『同期のサクラ』
日本テレビ/毎週水曜 夜10時放送
“大手ゼネコンで同期入社をした北野サクラ(高畑充希)、月村百合(橋本愛)、木島葵(新田真剣佑)、清水菊夫(竜星涼)、土井蓮太郎(岡山天音)の5人。サクラの真っ直ぐな姿勢に、4人が心打たれて皆が自分の進みたい、進むべきに道に進んでいく。事故に巻き込まれて、9カ月間意識を失っていたサクラ。目覚めると、成長した同期たちの姿と、仕事も家族も体の自由さえも失った自分の姿があった。”
この秋のドラマでだいぶ泣かされた作品が終わろうとしている。自分の夢には忠実に、世間のマナー違反を正す。こんなカタブツヒロインが、最終回を目前に控えて再生しようとしていた。それでも全10話を通して、どれだけ世の人間がサクラに励まされたのかを記しておきたい。
第9話を見終えた感想をひと言でまとめるとするなら、消化不良だった。事故によって意識不明になり、目覚めたサクラ。
「私が行くところを自分の居場所にすればいいんだって、思ったからさ」
と進み出す。菊夫くんも新天地で自分の意見が言えるようになっていた。蓮太郎くんも理不尽な営業職を外れて、家族のためにも自分らしい仕事を探そうとしている。相談したのはサクラではない、愛する家族だ。葵くんも百合と結婚すること、仕事と真面目に取り組むことを決めた。
「これからはサクラにも言われように(仕事で)本物のリーダーになれるよう頑張ろうかなってさ」
放送時間を通して、今までのサクラらしいところが際立つシーンが少なく、本人と同様に寂しく思ってしまった。私は親ではないけれど、我が子が成長して自分の手を必要としなくなった時、嬉しさと同時に寂しさも味わう雰囲気と似ていた。自分が望まなくても時間だけは、全人類平等に与えられて過ぎていく。でもその時間の波に乗れるのかどうかは、悲しいかな本人次第なのだと思い知らされた気分だった。
ドラマだから4人が一気に成長をしたわけではない。30歳前後の人間が必死で生きていると9カ月間もあればだいぶ変わる。そんな昔のことも思い出した。出版社勤務で休みも睡眠時間も少ないのに、飲みにも行って、クラブで夜遊びをして、友達と遊んで、オタ活もして。フルタスクで生きておりました、私。今思うと信じられないけれど、生きようとする力が今の5倍はあった気がする。
■“忖度”という旨味を知ったサクラは自分を写す鏡最終回、サクラは意識不明によって解雇された大手ゼネコンに復職する。そこで自分が権力を持ち、忖度に素早く反応していれば、うまく生きていけることを知ってしまう。自分に嘘をついてしまう。その予告を見ながら、彼女が成長していくのだと、しみじみしてしまった。
両親を失って、祖父に育てられ、曲がることを知らずに上京したサクラ。同期4人は同じ時間を家族、恋愛、流行、仕事とさまざまな環境に囲まれて、湾曲して生きる。
この原稿を書きながら、私自身も迷ってしまった。ストレートか、うねってくねって進むのか、どちらが正しいのだろうかと。現状、自分に嘘はつかないで進んでいるけれど、すごく損をしているのではないかと思った。そんな時にふと思い出したのが、地元に住む姪っ子(9歳)からのFAX。このドラマを見て、じいちゃんのFAXに感動した彼女は、生まれて初めて知った通信機器にハマっている。そして送信するところがないので、毎度東京に伯母へ送られてくる。返信をしないと本気で怒られる。
「ママから頼まれたことがあるから、あとでFAXするね!」
と電話がかかってきたこともある。
「LINEと違って、ペンで書くから……なんか、嘘をつけないのがいい。じいちゃんも言っていたじゃん、嘘はダメって」
ああ、そうか。じいちゃんの文言、それがサクラの生き方。まだこの世に10年も生きていない子どもにも大きな影響を与えているのなら、それが迷う気持ちへの答えだ。