女性は「オバタリアン」「オヤジギャル」にはじまり、「ヤンママ」「コギャル」「美魔女」などが登場。男性は「アッシー」「メッシー」「みつぐ君」にはじまり、「冬彦さん」「イクメン」「草食男子」…。
平成時代の流行語を振り返ると、女性が男性をリードしていた世相が見えてくる。■平成元年の流行語大賞「オバタリアン」から始まった

 かつて新人類と呼ばれた人達がいた。1980年代、旧来のライフスタイルを送ってきた当時の年配世代からは理解しがたい思考や行動を取る若者を揶揄してつけられた呼称である。なんてことはない、いまでいう「ゆとり」と同じようなもの。その新人類は、いまでは中年から初老の域に差し掛かっているはず。時代は繰り返されるとはよく言ったものだ。

 もっとも静かなる激動の時代・平成には、「今どきの若者は」風のネーミングではなく、ほんとうにかつては存在しなかったような生態を持つ若者を中心とする人々が登場し、様々な名称を付与された。平成の終わりにあたってそれらを少し振り返ってみたい。

 平成ネオ人類の端的な特徴を述べれば、強い女性にひ弱な男性と言い表すことができる。

 そもそも平成元(1989)年の流行語大賞金賞にも輝いたのが既にして「オバタリアン」。漫画家・堀田かつひこ氏の作品から生まれた図々しさとパワフルさを兼ね備えた中年女性への呼称。その翌年には故 中尊寺ゆつこ氏の作品から「オヤジギャル」なる人種も登場した。

こうした女性たちの登場の背景に男女雇用機会均等法施行の影響があったかどうかはここでは語らない。

 強い女性は新たな男性像を創出する。それが「アッシー」「メッシー」「みつぐ君」。本命の彼氏とは別にキープされ、タクシー代わりに、財布代わりにと彼らは奮闘したのだった。

 いまよりずっと影響力の強かったテレビが生み出した人種が、平成4(1992)年のドラマ『ずっとあなたが好きだった』発祥の「冬彦さん」。佐野史郎が演じた極端なマザコン男。女性たちは男たちに貼るレッテルをまた一つ手に入れたのであった。

■「ヤンママ」「アムラー」「コギャル」が登場

 平成6(1994)年には「ヤンママ」なる言葉が流行語になった。今ではヤングママの略称と認知されてるこの言葉。元々は1980年代の校内暴力華やかなりし頃に不良少女として闊歩した面々が、早期妊娠・出産を経てママに進化した様態を指す言葉で、ヤングではなくヤンキーママの略称であった。当時は揶揄を含む表現だったが、少子化に悩まされる今日の日本では、彼女らへの評価が百八十度異なっても不思議はない。

 ヤンママの下のハイティーン世代からも新たな人種が台頭した。

それが「コギャル」。彼女らが憧れた人物が初代・平成の歌姫こと安室奈美恵。沖縄出身のダンスユニット、スーパーモンキーズから独立した彼女は、ユーロビートに乗せた「TRY ME~私を信じて~」で平成7(1995)年に大ブレイク。褐色の肌に茶髪、厚底ブーツにミニスカといったスタイルは「アムラー」なる信奉者を生み出す。

 アムラーという言葉は安室に人を表す英語の接尾辞のerを付帯させたものだが、このスタイルの命名は以後一般化する。突飛なキャラで一世な風靡した篠原ともえの追随者「シノラー」やシャネル愛好家を指す「シャネラー」といった言葉もこの系列だ。

 さてコギャル。当初は不良視されていたが、いつの時代もファッションは不良から膾炙していくもの。そのスタイルは普通の女子高生を次々に感化し、制服のミニあるいはマイクロ化が進み、ルーズソックスが瞬く間に広がり、チョベリバ/チョベリグ(超ベリーグッド/バッド)なるギャル語に至っては、女子高生どころか、いい大人までが口にするようになった。疑問形でもないのに語尾を上げる喋り方も大いに流行った。

 渋谷のマルキューこと109などのファッションビル周辺にアムロならぬタムロし、そこを拠点とするコギャルたちの中には、家に帰らぬ者も現れ、風呂に入らないため「汚ギャル」と呼ばれた。

 褐色はエスカレートし、「ガングロ」(顔黒)なるメイクを施す者も登場。

潔癖性は日本人の長所でもあり短所でもあるといわれたものだが、タガが外れた若者の中には、コンビニの入り口付近や駐車場、あらに電車内などで、集団で地べたに直接座って延々と与太話を続ける者も現れ、「ジベタリアン」と呼ばれた。

■「イケメン」か「ブサメン」か…品定めされる男たち

 政治の社会にも新たな女性たちの種族が誕生する。在任中と現在とで評価が百八十度変わった首相経験者と言えば小泉純一郎。彼が彼の提唱する形での郵政民営化に反対する自党候補を落選させるべく集められたのが「剣客」なる人々。この剣客たちは無事当選すると「小泉チルドレン」に進化した。数年後には野党であった民主党が同じ手法を用いる。政権交代を旗印に集められた「刺客」たちは「小沢ガールズ」なる集団へと進化したのだった。

 平成15(2003)年、負け組ならぬ「負け犬」が話題となった。発祥はエッセイスト酒井順子氏のベストセラー『負け犬の遠吠え』。30代、未婚、未出産の主にキャリアウーマンを自虐的に皮肉った言葉だった。そうした女性の要望を支えるためでもなかろうが、のちに男性の側から、育児に積極的に参加する「イクメン」なる種族も生まれている。

 そのイクメンの元ネタが今やすっかり定着してしまった「イケメン」という新語。

本来の意味はイケてるメンズ。この言葉が男女の関係に果たした役割はかなり大きい。 

 それまで、ルックスが秀でた男性を表する言葉には、ハンサムだの二枚目だのといった使うことが恥ずかしくなるような古さを感じさせるものしかなかった。そこへ「イケメン」の登場である。源氏物語の「雨夜の品定め」以降、異性の品評会は(少なくとも表向きは)男性の専売特許のようなものであったが、「イケメン」の普及以降、一部で「ブサメン」なる言葉も登場し、女性による男のルックスの品定めが堂々と行われるようになる。

 平成18(2006)年には甲子園で活躍した斎藤佑樹投手のニックネーム「ハンカチ王子」から「○○王子」という呼称が一般化、翌平成19(2007)年にゴルフ界に颯爽と現れた「ハニカミ王子」こと石川遼選手の影響もあり、この国に、無数の王子が誕生し女性たちの嬌声を集めた。

 弱くなる一方の男たちが「草食男子」化し「ツンデレ」女性に萌え=などと呆けてるうちに、女性たちはさらに「女子」なる人種に変貌を遂げる。「歴女」や「森ガール」など、かつての意味での女子に該当する者もいたが、それ以上の年齢層でも、オバサンは「熟女」や「美魔女」と化し、四十代はおしゃれな「アラフォー」となった。いまも街はセレブを気取る美しい女性たちで溢れ返っている。

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