ついに政府は緊急事態宣言を正式に発効。世界では都市封鎖とともにコロナ・パニックともいえる自粛要請によって休店休業、突然解雇の大騒動などが報じられ、感染不安とともに社会・経済の崩壊を憂える過剰な不安が日々増している。
この事態を「パンデミック・ヒステリー」と呼んでいるのが、著述家の藤森かよこ氏(福山市立大学名誉教授)。初エッセイの『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください。』(KKベストセラーズ)が現在ベストセラーで話題となっている。そんな藤森氏がパンデミック・ヒステリーに陥らないための「コロナ世界の読み解き方」を伝授。題して「コロナ陰謀論の効用」とは?■インフォデミックは陰謀論(権力者共同謀議説)をもつかむ
「パンデミック・ヒステリー」を回避する! 陰謀論追っかけの効...の画像はこちら >>
新型コロナで緊急事態宣言を発令へ。小池都知事が会見。
なぜかはしゃいでいるように見えてしまうのはカイロ大学首席卒業ゆえか……。写真/アフロ

 ここ2か月ほどは、新型コロナウイルスに関する情報を漁るのに忙しかった。インフォデミック(デマ情報感染症)になりかけていたかもしれない。

 まずこの感染症の名称がややこしい。最初は「武漢肺炎」(Wuhan pneumonia)と呼ぶ人が多かった。ところが、特定地域に悪しきイメージを与えるし差別的であるという理由で「新型コロナウイルス」と呼ばれるようになった。

 

 コロナウイルスというのは変異が多いタイプのウイルスなので、いつも新型のようなものだから、「新型コロナウイルス」という名称はふさわしくないという意見も聞いた。

 ウイルスの正式名はSAR-CoV-2であり、このウイルスによる症状である急性呼吸器症候群で、かつ2019年に中国から発生したものをcovid-19と呼ぶのだから、両者をごっちゃにしてはいけないということも知った。

 よく「いい加減なネット情報ではなく、専門家による正確な情報を調べましょう」と言われるが、感染症研究者などの専門家の言うことも一律同じわけではない。収束時期の予測もバラバラだ。「収束」と「終息」は違うのであって、「収束」はあっても、ウイルスと人類の攻防(共存?)に「終息」はないということも知った。やれやれ。

 いろいろ情報を漁っていると、「どうしてこんなことになったのだろうか?」と犯人捜しをしたくなる。半信半疑ながら、つい陰謀論(権力者共同謀議説)に踏み込んでしまう。

 

◆新型コロナウイルスは中国製かアメリカ製?

 たとえば、「新型コロナウイルス」は、人為的に作られたものという説が1月末に現れた。インドの科学者たちが、新型コロナウイルスのタンパク質配列にHIVウイルスと似たタンパク質が含まれていると発表した。(https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.01.30.927871v1)しかし、インドの科学者の論文は、多くの批判を浴び、すぐに撤回された。

 もしインドの科学者の説が事実ならば、誰が人為的にこのようなウイルスを作ったのか?

 発生地の武漢の生物科学研究所の実験動物の肉が売買されて食されて人間に感染したのか? それとも、秘密の生物化学兵器として開発されたウイルスが漏れてしまったのか?

 

 しかし、このウイルスはアジア人に多いACE2遺伝子を受容体にして細胞に侵入する。

このACE2によく似た酵素が発見されたので、この酵素が新型コロナウイルスによって引き起こされる症状の緩和に役立てるかもしれないという発表を秋田大学の医学部がしたのだから、これは事実だ。
https://www.akita-u.ac.jp/honbu/event/item.cgi?pro3&857

 アジア人に多い遺伝子を受容体にするようなウイルスを中国が開発するはずがない。ならば、これはアジア人人口削減が利益となる非アジア系研究所の開発したものなのだろうか?

