――今回の『黒いマヨネーズ』、アラフォー男にとってはうなずけるところが多かったです。どんな想いで書いていたのでしょう。
吉田 この本は「紺色のカラス」という連載をまとめたものなんですけど、たとえば「浮気と不倫は全然ちゃうねんから、浮気ぐらいでガタガタ言わんといてくれ」ということを書いた時っていうのは、まさに世の中がワイドショーで人の浮気とかをめちゃくちゃ取り上げてたタイミング。今だったら、みんな食傷気味になってるんで「浮気ぐらい」って言っても良いと思うんですけど、あの時は場合によっては思いっきり叩かれて、もう仕事もなくなるかもわからんなという思いで書きました。で、いざ世に出たときに何の反応もなかったんですけど(笑)。
――これは越えていいラインなのか迷いますし、書くのは勇気がいりますよね。
吉田(浮気を)肯定するっていうことが今以上にちょっと難しい時やったと思うんです。
――「75歳以上の選挙権を取り上げろ」というやつですね(笑)。
吉田 はい。いちおう小さな世界の中でですけど、自分なりに挑戦した回というのはありました。
■「弱者の味方の体を装って生き辛い世界を作る奴も多い」――Amazonレビュー見てても皆さん共感がすごいんですよね。「よくぞ言ってくれた」みたいなのが。
吉田 Amazonレビューですか。今29個あるやつ?(※取材が行われた5月下旬時点)Amazonレビューだと、悪いのが数件あるんですけど(笑)。あれ読んでへんのんちゃうかなと思うんですよね。
――星1個のレビューって、著者がもともと嫌いな人が勝手に書いてるだけだったりします。
吉田 僕ツイッターでちょっと失礼な言葉使いをする人に「オイ!」てやるときがあるんですよ。ツイッターはこういうのがあるほうが面白いというか、見甲斐があるんかな、とかいうのもちょっと思いながら。で、それをやったあと、けっこうそういうコメントが出るんで。このレビューは(ツイッターでからんだ)アイツやなと思う(笑)。

――でも絶賛のほうが全然多いというか。ツイッターのリアクションを追っても「よくぞ言ってくれた」的なものが多かったです。で、僕ら同世代としては、吉田さんの根底にある正義感のようなものに共感するのかなと。さっきの「浮気」にしても。
吉田 まあいまって、生き苦しいじゃないですか。そんなことあげ足とって…ということが多い。ちょっと弱者の味方すぎるというか、弱者の味方の体を装って生き辛い世界を作る奴も多い。
――本を書くのって、コントや漫才を作るのとまた違う苦しさがあると思うんです。決して高額な報酬を得られるわけでもない。でもこんなにも力を入れて書く。そのモチベーションはどこにあるんでしょう。
吉田 テレビだったら、もし自分が面白くないように映ってても、それはどっかで編集のせいにできる。ウケなくても「あぁ~、そういうつもりじゃないのにな」って。でもコレは完全な白紙を任されている。まったく言い訳できひん(笑)。逆にテレビで多少自分がおもろないようになってる回が続いたとしても「俺にはコレがある」とは思ってました。「ここでの俺がほんまの俺や」という場としてずっと位置づけていたので。
――なるほど。書き物をする機会というのはかなり大事にされていた。
吉田 そうですね。ここでアカンかったら僕のせい。100%僕のせいなんで。逃げ場のない、言い訳でけへん場でした。まあだからこそ……もう5年で限界がきました。しんどいなぁ~なんでやってんねやろっていうのは毎月思ってて。ただ、書きだして原稿にできたときの充実感っていうのは、ちょっと他の仕事ではない。だから俺すごいなって何回も思うんです(笑)。
――今回の吉田さんのエッセイですごいなと思ったのが必ずオチがあったことでした。
吉田 決められた分量が、毎月原稿用紙最低8枚っていう約束やったんです。
――面白い表現です。吉田さんの場合は芸人として、そこは譲れなかった。
吉田「俺いま医者だとして、このまま腹閉じたらちょっと中途半端な状態で手術終わってしまうな」って思ったらもう書き直して。「はい、できた」ってなるまでやってましたから。そしてできたものは異常ツイートして、どぶ板告知していきます。
■「献本しない」相方・小杉ですら自腹購入?――本の告知に関連して、吉田さんは献本しないと聞いたんですが。
吉田「けんぽん」って言うんですか?

――はい。著者、出版社サイドから無償でお渡しする。
吉田 ああ、そうなんですか? たぶん僕は、それをすると相手に告知を求めてしまうんでしょう(笑)。逆に、本もらうことも多いんですけど、もらった時に「あ、これ読んで何かしらの感想を期待されてるな」っというのがちょっとイヤだったりもします。だから小杉にもあげてないですし、嫁にもあげてないんですよ。
――えぇ!
吉田 嫁、発売日に本屋で買いました。嫁がそれやったんで、もう小杉にもあげれなくなったなという。あ、本の中に出てくる後輩らには「やらなあかんのちゃうんか?」とは思いましたね。
――登場する人に贈るというのはセオリーではありますよね。
吉田 だから平松(えびす)とか橋本(烏龍パーク)とかにはお礼に本あげるかとも思ったんですけど。でもやっぱり(本を)あげないスタンスも取ってるし、俺の本に載ることだけでもアイツらにとってはプラスやろと思い込んで自分の中で折り合い付けてます(笑)。
つづく〈後編〉では本書の読みどころなどを聞いた。おばあちゃんとのマル秘エピソードも!