「私は、資本家になるなんて大それた夢は無いから、労働者として日々安心して暮らしていければ良い」という人が大多数だと思います。そんな人に対しても、私は投資やビジネスを学び、労働者として働きながらも、資本家として、不労所得(自分が働かずに得るお金)を確保していくことを強くお勧めします。それはなぜか?
2014年末に『21世紀の資本』という世界的ベストセラーを出版したフランスの経済学者、トマ・ピケティ。2015年に来日し、マスコミに大々的に取り上げられましたので知っている方も多いと思います。彼の理論は、「 r>g 」という一つの不等式に要約されます。rとは「資本の利回り」。事業の利益や配当、利子、賃料などが含まれます。gとは経済の成長率。
例えば2020年にある富裕層の息子Aが相続で得た資産5,000万円を株式や債券等への投資にまわし、1年間で5%の利回り250万円を得たとします。
Aはサラリーマンとして年間500万円の給与も得ています。
その友人である同僚サラリーマンBは、Aと同じく500万円の給与を得ているとします。Bには副収入はありません。彼らの収入はこの時点で1.5倍です。
その後、富裕層の息子Aの収入は、給料の部分は、友人サラリーマンBと同様、年間1%程度でしか増えませんが、親からの遺産は5%ずつ増え続けます。1%も5%も皆さんはわずかな差と感じるかもしれません。
しかしこれが10年、20、30年と続くと非常に大きな差が生まれます。

これが資本主義の現実です。これこそが資本主義社会が生む格差の真因なのです。なぜこれほどまでに格差が拡大するのでしょうか? ポイントは、二人の給料はこの30年で1.3倍にしかならないのに、Aの遺産の運用による収入は、5%ずつ複利で成長するため4.1倍にもなる点です。【注釈(*2)参照】
普通の人は自分の資産や親から貰った遺産などは公言しません。でも上記Aのような人は世の中にはいくらでもいるのです。だから1,000万円以上もする高級車が普通に街中を走っているのです。あなたがもしBの立場なら、一所懸命働いても、給料を増やすことでAとの格差2.5倍を埋めることは難しいということはわかっていただけると思います。
ピケティによれば、経済が低成長になればなるほど、r>gの傾向が強まり、主に資産運用で収入を得る資本家/富裕層と、労働者の格差は大きくなります。これからの日本経済は長く低成長の時代が続くと言われています。そんな時代では、自らの収入を労働者としての給料だけに依存するのは非常に危険です。収入のすべてを給料に依存していれば、収入が増えないだけでなく、病気や離婚、家族の病気など、ちょっとした不幸で一気に貧困層に落ち込む危険があります。
〇遺産の利回り5%は、米ドル建ての社債での運用を念頭に設定。現在の私の外債の平均利回りを参考にした。株式投資や不動産投資の可能性を考慮すればより高い設定も可能だが、その分リスクも増すため、この程度が妥当と考えた
〇富裕層の息子Aは、生活費には給料をあてることで、遺産5000万円を複利で運用すると仮定している
〇グラフの元になるデータは以下の通り


私が一昨年まで12年間を経営者として過ごした台湾の人々は、この現実を経験則として知っています。だからこそ、皆が真剣に投資に向かいあっています。趣味の集まりであれ、親戚の集まりであれ、話題の定番はいつも「投資」です。「日本で不動産を買うにはどうすれば良い?」「今度一緒にこんな事業をやってみない?」そんな話題が普通に交わされています。日本の証券取引所の売買代金における個人投資家の比率はおおよそ20~30%程度、一方台湾の証券取引所における個人投資家のシェアは昨年9月末の数字で57.8%!【注釈(*4)参照】
私にはこの数字がそのまま、両国の投資リテラシーの高低を示しているように思われます。
一方、台湾で日本人駐在員が集まる居酒屋に行くと、至る所で「台湾人は働かない」という愚痴が聞こえてきます。
彼らは、「仕事よりも家族」という価値観が共有されています。「昇給につながらないような残業で家族を犠牲にする」なんて彼らにはありえないことなのです。一方、家族のためになることなら、目の色を変えて頑張ってくれます。自らの職務内容が明確で、仕事の成果が昇給につながることが信頼できる場合、台湾の人々は驚くほどよく働きます。私たちの会社でも、従業員のモチベーションに頭を悩ませていた時期がありました。しかし一人ひとりの職務内容を文書化した上で評価制度を厳密にし、それまで年に一度しかなかった昇給のチャンスを、アルバイトは月に一度、副店長以下の店舗スタッフは半年ごとに行ったところ、飛躍的なモチベーションの向上が実現できました。
かつて私たちの会社が増資を行った際、従業員向けの増資枠を設けて出資を募ったところ、想像を超える金額が集まりました。年収を超える金額の出資を引き受けてくれたある若手社員に「これだけの大金、どうしたの?」と質問したら、「両親や親戚が貸してくれました」とのこと。
最後に一言申し添えたいと思います。連載第2回、第3回と資本主義について話をしてきました。誤解を招いているかもしれませんが、私は資本主義を信奉しているわけではありません。今よりも、人々がより平等で、お金に縛られない社会が理想です。人間はお金のためではなく、社会のため、自らの理想のために人生を生きるべきだと思います。資本主義が生み出す格差を是正するために、残りの人生で何らかの貢献が出来れば、とも考えています。
しかし、資本主義社会は現実です。現実からは逃げられません。だからこそ資本主義社会のルールと向かいあい、学んできました。
(*4)「台湾証券取引所HP日本語版」https://www.twse.com.tw/jp/page/about/company/guide.html
より引用