 案の定、このウイルスはアメリカで開発されたものであり、2019年に武漢で開催されたミリタリーワールドゲームに参加した米軍兵士がウイルスを仕掛けたのだという説が出た。(https://www.ibtimes.sg/us-military-brought-coronavirus-china-top-official-refers-military-games-wuhan-2019-40911

 それに関連していなくもないような事件も起きた。1月28日に、ハーバード大学の化学&化学生物学部の学部長であるチャールズ・リーバー教授が、中国政府に協力し、アメリカの安全保障を脅かしたとして起訴された。大学からは無期限の休職処分を受けた。

https://www.bbc.com/news/world-us-canada-51288854

 リーバー教授は、アメリカ国立衛生研究所や国防省から1500万ドル(16億3600万円)を超す助成金を得ながら、武漢理工大学の教授にも就任し、月給5万ドル(550万円)と生活費15万8000ドル(1700万円)支給され、かつ研究所設立費用として150万ドル以上を支給され、中国の「千人計画」に協力していた。しかし、その件についてハーバード大学に申告していなかった。

「千人計画」とは、優秀な中国人科学者が留学先の欧米に定住することを防ぐ中国の最高頭脳流出防止計画である。FBIは、アメリカの中国人科学者たちが何十年にも渡りアメリカの科学技術を窃盗しスパイ行為を働いてきたと考えている。

 この事件は、アメリカによるウイルス研究の成果が武漢で詐取された可能性を示唆している。ただし、新型コロナウイルスがアメリカ製とまでは示唆していない。

■ウイルスワクチン販売促進のための都市封鎖という陰謀?

 今のところ、新型コロナウイルス感染を原因とする死亡者数から判断する限りは、日本の感染状況は決して深刻ではない。

 しかし、「早く都市封鎖をしろ」とWHOが急に世界に勧告し、アメリカ政府が日本在住のアメリカ人に帰国を促し、日本の野党も急にしきりと都市封鎖を訴えるようになった。今にも日本に感染爆発が起きるのが自然の成り行きかのような切羽詰まった空気が醸成された。

 4月7日に安倍首相は「緊急事態宣言」を七都道府県(東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡)を対象に行った。これは都市封鎖ではない。公共交通機関は運行し、スーパーマーケットなどの営業は通常どおりである。

 

 今のところワクチンも開発されていないのだから、治療法がないのだから、イギリス政府が一度は採用した「集団免疫の形成」しか対処法はないと思える。(https://news.yahoo.co.jp/byline/onomasahiro/20200315-00167884/

 この政策に対して、メディアは「集団免疫策は殺人政策」であり倫理的に問題があると非難した。ウイルスの専門家からは新型コロナウイルスに対して長期的な免疫が成立するかどうかはまだ不明であるという批判も出た。結局は、この「集団免疫策」を、わずか5日後にイギリスは撤回した。

 

 しかし、ほかに有効な策があるのだろうか。もちろん、自然な集団免疫形成には半年ほどの時間が必要ではあるが。その期間は、基礎疾患を持つ人々や免疫力の低い高齢者は外出しないようにしなければならないが。

 この都市封鎖政策についても陰謀論がある。都市閉鎖をせずに人々を放置すると、年内に集団免疫ができてしまい、新型コロナウイルス危機が解決してしまうので、医薬品業界がせっかくワクチンを開発しても売れ行きが悪くなる。だから、各国政府に影響力が大きく、かつ医薬品業界の大株主であるエリート層が各国政府に強い圧力をかけ、世界中の大都市で閉鎖政策をやらせ、集団免疫形成を阻止しているという説である。(http://tanakanews.com/)(https://www.zerohedge.com/geopolitical/did-bill-gates-just-reveal-real-reason-behind-lock-downs

 ワクチンの効果や副作用については5年間ほどの観察期間が必要であり、開発されたからといって、すぐに実用化されるのは、いくらなんでも2020年中は不可能だと思われるので、この陰謀論には、あまり説得力がない。しかし、医薬業界は利益のためならば何でもするという前提には説得力がある。

■グローバリズムはパンデミックを不可避に生む

 ところで、20世紀に入ってから突発的に流行しパンデミックになる感染症が増えたのはなぜか。「スペイン風邪」と呼ばれるインフルエンザが1918年から20年の間に猛威をふるい世界で5000万人の死者を出した。1980年代にはエイズがあった。21世紀になってからは、エボラ出血熱だのデング熱だのSARSだの。そして今は、新型コロナウイルスだ。人体に影響はないとはいえ、鳥インフルエンザに豚熱(旧豚コレラ)の日本における流行もあった。

 20世紀に入ってから、特に21世紀に入ってから突発的に流行する感染症が増えた理由ははっきりしている。グロ―バリズムだ。

 感染症は、人の交流がなければ広がらない。ひとつの大陸や島の中で感染拡大しても、海に隔てられれば、それ以上は伝染しない。交易を求めて、植民地を求めて、新天地を求めて、人が移動すると感染症も移動して、パンデミックとなる

