電話を聞いていた奥さんが電話の向こうで怒りを露わにして「もう離婚よ」と怒鳴り始めた。泣き声を上げる赤ちゃんをなだめにいったあいだに、元カレと「この電話切ったらお互いにブロックしよう」と言い合って関係を終えた。1年ほど続いた関係だった。



「奥さんの怒りに触れたとき、はじめて、何て申し訳ないことしてしまったんだろうと思いました。恋愛って、ほんまにバグやなぁと思います」



 佳奈さんの悩みを聞いていた健太さんは、「そんなややこしい相手はやめて、もう俺にしといたら」と言ってくれた。



 そして、声の出会いから半年ほど経った頃、2人は付き合い始めた。



 健太さんは、佳奈さんが思う「自信のある男性」だった。婚活の場では出会えなかったタイプに、配信アプリで出会えたのだ。



「向こうも、まさかこのアプリで出会うとは、みたいなことを言っていました」



 直接会ったときも嫌な感じはしなかったと語る。長く話をしてきたので、初対面という気がしなかった。



 健太さんは佳奈さんより13歳年下だ。健太さんが配信アプリで女の子と喋っているときなどは、嫉妬にかられて問い詰めたりもした。



 そのときは、「そんなに不安なら見に来なかったらいいじゃない」と言われたが、やがて、佳奈さんとだけ喋るようになった。



 その後、佳奈さんは健太さんの住む千葉県の成田市へ引っ越した。一時期は同棲もしていたが、佳奈さんの母が交通事故で亡くなって奈良へ戻ってからは、離れて暮らしている。



 佳奈さんがこれまで付き合った男性は半年~1年で別れた人が多かった。健太さんとは、結婚を考えずに付き合い始め、遠距離なのに4年続いているのも不思議だと話す。





■13歳差、バツイチ、外国にルーツという違い



 佳奈さんと健太さんは、年齢のほかにもさまざまな“違い”がある。



 健太さんは外国籍だ。母親はフィリピン人で、数年前にフィリピンに戻ったきりしばらく日本には帰っていない。親戚の写真を見せてもらったときは、率直に「めっちゃ外国人ばかり」と感じたそうだ。



 19歳で結婚してバツイチになった健太さんには、大学受験を控える子どもがいる。元の奥さんともたまに連絡を取りながら養育費を払い続けてきた。



 母親との距離、別れた妻との微妙な関係、養育費の支払いなど、頭を悩ますことも多かったはず。そんな健太さんにとっても、明るい佳奈さんとの会話は癒しになったのではないだろうか。



 2人は大きな喧嘩をすることもあった。



 佳奈さんが成田に住んでいたとき、一人暮らしを始めた家に健太さんも一緒に住み始めた。家賃や光熱費を一切出してくれなかったので「ちょっとは出してくれても」と言ったら「そんなこと言うんだったら」と出て行ったことがある。しかし、母が亡くなったときは、また戻ってきてくれて同棲をしていたと語る。



 そのような時期も乗り越えてきた2人。

今では、「成田にいた1年間、仕事が忙しくてどこにも連れていけなくて申し訳なかった」と言ってくれるようになった。母の死後、佳奈さんが強いめまいを伴う前庭神経炎で動けなくなったときも「俺がいるから大丈夫」と言い続けてリハビリを支えてくれた。



 そんな2人は離れた場所に暮らしながら、どんなデートをしているのだろう。



「通話をつないだままNetflixで同じドラマを見ているんです。同じシーンを見ながら感想を言い合ったりして、離れてても同じ時間を共有できています。見てほしいものがあるときとかは、ビデオ通話にします。すぐにつながるライン通話が本当にありがたいですね」



 配送の仕事をしている健太さんは、車中泊のときには結露を拭いてくれたり、ガソリンを入れるついでに空気圧を見てくれたり、オイル交換の時期を教えてくれたりもする。1か月に1度は会っているし、声を聞かない日はない。





■「結婚はない」二人が見据える未来



 この先、2人が結婚することはあるのだろうか。



「結婚は、ぶっちゃけ望んでないんですよね。彼がバツイチで子どもさんがもうすでにいてはって、あと3年間は養育費を払う必要がある。あと、国際結婚になるのでちょっとややこしいんです」



 もともと「結婚はない」という前提で付き合い始めた。



「私の家が奈良にあるから、できればこっちで仕事してくれたらと思うこともあるけど、彼は仕事を辞める気はない。だから、私が一回成田に行ってみたけど、すぐに帰ってくることになっちゃったので」



 声だけの出会いから始まり、車中泊という共通の楽しみを持つ2人にとって、遠距離や年齢差は関係を決定づけるものではないのかもしれない。



 健太さんは「定年退職後、こんなことを一緒にしたいね」と佳奈さんに語ることがある。



「彼の中には将来的にもずっと付き合ってるイメージがあるみたいで。私も別に別れる気はないので」



 戸籍上の配偶者ではないため、いざどちらかが危篤になった場合に、病状説明が受けられないなど制限をうける不安がある。しかし、今の2人の時間を大切にしつつ「そのときが来たら考えよう」と考えている。



 2人には車中泊デートでハマっていることがある。



「近畿『道の駅』スタンプラリー」っていうのをやっているんです。彼が来たときに、一泊二日で京都を全部回ろうと思って。私が効率のいいルートを組んで、運転が達者な彼がハンドルを握って、車中泊しながら順番に回りました。ついでに私の家や、なかなか行けないお墓参りにも付き合ってもらって。和歌山ラーメンを食べに行ったのも嬉しそうでした」



 ゴールデンウイークには和歌山県内の道の駅を巡り、その後は福井県内の道の駅巡りや中国地方の道の駅制覇も計画しているという。



 佳奈さんには、もう一つやってみたいことがある。



「どうせ旅行とかを撮るならYouTubeで配信したいと思って、今は練習って感じでショート動画だけ上げてるんです。今後、20分ぐらいの長さの動画にできたらいいなと思っています。彼はYouTubeの顔出しは全然OKで、写真とかはポーズもとってくれるんです。そういう面でもありがたさを感じますね」



 前庭神経炎で倒れてから1カ月ほどは、ほとんど寝たきりのような状態になっていた佳奈さん。少しずつ回復はしたものの、「まためまいに襲われたらどうしよう」という不安があった。



 しかし、健太さんと車中泊を楽しむうちに、少しずつ行動範囲を広げていくことができた。最近は、食堂での調理師の仕事にも復帰できたという。土日祝日はしっかり休みが取れるため、療養中にハマった趣味も続けていけそうだ。



 振り返れば、一番つらい時期を支え、ふたたび日々を楽しむ力をくれたのは、健太さんの存在だった。そして、その出会いは、「私の好きな人はここには来ない」と気づき、婚活の場を離れた先にあった。



 運命の相手とは、自分らしくいられる場所で、自分サイズの幸せを見つけたときに、思いがけず現れるものなのかもしれない。



取材・文:谷口友妃

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