英国のEU離脱など、世界情勢の大きなうねりを読み解いてきた、エマニュエル・トッド理論。それを学ぶ意義はわたしたち日本人にとっても大きい。
新刊『エマニュエル・トッドで読み解く世界史の深層』を上梓した鹿島茂氏が、トッドの家族システム理論から日本を見通すことの重要性を解く。家族類型を知ること=「動かしようのない事実」を知ること
エマニュエル・トッド理論から解く日本「組織ができれば必ず直系...の画像はこちら >>
 

 そうですね。「日本は直系家族である」ということを学ぶのは、「人間は死ぬべきものだ」ということを認識するのと同様に、動かしようのない事実を知ること。知ってもどうしようもない決定論だ、という人もいるかもしれません。

 しかし、それを知ることによって、直系家族的な悪弊に陥りやすい事象から避けることができるのではないでしょうか。会社にしてもなんにしても、日本では組織ができれば必ず直系家族的な思考が支配します。創業社長やカリスマ性のある人がいなくなると、みんな小物になってそうなりやすいですね。

 まずは自分の家庭のことを考えてみても、役立つケースは多いと思いますよ。家庭のない人はいないですからね。「私は孤児です」というような人だって、自分は家庭を築かなくてはならなりませんから。

日本における直系家族は院政後期の京都で生まれた

 日本における直系家族の成り立ちをここで押さえておきましょう。

 そもそも日本で直系家族が生まれたのは院政(平安時代末期から鎌倉時代が始まるまで)後期の京都を中心にした西日本。

それが鎌倉時代の東国武士の誕生によって原理的・理念的に強烈な形で北東部に植えつけられていった。直系家族から排除された次男、三男が新たな土地を求めて北東部に行き、より先鋭的な形で直系家族制度を原理的に根付かせていったといえる。そこでは土地はたくさんあるのだから平等分割に、ということにはならなかった。

 そのため、北関東は直系の縛りがかえって強いですね。それと比べて日本の南西部は起源的で直系と関係がない核家族が半分ぐらいと考えていい。起源的というか、正しくは「双拠居住型」(夫の親族のもとに住む、妻の親族のもとに住む。いずれかの選択が可能)というべきかな。

 まあ、直系家族というのは江戸時代に理念的に成立したものなんですね。徳川幕府はそれまでの核家族的なモノを全部排除して、支配を容易にするために直系家族理念を前面に押し出した。三河や尾張と縁が深い徳川は必ずしも直系家族ではなかったとみられますが、家康は東国武士の理念を支配するためにうまくこれを使うようになった。言ってみれば日本の直系家族は徳川家康が設計したようなものです。

 こうしたいま自分たちが生きている国の家族類型、その歴史を知ること。

こうした前提知識が人生の選択の幅を広げてくれます。

 

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