 アメリカ南北の先住民族が滅ぼされたのは、ヨーロッパ人がもたらした天然痘のせいで弱体化されていたからだ。15世紀末にヨーロッパに梅毒が突発的に出現し流行したのは、アメリカ大陸に渡った探検隊員がヨーロッパに持ち込んだという説がある。ベーリング海峡を渡りシベリア経由でヨーロッパに入ったという説もある。

 

 石弘之は『感染症の世界史』(洋泉社、2014・角川ソフィア文庫、2018)において、中国は昔から感染症の発生地域であり、将来もまたそうなる可能性が高いことを指摘した。

 なぜならば、世界史上3回発生したペストの世界的流行が遺伝子分析から中国が起源であると判明しているからである。シルクロードの交易商人からヨーロッパにもたらされたのである(https://www.afpbb.com/articles/-/2772233

 スペイン風邪がパンデミックになったのは、第一次世界大戦中に軍の海外派遣という人の移動があったからであった。米軍と英軍が、軍属労働者として、約96,000人の中国人を募集雇用し、その当時に中国で流行していたインフルエンザが、まず米軍に広まったという説もある。(https://www.nationalgeographic.com/news/2014/1/140123-spanish-flu-1918-china-origins-pandemic-science-health/

 

 中国の「感染症の巣窟」性は、現代において一層に高まっている。13億4000万人の人口を抱え、その経済活動は世界を股にかけている。ツーリズムが盛んである。春節には3億人が国内旅行し、1億人が海外に出る。

 しかし、防疫体制は遅れているし、トイレの不潔さに見られるように公衆道徳の水準はまだ低い。慢性的な大気汚染や水質汚染があるので、呼吸器が損傷し、病原体が体内に侵入しやすい。

 つまり、中国は感染症が拡大する条件がそろい過ぎている。したがって、陰謀論など持ち出さなくても、武漢に新型コロナウイルス感染が始まり、世界に拡大したのは不思議ではない。中国は、昔も今もローカルな感染症をパンデミックにしやすい地域なのだ。

■陰謀論の種は尽きない

 新型コロナウイルスが人為的に作られたかどうかの問題はさておき、目下のパンデミックが経済危機をもたらすであろうことは確実だ。このパンデミックによる経済活動の低下により税収は激減するどころか、経済活動低下による損失補償を政府は企業や国民に提供しなければならない。

 ただでさえ、パンデミックが起きる前から、経済危機が起きることは話題になっていた。だからこそ、世界を牛耳る超特権層が、前々から予測されている(リーマンショックを超える)経済危機の責任を負わずにすむように、またも税金から自分たちを支援させるように、このパンデミックを利用しようとしているという説も出ている。(https://www.alternet.org/2020/03/we-know-this-script-naomi-klein-warns-of-coronavirus-capitalism-in-new-video-detailing-battle-before-us/

 2019年秋以降は、アメリカの有名企業のCEOが辞任する事件が数多く起きた。また、CEOやCFOの株式売却も多かった。(https://corporatebytes.in/ceos-who-quit-their-jobs-in-2019/

 この現象などただの偶然とは思えない。2020年のパンデミックを予期して、泥船になりそうな企業経営の責任から逃げたのではないかと疑われるのも無理はない。

 

◆混沌とした世界を理解する一助としての陰謀論

 パンデミック・ヒステリーにならないために、しかしインフォデミック(デマ情報感染症)に陥らないように、私は新型コロナウイルスをめぐる陰謀論を追いかけた。

 そうすることによって、私が得た認識は次のようなものだった。個別の陰謀論の是非や信憑性はさておき、陰謀論は「物語形成」である。物語形成とは混沌とした世界の諸現象からプロットを抽出し構成することだ。この観点からみれば、陰謀論は必ずしも無駄なことではない。

「事実を把握し、適切に判断すること」など容易にできそうもない情弱な一般庶民にとっては、「事実を把握し、適切に判断すること」へ通じるための回り道や寄り道としての陰謀論の効用はある。新型コロナウイルスパンデミックという現象の表面に翻弄され、不安になり、無駄に消耗するよりは、はるかにましではないか。