槇原敬之逮捕で考える<クスリ事件言い訳集>―長渕は不倫込み、...の画像はこちら >>
写真:アフロ

 槇原敬之が21年ぶりに逮捕された。所属事務所は「現在、詳細な事実確認を行 っておりますが、警察において取り調べ中のため、その状況の進捗を待っているところでございます」としたうえで、

「関係者の皆様、ファンの皆様に深くお詫び申し上げます」

 と、コメント。

ただし、本人の言葉はまだない。ちなみに、前回は判決直後に「お詫びと御礼」と題する直筆の謝罪文を発表した。彼はそこで、

「これからの人生の、良い教訓として生かして行ければと思っております」

「頑張って良い曲を作り、歌うことで、恩返しをして行きたいと考えております」

 などと語り、それを見事に実践してみせた。逮捕の3年後、SMAPのアルバム用に提供した「世界に一つだけの花」が注目され、やがて、平成最大のヒット曲となる。これにより、ある意味、みそぎも果たしたのだ。

 しかし、彼は謝罪文にこんなことも書いていた。

「寛大な判決が下りました今も、法を犯す事の重大さを痛感しております。今後は、絶対にこの様な事を起こさないことを、堅くお約束いたします」

 こちらの「お約束」については反故にしてしまったうえ「法を犯す事の重大さを痛感」についても今回、疑問の目が向けられている。謝罪文を発表後、制作会社などへのあいさつまわりをした際に「いや~運が悪かったよ」という軽い調子で関係者に話していたことをスポーツ紙が報じたのだ。

 その関係者は「その場では一緒に笑って合わせた」ものの「一緒に捕まった友人を事務所の代表に据えた時に、本当に反省していなかったんだなと確信した」という。

 また、この「友人」は同性の恋愛パートナーでもあったが、槇原は裁判で絶縁を宣言したにもかかわらず、自分からよりを戻したらしい。そして、06年から18年まで事務所の社長を任せた。

しかし、槇原が別の男性に乗り換えたことで、破局。今回の逮捕には、この元パートナーによる意趣返しが絡んでいるとの見方も出ている。

 さらに、槇原は音楽誌のインタビュー(04年)で前回の逮捕を「可愛い万引き」にたとえたりしていた。前出の「運が悪かった」とも相通じる発言だ。

 それにしても、せっかくの直筆謝罪文を台無しにしてしまったかのような今回の逮捕。では、他のミュージシャンの場合はどうだろう。じつは、逮捕後の言い訳にはその人の本質がにじみ出たりもする。というわけで、クスリでしくじった大物たちの言葉を集めてみた。

 まずは、長渕剛だ。この人が逮捕されたときには、不倫交際中だった国生さゆりまで尿検査を受けさせられた。背徳がふたつ重なったうえ、ああいうキャラなので、なかなか大げさなことを言っている。

「まだまだ、愚劣な私ではありますが、どうかあと10年『死』という安らぎへの原点回帰までのチャンスを下さい」

 10年後に死ぬ覚悟でもしていたのか、よくわからないものの、とりあえず、この人ならではの気合は感じられる。

 一方、お気楽なのが井上陽水。自分の事件が報道されているのを見ても、

「あんまり自分だっていう感じはしないんですよ。『ああ、陽水さん、かわいそうに』ってなもんで(笑)」

 と言うほどなので、罪悪感などはほとんど伝わってこない。事件後初となったアルバムに「"white"」というタイトルをつけ「まあシロというわけじゃないですけどね、クロなんだから(笑)」とギャグにもしていた。

 彼によれば「マリファナというのも一種の災害」にすぎず、マイナーな災害なので国家も守ってくれなかったとのことだ。

 これと似ているのが、ASKAである。クスリを始めたきっかけについて、英国に行った際、現地スタッフに「いらない?」と奨められたとして、

「僕は今『出会ってしまった人』という言い方をしていますが『それ』が『それ』だっていうのは知らなかった。別のものだと理解していたので。『それ』だって聞いたときには、どこかで観念したところもあるんじゃないかな……」

 と、他人事みたいに振り返った。また「やめられる人とやめられない人の差」を聞かれ、こんな分析を披露。

「僕は『川を越えちゃった人』という言い方をしています。境界線があって、やらない側にいる人には何もわからない。

何かの弾みで向こうに行っちゃった人は、その人だけが知る世界があって、いつでも戻ってこれると思っている。だけど、戻ってこさせてくれない空気が世の中にあり、自分はいつでもやめられるという気持ちがどこかにある、そういった状態が続くんです」

 この「戻ってこさせてくれない空気」というのはなかなか意味シンだ。いろいろと深読みできそうである。

 かと思えば、美川憲一のように復活後の自分を正当化するために活用している人もいる。二度捕まったあと、豪華衣裳をウリにして「紅白」の常連に返り咲いたが、こんな発言をしてみせた。

「私はお客様に夢を売る商売でしょ。だけど、あるとき、現実での醜い部分を見せちゃったのね。だから、そのハンデを取り返すためにも、ぜいたくで華やかで夢のある私を見せたいの」

 たしかに、同じくスネに傷を持つ人にとっては夢のような復活かもしれない。

 また、謝罪のために、生涯唯一の歌番組出演をしたのが尾崎豊だ。生放送の「夜のヒットスタジオ』に登場して、

「ご心配をおかけしました。僕の素直な気持ちを曲にして、これからずっと歌っていきたいと思っています」

 と、あいさつ。拘置所の中で作ったという「太陽の破片」を歌った。

「昨晩(ゆうべ)眠れずに」とか「欲望と戦った」といったフレーズが出て来る内省的バラードだ。ただし、彼はその4年後、急逝、死因は覚醒剤中毒が有力視されている。

 そんな尾崎のトリビュートアルバムで「太陽の破片」をカバーしたのが、岡村靖幸である。それ以前に一度、それ以降に二度逮捕され、三度目のときには公判でこう語った。

「本当は出所後にカウンセリングを受け、完治した後に仕事をするべきでしたが、待っているファンの期待に応えたいという一心で仕事を始めてしまいました。活動再開後もインターネットでファンの批判の声を見るなどし、期待通りの活動ができていないことに悩むこともあり、また不眠不休で働いていたこともあり、プレッシャーに負けて覚醒剤に手を出してしまいました」

 そして「自分の今の気持ちを詩にしました」として、それを読み上げた。

「裸足で氷の上を歩くようにしかコミュニケーションを取れない僕 裸足で氷の上を歩くようにしか人を愛せない僕 なぜだろう 皆はすらすらっとプロスケーターのように滑るのに 僕はすってんころりん(略)時代とうまくやっていけない 友達とうまくやっていけない というか友達がいない 生きていていいのだろうか 今まで人にホントのことを話したことがない ホントの僕は君と川を泳ぎたい 真夜中に泳ぎたい 裸で泳ぎたい」

 傍聴人がブログに聞き書きしていたのを引用抜粋したものなので、表記など正確ではないかもしれない。が、クスリに走る人の切実な苦渋は伝わってくる。ここから約12年、岡村が逮捕されていないのは、こういう詩で自分の思いをさらけ出したこともプラスに働いたのだろうか。

 話を槇原に戻すと、かなりの確率で彼はいずれコメントをするだろう。ただ、再犯とあって、前回と同じような内容では、誰より本人が納得しないはずだ。Jポップ有数の詩人でもある彼がどんなことを言うのか、期待したいと思う。

多くのミュージシャンにとって、逮捕の言い訳は再スタートを切るための最初の自己表現なのだから。

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